夜鉄
第5回

夜鉄テクニック解説編 雪に映る明かりを幻想的に撮る「銀河鉄道の夜」

いわゆる「鉄道写真」は、写真撮影の一ジャンルとして広く認知されていますが、日常の中でカジュアルに撮れる一方で、作品に仕上げるという観点からは、動体・風景写真の技術や、写真芸術表現の感覚など、撮影者に複合的な素養を求める側面がある、奥の深い撮影ジャンルです。

風景写真家として知られる相原正明さんの著書「夜鉄(よるてつ)」は、夜行列車をテーマに撮影した作品集「STAR SNOW STEEL」と、夜に列車を撮影する際のテクニック解説を併せて収録した実践的なガイドブックです。

推奨する機材の方向性やロケハン時の留意点、写真セレクトの考え方、完成イメージを想定した絵コンテから撮影地周辺の見取り図まで、相原さんの「作品レシピ」とも呼ぶべき情報が詰まった一冊となっています。

本記事では「夜鉄テクニック解説編」より、絵コンテで作品イメージを固定した一例を紹介します。なお、ここで紹介した作例は、本書前半に掲載している作品集「STAR SNOW STEEL」に収録されています。

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夜鉄

雪の映り込みを生かし幻想的に撮る

Nikon D700 Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZF.2 F1.4 1/50秒 ISO5000 WB:白熱灯 三脚使用 1月8日 6時30分撮影 青森県・津軽鉄道 毘沙門駅~嘉瀬駅

1. Location

雪に覆われた切通しを駆け抜ける

切通しの間を列車が進んでくるスポット。雪に覆われた空間を列車が走り抜けるさまを幻想的に撮ることができる。撮影は切通しと交差する跨線橋から行うが、雪の壁で線路が見えない。スコップで雪を崩し、見渡せる位置まで上って撮影した。

2. Concept

新雪の夜の銀河鉄道

雪のなか、光に包まれた列車がテールライトを残して闇の彼方に消えていく。そんな銀河鉄道の夜のようなイメージを狙った。ISO6400が常用で使えるニコンD700の登場により、夜鉄の世界が拓けた。これは夜鉄の記念すべき第一号作品だ。

3. Technique

音でシャッターチャンスを察知しろ

ここは2両編成と3両編成の列車が通過する。3両では画面に対して長すぎるため2両に狙いを絞った。シャッターチャンスは1~2秒。背後から迫る列車音に神経を集中させた。

シンメトリーは風景の基本形

左右シンメトリーな構図になるように、線路を画面の中央に配した。また闇に向かって伸びる線路が表現できるように、森の木が覆う場所と線路の消失点を重ね合わせた。

イメージの世界観はWBと色設定が要

WBを白熱灯に設定し、街灯のオレンジが目立たないように色彩を調整。さらにテールライトの赤色が目立つよう、色設定を「ビビッド」に設定した。

テールライトが勝負の分かれ目

列車をきっちり写し止めることよりも、銀河鉄道の夜のような幻想的な表現を意図して露出とシャッター速度を決定。テールライトにピントを合わせ、赤い光を強調させた。

絵コンテ

見取り図

イメージは銀河鉄道の夜。切り通しに雪がなければ列車の明かりが反射しないため、撮影はNG。また左右の街路灯が線路を照らし、撮影に影響する可能性も考慮する。撮影場所の橋には約2mの高さの金網が設置されているが、網目は粗くレンズを通すことは可能。あるいは雪が積もれば金の上に顔を出せると予測した。レンズは35mmと50mmを選択し、レンズ別に2回撮影している。跨線橋の真下に列車の影が見えたら撮影スタート。


夜鉄

著者プロフィール

相原正明

1988年のバイクでのオーストラリア縦断撮影ツーリング以来かの地でランドスケープフォトの虜になり、以後オーストラリアを中心に「地球のポートレイト」をコンセプトに撮影。2004年オーストラリア最大の写真ギャラリー・ウィルダネスギャラリーで日本人として初の個展開催。以後写真展はアメリカ、韓国、そしてドイツ・フォトキナでは富士フイルムメインステージで個展を開催。また2008年には世界のトップ写真家17人を集めたアドビアドベンチャー・タスマニアに日本・オーストラリア代表として参加。現在写真家であるとともにフレンドオブタスマニア(タスマニア州観光親善大使)の称号を持つ。パブリックコレクションとして、オーストラリア大使館東京およびソウル、デンマーク王室に作品が収蔵されている。また2014年からは三代目桂花團治師匠の襲名を中心に落語の世界の撮影を始める。写真展多数。写真集、書籍には「ちいさないのち」小学館刊、「誰も言わなかったランドスケープ・フォトの極意」玄光社刊、「しずくの国」エシェルアン刊。

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