いわゆる「鉄道写真」は、写真撮影の一ジャンルとして広く認知されていますが、日常の中でカジュアルに撮れる一方で、作品に仕上げるという観点からは、動体・風景写真の技術や、写真芸術表現の感覚など、撮影者に複合的な素養を求める側面がある、奥の深い撮影ジャンルです。
風景写真家として知られる相原正明さんの著書「夜鉄(よるてつ)」では、夜行列車をテーマに撮影した作品集「STAR SNOW STEEL」と、夜に列車を撮影する際のテクニック解説を併せて収録した実践的なガイドブックです。
推奨する機材の方向性やロケハン時の留意点、写真セレクトの考え方、完成イメージを想定した絵コンテから撮影地周辺の見取り図まで、相原さんの「作品レシピ」とも呼ぶべき情報が詰まった一冊となっています。
本記事では「夜鉄テクニック解説編」より、「夜鉄」の基本要素となる「4つのアプローチ」のうち、「鉄道」に関する記述を抜粋してご紹介します。
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夜鉄を構成する4つのアプローチ
夜鉄はいくつかの撮影カテゴリーがクロスオーバーして生まれる。基礎となる鉄道写真に、風景・夜景、そして心象写真の要素が加わり相乗効果を生むことで作品として完成する。
すべての写真とアートに興味を持つことが鍵
夜鉄の基本は鉄道写真。日中の鉄道、つまり動く被写体をきちんと撮れることが夜鉄写真の第一歩だ。そして風景・夜景・心象(アート)の各分野の写真に対する興味、もしくは撮影経験も必要不可欠。さらに言えば映画や絵画(日本画・洋画)にも興味を持ってもらいたい。
夜鉄で相対するのは夜という非日常の、何も見えない世界。いかに頭のなかで想像力を膨らませることができるか、見えない世界で予測ができるかが勝負になる。そのためには写真と他ジャンルのアートの基礎力が必要だ。想像力と基礎力なくして夜鉄は生まれない。
「鉄道」へのアプローチ
鉄道写真は動体撮影が基本となる。動くものに目が追い付かなければファインダーで列車を捉えることはできない。
- ファインダーを落ち着いて覗くこと。すべての情報はファインダーのなかにある。
- 焦ると早くシャッターを切ってしまいがち。シャッターを切るための目印を決めておく。
- 列車の運行状況を確認する。予想よりも長い車両編成や遅延で撮れないこともある。
定番の形式編成写真を基礎とした月夜の撮影
最終特急が滑り込んできたタイミングで満月が昇っていた。月が列車を見守るイメージが頭に浮かぶ。定番の列車編成を正確に見せることで月と最終列車、駅の情景を表現した。
きちんと列車を撮ること、それが最も大切
列車はレールの上以外は走らない。だから撮りやすい反面、アングルや時間の制約がある。そして何よりも一発必中で撮り直しがきかない。ローカル線であれば1日に数本、最終列車を狙うのであれば、撮り逃せば翌日に持ち越すか再訪になってしまう。だから一瞬のチャンスへの強い集中力が求められる。
まずはしっかりファインダーを見ること。焦って撮影すると、ファインダーで見たよりも小さく列車を写してしまう。僕も最初は撮った列車が豆粒みたいだった。落ち着いて、シャッターを切るタイミングの目安となる目印を見つけよう。
列車の前を狙うか、後ろを狙うかで作品は変わる
列車は前と後ろで表情が異なる。ヘッドライトが光るのが前、テールライトがあるのが後ろ。前を撮ると向かってくる力強さ、後ろを撮ると赤い光で旅情をかもし出すことができる。
電化と非電化が構図に大きく影響
電化区間は電線を支える電柱が立っていて、これが列車の撮影に影響する。電化区間では、画面上にいかに風景の一部として電柱を取り込むかが大切。もし電柱を入れたくないのであれば非電化区間を狙うことになる。