夜鉄
第3回

夜の鉄道写真=夜鉄の真髄!表現したい世界の在りようを確実にとらえる機材の要件とは?

いわゆる「鉄道写真」は、写真撮影の一ジャンルとして広く認知されていますが、日常の中でカジュアルに撮れる一方で、作品に仕上げるという観点からは、動体・風景写真の技術や、写真芸術表現の感覚など、撮影者に複合的な素養を求める側面がある、奥の深い撮影ジャンルです。

風景写真家として知られる相原正明さんの著書「夜鉄(よるてつ)」は、夜行列車をテーマに撮影した作品集「STAR SNOW STEEL」と、夜に列車を撮影する際のテクニック解説を併せて収録した実践的なガイドブックです。

推奨する機材の方向性やロケハン時の留意点、写真セレクトの考え方、完成イメージを想定した絵コンテから撮影地周辺の見取り図まで、相原さんの「作品レシピ」とも呼ぶべき情報が詰まった一冊となっています。

本記事では「夜鉄テクニック解説編」より、「夜鉄」の基本要素となる「4つのアプローチ」を構成する「心象」と、撮影に向いた機材を併せて紹介します。

夜鉄

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「心象」へのアプローチ

4つのアプローチのなかで最も難解。現実世界が心にどう写るのか、表現者の哲学と人生観が問われる

  • 目の前の光景を見た時に何が心に残り、何を強調して表現したいと感じたかを心を落ち着かせて整理する。
  • 自分が好きな色や構図、光の時間帯を持つこと。そこから必要な機材や技術、設定データを積み上げる。
  • 普段から洋画や日本画、現代アート、音楽に多く触れよう。その上で写真史を学び、知識の引き出しを増やす。

地の果てまで伸びる無限レールのような世界を表現

日没後の、夜の異次元の世界へと向かう鉄路を表現したかった。そのためには同じ物の繰り返しがあれば面白いと考え、400mmの超望遠レンズで線路際の電柱を効果的に使用した。

自分が好きな光と影、色を常に追い求める

心象世界を撮るには自身の「撮影哲学」が問われる。そのためには心の鍛錬が必要。写真だけではなく洋画、日本画、映画、音楽、書物をはじめとした多くのアートと出合うことで、自身の世界観や哲学は少しずつ構築されていく。

イメージトレーニングも有効だ。通勤通学の時に列車の窓枠をフレームに見立てて、景色を見る。僕はそんなトレーニングもしていた。また好きな写真家の作品を真似て撮るのも力になる。スポーツで有名選手のフォームを真似るのと同じで、真似していくなかで自分のオリジナルの撮り方が芽生えてくる。

ピントとボケを使い分けた視覚表現

延々と伸びる鉄路の景色。そのなかで自分が何を見ているかを表現しようと、望遠レンズで水たまりに映り込む信号機の赤色にピントを合わせ、浮き立たせた。背景をぼかすことで、自然と視点は手前から奥へと流れてゆく。

夜空を駆ける列車を表現

大胆に間を取り、夜空が広がることで、その中を列車が駆けるイメージを強調できた。

心象風景との瞬間の出合い

除雪中の運転手と目が合った瞬間に撮影。常に撮りやすい画角と露出に設定しておくことが大切。

相原流・夜鉄カメラ考

求められる性能は大きく2つ。動体撮影のための高感度&AF性能と、情景撮影のための優れた色再現性である。

カメラ:動きのニコンD5、情景の富士フイルムX-H1。これが僕の夜鉄シューティングウェポン

夜鉄撮影用のカメラに求めるものは多い。常用感度ISO6400、夜間でも確実に合焦してくれるAF性能とMFでも合わせやすいファインダー性能に、堅剛な防塵防滴・耐寒性能も。一方で色再現性については雪の質感がしっかり再現できることと、薄暮や夜明け前の情景の色再現が心象に近いことが大切だ。その上で暗部での確実な操作性も求められる。

現時点での僕の相棒は動体用のニコンD5と、情景用の富士フイルムX-H1。ニコンD5はISO20000でも十分な画質で、AFの3Dトラッキングは一度捉えたターゲットを外すことがない。X-H1は富士フイルムの得意とする記憶色表現で、心に描いた色を忠実に再現してくれる。

ニコンD5
富士フイルムX-H1

レンズ:広角の明るい単焦点と、非日常の世界を表現できる超望遠ズームが必要

開放F値が明るく被写界深度の深い20~24mm域の広角レンズと標準域の単焦点レンズがおすすめ。夜空を入れたシーンや駅のスナップにも最適で、広角の場合は遠近感がデフォルメされることで主題を強調しやすい。また望遠系はズームレンズのテレ端が最低でも200mm、できれば400mmは欲しい。立入禁止エリアの外から撮る場合はもちろん、圧縮効果による非日常的な表現も可能になる。

ニコン24mmF1.8は、開放F値の明るさと色にじみのない切れのよい画質が夜の撮影に最適。富士フイルムXシリーズ用の100~400mmズームは、テレ端400mmの十分な画角と、フジノンレンズならではの色の抜けのよさが魅力だ。

ニコンAF-S NIKKOR 24mm f/1.8G ED
富士フイルムXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR

三脚:しっかりカメラが固定でき、ブレず、素早く水平を出せることが条件

基本条件は長時間露光下でも絶対にブレないこと。携行性は劣るが重量があるもの、そしてカメラ同様に暗所での作業が多くなるので素早く確実に操作できるものを選びたい。雲台は自由雲台よりもパン棒の付いた3Wayがおすすめだ。ほかにも雪中撮影に耐えられる脚の根元の強度や、被写体の映り込みを考慮したブラックカラーも望みたい。その結果僕が選んだのは、世界のスタジオ撮影の定番・ハスキー3段。確実さ、早い操作性でこの三脚の右に出るものはない。

ハスキー#1003 三段三脚

夜間撮影に役立つ蛍光ベスト。時には目立つことも大事

夜間の道路際での撮影は交通事故に巻き込まれる危険性がある。そこで僕はオーストラリアで購入した道路作業員用の蛍光ベストを着用している。ホームでの撮影においても存在感を示すことで、鉄道関係者に安心感を与えることができる。


夜鉄

著者プロフィール

相原正明

1988年のバイクでのオーストラリア縦断撮影ツーリング以来かの地でランドスケープフォトの虜になり、以後オーストラリアを中心に「地球のポートレイト」をコンセプトに撮影。2004年オーストラリア最大の写真ギャラリー・ウィルダネスギャラリーで日本人として初の個展開催。以後写真展はアメリカ、韓国、そしてドイツ・フォトキナでは富士フイルムメインステージで個展を開催。また2008年には世界のトップ写真家17人を集めたアドビアドベンチャー・タスマニアに日本・オーストラリア代表として参加。現在写真家であるとともにフレンドオブタスマニア(タスマニア州観光親善大使)の称号を持つ。パブリックコレクションとして、オーストラリア大使館東京およびソウル、デンマーク王室に作品が収蔵されている。また2014年からは三代目桂花團治師匠の襲名を中心に落語の世界の撮影を始める。写真展多数。写真集、書籍には「ちいさないのち」小学館刊、「誰も言わなかったランドスケープ・フォトの極意」玄光社刊、「しずくの国」エシェルアン刊。

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