デジタルカメラやスマートフォンでは、撮影した写真の記録形式として「JPEG」のほか「RAW」という設定項目を選べることがあります。RAWは一言でいえば「撮影画像の生データ」。データ容量が大きいかわりに、JPEGよりも多くの情報を持っている未圧縮の画像ファイルです。
RAWはほかの画像ファイルに比べて特殊で、専用のソフトが必要になるなど扱いも難しく、「すぐ見られなくて面倒くさそう」「難しそう」といった理由で、RAWでの記録を敬遠している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「Lightroomではじめる 風景写真RAW現像テクニック」では風景写真をメインに、RAW現像ソフト「Lightroom」を使ったプロの現像テクニックを紹介。作例とした写真表現の方向性に「威風堂々」「爽快感」「幽玄」といったテーマを設定し、写真を調整する際の考え方や具体的な手順を学べます。
本記事では第3章「中級編」より、「温度感」をテーマにした作例の調整について解説します。
薄氷と水の道の温度感を伝える、凍えるような青色を添えて……
氷柱の撮影に出かけた際に見つけた小さな風景。少し歩けば巨大なアイスパレスがあるのだが、足元に広がる何気ない風景に惹かれ、様々な表現に挑んだ。とくに惹きつけられたのは、薄氷と水の道が作る美しいハーモニーだ。薄氷に接近して氷の世界を撮影することもできたが、両者が一体となって作っている「風景」そのものに興味がわき、このような構図を考えた。撮影中は、手前の薄氷を壊さないように気をつけ、アングルを変え、カメラの縦横を変えながら何枚も撮影した。凍えるような空気の中の撮影だったこともあり、その空気感、温度感を伝えるRAW現像を行っている。
Before(現像処理前)
薄氷の美しさ、流麗な水の道、それらが青い時の中で調和している様子を描くことが狙い。RAW現像では、頭の中に思い描く「青い時」を再現することが最重要課題となる。とはいえ、それは難しいことではなく、「色温度」の調整を覚えれば誰でもできる。
After(RAW現像)
- 画面の左上方向は明るく、右下方向は暗い。そのため、光を受けている左上の氷は白飛びしやすい状況だ。それを踏まえて、あまり明るくならない露出を選んでいる。
- 水の流れを形作っている3つの氷を画面の中でバランスさせることが構図の決め手の1 つ。奥行きを出すために、上の氷は左上隅へ抜けるように意識している。
- 左上、左下、右端へと水の入り口や出口を配置しているが、もっとも気にかけた部分は、左下隅へ抜ける水の方向性だ。左上隅へ抜ける氷と、左下隅へ抜ける水の2つで画面全体の美しさを整えている。
Step1
全体の色味をどのタイミングで決めるかは、調整のしやすさによってそれぞれ違う。この場合は「青い時」がもっとも重要なファクターであり、最初に決めると後の流れがスムーズになると考えたので、最初に行っている。
Step2
氷の白さや透明感を表現するには、ヒストグラムの山を右側へ広げることがポイント。そのために使う調整項目はここでは「白レベル」が最適と判断した。
Step3
白い氷と黒い水は、コントラストを持たせたほうが互いの存在感が強くなる。そこで「明瞭度」を使うことで、白も黒もメリハリを付けるように調整した。
Step4
STEP-3で「明瞭度」の調整をしたことで、左上隅の氷が少し白飛びしかかったので、「ハイライト」を使うことで白飛びを抑える調整を行った。