大村祐里子の露出レシピ
第2回

光を知り作品作りに活かす!露出計の存在意義とは?

写真はカメラ、スマホ任せでシャッターボタンを押すだけできれいに撮れる世の中になりました。しかし、それで本当に自分の表現したい写真を撮れているのでしょうか?
写真家の大村祐里子さんは、『「光」をよく知ること、「光」を読むこと、そして「光」を作ることで写真が変わる』と言います。カメラ任せではなく、自分の目で被写体をよく見て、そこから表現したい光を作っていくことがプロの技なのです。
この連載では、シェフに扮した大村祐里子さんが、料理をするのではなく、撮影テクニックとしての露出のレシピを公開していきます。

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第2回目では、前回に引き続き、露出計を使って身近な被写体の露出を計ってみます。第1回目では草木を多く被写体にしていたので、今回はそれ以外のものを選んでみました。そして、露出計の存在意義についても、少し踏み込んでお話をさせていただこうと思います。

 

今回使用する機材
セコニック フラッシュメイト L-308X

フラッシュメイト L-308Xは、2018年2月に発売されたベーシックな露出計です。入射光式、反射光式をワンタッチで切り替えられます。ポケットに楽々収納できるほどコンパクトで軽いのが特徴です。操作が簡単でありながらも、あらゆるシーンに対応できる機能を搭載しているので「露出計が欲しいけれども何を買ったら良いかわからない……」という方にイチオシです。

 

セコニック L-308Xの使い方

1. 左上の電源ボタンを押して、電源をONにします。
2. そのまま使用すると「入射光式」、光球を横にスライドさせると「反射光式」の測光となります。今回の記事では「入射光式」で測光するので、光球は動かさずにそのままにします。(写真の位置)
3. 「ISO」ボタンを押しながら、右側面にある矢印ボタンを操作して、使用するISO感度を設定します。
4. 「MODE」ボタンを押すと、測定モードを切り替えることができます。定常光をシャッタースピード優先で測定したい場合は、太陽マークと「T」が選択された状態にします。定常光を絞り優先で測定したい場合は、太陽マークと「F」が選択された状態にします。
5. 右側面の測定ボタンを押して、測光します。

L-308Xを使うにあたり覚えておきたいこと

測光したときに、F値(絞り)が「5.6 3」のような値になることがあります。これは「5.6コンマ3」と読みます。「5.6 3」は5.6と8のあいだ、ということになりますが、具体的にはどのような値になるのでしょうか。

以下の図をご覧ください。

図をみると、「5.6 3」はだいたい「F6.3」ということになります。そこで、露出計でF値が「5.6 3」と表示された場合は、カメラ上では「F5.6」ではなく「F6.3」と設定した方がより正確、ということになります。

最近のデジタルカメラでは、設定を行うと、絞りを1/3段ごとに表示させることができます。カメラ上で、絞りが「4.0」「5.6」「8.0」などと1段ずつしか表示されない場合は、1/3段ごとの表示に変更してください。

測光したときに、F値は「5.6」「8.0」などとピッタリではなく、「5.6 3(5.6コンマ3)」「8.0 5(8.0コンマ5)」とコンマつきで表示されることも多いので、正確な露出を知るためにも、上記のことは是非覚えておきましょう。

L-308Xもカスタムファンクションで1段、1/2段、1/3段の表示切替が可能です。

 

ダイニングバーでカクテルを撮る

撮影協力:ガゼルエイト

素敵なバーで、カラフルなカクテルを作っていただきましたので、早速、撮影することにしました。と、その前に!L-308Xを使って露出を計ってみます。測光方法はわかりやすく「入射光式」にしてみます。

暗いのでISO感度は1000、定常光・シャッタースピード優先のモードにします。シャッタースピードは手ぶれしないギリギリの「1/60」を選びました。測光してみると、F値は「1.4 0」と出ました。背景を大きくぼかしたかったので、そのまま「F1.4」を採用してシャッターを切りました。イメージ通りの仕上がりになりました。

 

【シェフゆり子の調理結果】光を判断して露出を決めて撮った

F1.4 1/60 ISO1000 WBマニュアル

 

バーカウンターでメタリックなシェイカーを撮る

バーカウンターの上に並べられたシェイカーがメタリックで綺麗だなと思ったので、こちらも撮影してみることにしました。このシェイカーたち、よく観察してみると、向かって左側からライトが当たっています。光が当たっている部分(ハイライト部)は明るく、当たっていない部分(シャドウ部)は暗くなっています。定常光・絞り優先のモードで計ってみました。

今回は、真ん中のシェイカーをメインの被写体としたいと思います。まずはハイライト部で測光してみます。

F1.4 1/125 ISO1000 WBマニュアル

すると、ISO感度1000、シャッタースピード「1/125」、F値は「1.4 1」と出ました。「1.4 1」は「F1.4」と捉えて良いと思ったので、その設定で撮影しました。

光の当たった部分が中庸な明るさで写るので、全体的に暗い雰囲気に仕上がりました。

F1.4 1/60 ISO1000 WBマニュアル

次に、真ん中のシェイカーのシャドウ部を測光してみます。ISO感度1000、シャッタースピード「1/60」、F値は「1.4 1」と出ました。影になった部分が中庸な明るさで写るので、先ほどの一枚よりも全体的に明るい雰囲気に仕上がりました。

どちらの表現が良いかは撮影者次第です。正解はありません。

 

カフェでスイーツを撮る

窓際から柔らかい自然光が差し込むテーブルの上に乗った、美味しそうなケーキを撮影してみます。よく観察してみると、ケーキの背後から光が差しこんでいます。手前のショートケーキは暗く(シャドウ部)、奥のテーブルは光が当たって明るく(ハイライト部)となっています。

