デジタルカメラやスマートフォンでは、撮影した写真の記録形式として「JPEG」のほか「RAW」という設定項目を選べることがあります。RAWは一言でいえば「撮影画像の生データ」。データ容量が大きいかわりに、JPEGよりも多くの情報を持っている未圧縮の画像ファイルです。
RAWはほかの画像ファイルに比べて特殊で、専用のソフトが必要になるなど扱いも難しく、「すぐ見られなくて面倒くさそう」「難しそう」といった理由で、RAWでの記録を敬遠している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「Lightroomではじめる 風景写真RAW現像テクニック」では風景写真をメインに、RAW現像ソフト「Lightroom」を使ったプロの現像テクニックを紹介。作例とした写真表現の方向性に「威風堂々」「爽快感」「幽玄」といったテーマを設定し、写真を調整する際の考え方や具体的な手順を学べます。
本記事では第4章「上級編」より、「緑映」をテーマにした作例の調整について解説します。
緑輝く渓流のほとりに佇むクリンソウの、孤高の姿を慈しむ
梅雨の合間の晴れ間のことだった。奥深い渓流沿いの林道を走っていると、緑の中にぽつんと小さく赤いものが見えた。いそいそと車を降りて確認すると、それはクリンソウではないか。しかも都合よく対岸の緑が美しく水面に反射して輝いて見えている。風景は一期一会、これを逃したら後々後悔するだろう、そう確信して望遠レンズに付け替えて構図を作り込む。
この日は幸いなことに風はない。そこで緑の映り込みを、よりなめらかに美しく表現するため、2秒という露光時間をかけて撮影した。RAW現像でコントラストや明るさを調整しながら、映り込みを色鮮やかに表現しようと考えた。
Before(現像処理前)
水面への映り込みは長時間露光をすることで、オイルを流したようななめらかさが得られる。そこからより鮮やかな光沢感を得るためにはRAW現像による調整が必要となる。撮影時のデータは多少くすんでいても、明るさやコントラストは後から調整すればよい。
After(RAW現像)
- 川岸に佇むクリンソウ。緑の中にあって赤い色は補色関係にありとても目立つ。そのため、あえて花を大きくフレーミングすることなく小さめに配分しても、その存在感は強烈にアピールする。そこで、ぽつんと佇む印象を強調するため、この配分にしている。
- 渓流などの水面は、秒単位で露光時間をかけると水面の表情がなめらかになり、光沢感のある金属の表面のようになる。それを実現するためにNDフィルターを使用している。特に画面上に見える瀬の部分がきめ細かくなめらかな印象になっていることがおわかりいただけるだろう。
Step1
日陰を流れる渓流での撮影だ。背景には明るい映り込みを選んだこともあり、画像全体が若干暗く写ってしまっている。そこでまずは全体の明るさを調整する。
Step2
映り込みの輝きは明暗さがあってこそ、美しく表現できる。全体的な明るさはほどよくなったが、暗部が明るくなることでコントラストが低下したように見える。そこで「コントラスト」で明暗さを強調する。
Step3
全体的な明るさは良くなってきたが、映り込みの透明感が今一つ。そこで、白レベルを調整して水の透明感を引き出す。
Step4
映り込みがだいぶ明るくなってしまった。そこで映り込みだけの明るさを調整したい。フキの形が複雑なため、ここでは段階フィルターではなく補正ブラシを使用する。