夜鉄
第2回

夜の鉄道を撮る!構図を知り、夜闇を使って作品の完成度を高める

いわゆる「鉄道写真」は、写真撮影の一ジャンルとして広く認知されていますが、日常の中でカジュアルに撮れる一方で、作品に仕上げるという観点からは、動体・風景写真の技術や、写真芸術表現の感覚など、撮影者に複合的な素養を求める側面がある、奥の深い撮影ジャンルです。

風景写真家として知られる相原正明さんの著書「夜鉄(よるてつ)」は、夜行列車をテーマに撮影した作品集「STAR SNOW STEEL」と、夜に列車を撮影する際のテクニック解説を併せて収録した実践的なガイドブックです。

推奨する機材の方向性やロケハン時の留意点、写真セレクトの考え方、完成イメージを想定した絵コンテから撮影地周辺の見取り図まで、相原さんの「作品レシピ」とも呼ぶべき情報が詰まった一冊となっています。

本記事では「夜鉄テクニック解説編」より、「夜鉄」の基本要素となる「4つのアプローチ」のうち、「風景」と「夜景」に関する記述を抜粋してご紹介します。

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夜鉄

「風景」へのアプローチ

夜鉄では鉄道を風景の一部として扱うことが多い。風景写真の極意を知ることで、夜鉄は完成に近づくのだ。

  • 大胆な構図で作品に力強さを与えよう。小さくまとまった構図は小さくまとまった作品になる。
  • ひとつのフレーミングで訴求する要素は2つまで。3つになると要素が多すぎて主題が見えづらくなる。
  • 色や光の対比を考える。その対比が面に緊張感を与え、かつ流れるような視点を作りストーリーを生み出す。

列車がアクセントで入ることで初めて完成する風景写真

夕暮れの四万十川。川を写すだけでは渓谷の大きさや奥深さが表現できない。そこに列車という点景を入れることで比較対象とするものが生じ、深山幽谷の気配が表せる。

構図の定石にとらわれないこと

風景写真は構図が命。しかし厄介なことに構図には正解がなく、正しい構図は撮影回数だけ存在する。座学で学び暗記するのではなく、実際にファインダーを見て、気持ちよく見える構図を探すべきなのだ。構図を極めるならば「こんな写真を撮りたい」という絵コンテを撮影前に作ろう。ファインダーをその絵柄を確認するための窓とすることで、構図の完成度は飛躍的に高まる。

また夜鉄では夜の闇の深さを表現することが多い。そのために僕は大胆な「間」を使う。見えそうで見えない空間を設けることで、闇の深さと広さを表現しているのだ。

被写体を生かすも殺すも背景次第

昼間では背景に列車が溶け込んでしまい目立たなくなる場所でも、夜鉄では生かしようがある。列車に灯りがともる日没後、薄暮に染まる背景の山の存在感はほどよく薄れ小さな列車がしっかり主題として表現されている。

焦点距離は最大の写真効果を生む

広角レンズは遠近感を強め、手前の被写体をデフォルメして強調する効果がある。逆に望遠レンズは距離感を圧縮し、非日常の視点を作り出してくれる。この2つの写真効果を使いこなすことで、作品の幅がさらに広がる。

「夜景」へのアプローチ

夜の撮影は4つのアプローチのなかでも特にしっかりした写真技術の基礎が求められる。暗所での撮影を前提とした確実なカメラ操作も必要。

  • WBは白熱灯モードが基本。必要に応じてマニュアルの色温度設定も使い分ける。
  • 日中に必ずロケハンをすること。夜間のさまざまな障害物を事前に確認し、土地勘を身につける。
  • 撮影準備と目を夜の明るさにならすために、撮影ポイントには日没1時間前には到着すること。

光源の違いによる色の美しさと『ブレードランナー』的世界観を狙う

小雨に煙る高層ビル群の合間を新幹線が走り抜ける。完全に暗くなり、ビル群の明かりが闇に浮かび上がる時分を待って撮影。新幹線を点景にすることで都会の夜の摩天楼を強調した。

夜は余分なものを隠し、世界を幻想的にする

夜の撮影は、闇と車窓から漏れる光が作り出す世界が中心となる。そのため昼間のロケハン時に見た景色が、夜にはどのように見えるかという想像力が最重要となる。そしてイメージ通りに夜の世界を表現するためには、写真を確実に撮る基礎的な技術力も必須。さらに言えばWBに関する知識と自分好みの色を表現する術も持ち合わせたい。

暗所ですばやく正確に操作するためにはカメラ操作を熟知する必要もある。当然、撮影時の手ブレは厳禁。そのため三脚の使用頻度も高い。カメラと同じくらいに三脚の性能や操作にも神経を遣いたい。

夜の闇は多くの欠点を隠し、被写体を目立たせる

日中に気になった倉庫や線路際の雑草、さびた鉄柱も、発光しないものであれば夜の闇が隠してくれる。一方で照明に照らされたホームの屋根の鉄骨は、まるで宇宙船のように闇に浮かび上がった。

夜の列車を写し止めるには高感度ISO6400 が基準

夕方の帰宅時間帯。列車と車内の情景を写し止めたかったので高感度による高速シャッターを選択。夜の雪原を駆け抜ける列車を写し止める際も理屈は同じ。日常の夜景で練習し、本番撮影に臨もう。


夜鉄

 

著者プロフィール

相原正明

1988年のバイクでのオーストラリア縦断撮影ツーリング以来かの地でランドスケープフォトの虜になり、以後オーストラリアを中心に「地球のポートレイト」をコンセプトに撮影。2004年オーストラリア最大の写真ギャラリー・ウィルダネスギャラリーで日本人として初の個展開催。以後写真展はアメリカ、韓国、そしてドイツ・フォトキナでは富士フイルムメインステージで個展を開催。また2008年には世界のトップ写真家17人を集めたアドビアドベンチャー・タスマニアに日本・オーストラリア代表として参加。現在写真家であるとともにフレンドオブタスマニア(タスマニア州観光親善大使)の称号を持つ。パブリックコレクションとして、オーストラリア大使館東京およびソウル、デンマーク王室に作品が収蔵されている。また2014年からは三代目桂花團治師匠の襲名を中心に落語の世界の撮影を始める。写真展多数。写真集、書籍には「ちいさないのち」小学館刊、「誰も言わなかったランドスケープ・フォトの極意」玄光社刊、「しずくの国」エシェルアン刊。

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