 

今回は、手前のショートケーキをメインの被写体としたいと思います。ショートケーキの前で測光してみると、ISO感度640、シャッタースピード「1/60」、F値は「2.8 7」と出ました。これは「F3.5」と捉えて良いと思ったので、その設定で撮影しました。

ショートケーキの手前、光の当たらない部分が中庸な明るさで写ります。

 

【シェフゆり子の調理結果】光を判断して露出を決めて撮った

F3.5 1/30 ISO640 WBマニュアル

さきほどの一枚はちょっと暗く、ケーキがあまり美味しくなさそうだと感じました。そこで、ケーキのフレッシュさを出すためもう少し明るくしてみようと思いました。背後のケーキのボケ方は変えたくなかったので「F3.5」はそのままにして、シャッタースピードを「1/30」と先ほどより1段分速くして明るさを調整しました。背景は白飛び気味になってしまいますが、手前のショートケーキはこちらの方が美味しそうですよね?

 

【CHECK!!重要なこと】単体露出計(カメラから独立した露出計)の存在意義

ショートケーキの背後の、光が当たって明るくなっているテーブル部分(窓の近く)で測光してみると、シャッタースピードは1/60、F値は「4.0 8」と出ます。これは「F5.0」と捉えて良いと思います。

先ほどショートケーキの手前(シャドウ部)で測光したときは「F3.5」でしたが、光が当たって明るくなっている奥のテーブル(ハイライト部)は「F5.0」だったので、手前と奥の露出の差は「約1段」ということになります。

ここでわかることは、柔らかい自然光が差し込む窓際は「約1段」の露出差がつくということです。また、1段の露出差があると、このくらいの「陰影感」がつく、とも言えます。

実は、単体露出計の存在意義は、この「露出差」を知ることができる点にあります。一箇所だけ測光するのではなく、数カ所を測光することで、そのシーンの露出差を知ることができ、ひいてはその場所にどういった陰影感がついているか把握することができます。感覚ではなく数値で光を把握すれば、陰影感の調整も素早くできるようになるので、結果的に、最速でイメージ通りの絵に近づけることができます。

また“柔らかい自然光が差し込む窓際は「約1段」の露出差がつく”などというデータを自分の中に蓄積していると、同じようなシーンを別の場所で再現することになった場合に大変役立ちます。

たとえば、自然光のまったく入らない部屋で「ストロボだけを使用して、柔らかい自然光が差し込む窓際のシーンをつくってください」と言われたら。柔らかい自然光が差し込む窓際は「約1段」の露出差がつく、とわかっていれば、露出計で測光しながら、約1段の露出差がつくようなシーンを作り出せば良いのです。(ただし、光の「質」はまた別問題です)

 

シェフゆり子、海の幸を探しにきた!

今度は海にやってきました!天気はあいにくの曇り。ISO200、シャッタースピード1/250固定で、浜のあらゆるところで測光してみましたが、一律でF値は「11 1」と出ます。

ということは、曇り空の下は、露出差がなく、光が均一に回っている状態、とも言い換えることができます。新しいデータを入手しましたね。メモメモ。余談ですが、カメラマンのアシスタントは、修行中、シーンごとの露出差データをノートにメモしたりします。これが、後に同じようなシーンを再現することになったとき、大変役立ちます。わたしは、このデータの蓄積が、カメラマンの引き出しの多さにつながると思っています。

 

 

F11 1/160 ISO200 WBマニュアル

写真に撮ってみると、陰影感はなく、全体的にノッペリした感じです。でも、このノッペリ感もいいなと思いました。

今後、曇り空の下と同じ状況を、別の場所で再現するようなことがあれば、柔らかい光が均一に回っている状態をつくりだせば良いということになります。

 

<シェフゆり子・ギャラリー>

F2.8 1/60 ISO400 WBマニュアル

 

F2.8 1/1000 ISO200 WBマニュアル

 

F2.8 1/800 ISO200 WBマニュアル

 

F25.6 1/500 ISO200 WBマニュアル


まとめ

今回は、L-308Xを使って身近な被写体の露出を計ってみました。露出計で計った露出を基準にして、そのままの値で撮影するのか、イメージに近づけるためにアレンジを加えるのか、は自分次第です。

また、“「露出差」を知り陰影感を把握することが単体露出計の存在意義”というお話もさせていただきました。

次回は、ここまで解説してきた知識を活かして、ポートレート撮影にチャレンジしてみたいと思います。

 


メーカーサイト:セコニック フラッシュメイト L-308X

販売サイトはこちら

協力:セコニック https://www.sekonic.co.jp/

 

<2020年8月19日 訂正>
L-308Xのカスタムファンクション機能について記事中の解説に誤りがあったため訂正いたしました。
お詫び申し上げます。(PICTURES編集部)

●誤:L-308Xもカスタムファンクションで1段、1/2段、1/3段の表示切替が可能です。1/3段を選択した場合もコンマ以下の数値は表示されます。

○正:L-308Xでは1段ステップ以外を設定したときは1/10の測定値は表示されません。

著者プロフィール

大村 祐里子


(おおむら・ゆりこ)

1983年東京都生まれ
ハーベストタイム所属。雑誌、書籍、俳優、タレント、アーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動中。著書「フィルムカメラ・スタートブック」、「身近なものの撮り方辞典100

ウェブサイト:YURIKO OMURA
ブログ:シャッターガール
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身近なものの撮り方辞典100

 

フィルムカメラ・スタートブック

 

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