夜鉄
第4回

夜鉄テクニック解説編 ロケハンをもとに絵コンテでイメージを具体化する

いわゆる「鉄道写真」は、写真撮影の一ジャンルとして広く認知されていますが、日常の中でカジュアルに撮れる一方で、作品に仕上げるという観点からは、動体・風景写真の技術や、写真芸術表現の感覚など、撮影者に複合的な素養を求める側面がある、奥の深い撮影ジャンルです。

風景写真家として知られる相原正明さんの著書「夜鉄(よるてつ)」は、夜行列車をテーマに撮影した作品集「STAR SNOW STEEL」と、夜に列車を撮影する際のテクニック解説を併せて収録した実践的なガイドブックです。

推奨する機材の方向性やロケハン時の留意点、写真セレクトの考え方、完成イメージを想定した絵コンテから撮影地周辺の見取り図まで、相原さんの「作品レシピ」とも呼ぶべき情報が詰まった一冊となっています。

本記事では「夜鉄テクニック解説編」より、絵コンテで作品イメージを固定した一例を紹介します。なお、ここで紹介した作例は、本書前半に掲載している作品集「STAR SNOW STEEL」に収録されています。

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夜鉄

明確な対比は大胆な構図から

Nikon Df AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR (200mm相当) 絞り優先AE (F9・1/320秒) ―1/3EV ISO1600 WB:晴天 三脚使用 3月8日 17時17分撮影 北海道・JR日高本線 新冠駅~節婦駅

1. Location

断崖を行く、大海原と戦う鉄道

日高本線の難所。断崖にへばりつくように鉄路が走る。そのため撮影ポジションは遠景から望遠で狙うか、崖の上から広角で撮るかに限られるところが多い。また海に面しているため風の影響が強く、海の表情次第で作画の方向性も変わってくる。

2. Concept

大自然の大きさと人智のはかなさ

爆弾低気圧の接近で荒れ狂う大海原を切り裂くように、たった1両の気動車がやって来る。夕暮れに染まる海が列車を飲み込むかのごとく波高を高くしていくなか、2条のヘッドライトが頼りなげだが精一杯に前方を照らして列車は前進する。両者の対比が表現のポイントとなる。

3. Technique

ヘッドライトは力強さのシンボル

海に立ち向かう力強さと、嵐を切り裂くイメージを出すため、ヘッドライトが点灯する正面を狙った。列車の動きを止めるために1/250秒以上のシャッター速度を確保した。

「間」は風景の大切なエビデンス

安土桃山時代の絵師・長谷川等伯の「間」を参考に、日本画的技法で画面左に大きく空間を取った。それにより海の暴力的な強さと、立ち向かう列車の非力さを強調した。

ISO感度と画質のバランスを考える

海のディテールを残すため、昼と夜との境目の時刻に列車が現れる季節を暦から導き出した。ISO1600に抑えて画質を荒らさないことで薄暮の色の繊細な階調を表現した。

写真は写心、心は最高のテクニック

夕暮れの最後の光に染まる波頭と、海の不気味な力強さ。そんな大自然のなかで非力ながら懸命に走る列車に頑張れと言いたかった。その心が作品を創り出した。

絵コンテ

見取り図

Shot1とShot2の2カットを想定。Shot1はニコンDf+70~200mm、Shot2はニコンD4+24~70mmと2台体制で臨む。列車通過時、足元の崖で被写体が10秒ほど隠れてしまうため、列車の音に耳を澄まして動きを察知する必要がある。掲載カットはShot1。なお途中の山道はヒグマが出没する危険性があったため、鈴とラジオとクマよけスプレーを準備した。


夜鉄

 

著者プロフィール

相原正明

1988年のバイクでのオーストラリア縦断撮影ツーリング以来かの地でランドスケープフォトの虜になり、以後オーストラリアを中心に「地球のポートレイト」をコンセプトに撮影。2004年オーストラリア最大の写真ギャラリー・ウィルダネスギャラリーで日本人として初の個展開催。以後写真展はアメリカ、韓国、そしてドイツ・フォトキナでは富士フイルムメインステージで個展を開催。また2008年には世界のトップ写真家17人を集めたアドビアドベンチャー・タスマニアに日本・オーストラリア代表として参加。現在写真家であるとともにフレンドオブタスマニア(タスマニア州観光親善大使)の称号を持つ。パブリックコレクションとして、オーストラリア大使館東京およびソウル、デンマーク王室に作品が収蔵されている。また2014年からは三代目桂花團治師匠の襲名を中心に落語の世界の撮影を始める。写真展多数。写真集、書籍には「ちいさないのち」小学館刊、「誰も言わなかったランドスケープ・フォトの極意」玄光社刊、「しずくの国」エシェルアン刊。

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