ふだん写真は撮っているけれども、どうも納得できる写真が撮れない。そういう思いを抱く人は多いのではないでしょうか?写真家の大村祐里子さんは、フォトテクニックデジタルの連載「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」の中で、日常的な風景を独自の視点で見つめて写真作品をつくる方法を教えています。
第27回のテーマは「虫」です。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
撮影のポイント
1. 虫が苦手でも、視点を変えれば立派な被写体になる。
2. リアルに写りすぎないように工夫する。
初めて見た時、枝にとまったトンボの羽に、空の青が透けていてきれいだなと思いました。虫は、背景をシンプルにした方が、造形が際立ちます。この時も、空が大きく抜けるアングルを選び、背景が青く抜けるようにしました。
リアルに写りすぎないように工夫
虫の撮り方にはものすごく個人差があると思います。私は、虫の全体的な造形には興味があるのですが、虫自体が好き、というわけではありません。すみません。カメラを持っていない時に虫に出会うと「ギャッ」と叫びます。だから、虫の生態やパーツではなく、ある空間の中に存在している虫の形、をやや引いた状態で写したいと思っています。リアルに写りすぎた虫は苦手なので、ハイキー目に仕上げたりして、ファンタジー要素を強めにするよう心掛けています。
大胆なWB調整でファンタジーに
虫は小さいものが多いので、やはりマクロレンズは必須でしょう。ピントの微調整がしやすいので、私はMFのレンズの方が好きです。あとは、状況が写りすぎるとリアルになって気持ち悪いので、背景を大きめにぼかすことが大切かなと思っています。ゆえに、大きくぼかせるレンズがオススメです。さらに、大事なのは写真の色みです。大胆にホワイトバランスを調整して、実際とは全く異なる色みにした方が、ファンタジー要素が強くなって面白いです。
このトンボは死んでいます…。温室の池の上を漂っているところを発見して、思わずシャッターを切りました。水の青と、植物の茎と、トンボの造形が淡い色みでまとまっていて、トンボ自体は死んでいるのですが、残酷な印象にならず、むしろきれいだなと思いました。
夏の終わり、散歩している時に見つけました。セミの抜け殻…っぽいのですが、この抜け殻は白っぽくて、私が知っているものと少し違う雰囲気でした。大きな目も光っていて、まるで生きているようでした。背中に切れ目があったのですが、もしかしたら抜け殻じゃないのかも…? その不思議な存在感が際立つように、背景に濃いグリーンを持ってきました。
バッタがたくさん入っている水槽をのぞいていたら、一匹だけ白い羽を出している個体がいて、その子がこちらを見ているように感じました。ひとりだけ浮いているオンリーワンな感じがいいなと思ったので撮影をしました。ただ、バッタが大量にうごめいている様子はわりと気持ち悪かったので、水槽の反射を大きく取り入れて手前をぼかし、色みもグリーンを強くして、ふわっとした感じに仕上げました。