星雲や惑星、夜空を埋め尽くす星空には、見る人の心を揺さぶるものがあります。誰しも一度は、星空を写真に記録したい、と考えるのではないでしょうか。
星空と地上風景の両方を構図に入れた写真は、一般的に星景写真と呼ばれます。主役はあくまでも星空ですが、地上の自然や建造物を写し込むことで、星空の魅力が引き立つことから、天体写真の中でも人気のあるジャンルです。
技術評論社が発売している「星空撮影の教科書」では、星空写真にまつわる様々なテーマを、著者で天体写真家の中西昭雄さんによる作例とともに解説。星空を撮影するにあたって必要となる機材から天球の動き、撮影に適した時間帯、場所の選び方、合成処理を前提とした撮影方法、海外遠征時の留意点にいたるまで、星空撮影の初心者からベテランまで、幅広いレベルの撮影者に役立つ一冊となっています。
本記事では、Chapter5「星空撮影 シーン別テクニック中級編」より、バルブ撮影モードを使った長時間露光撮影の方法を抜粋して紹介します。
1. 長秒露出と比較明合成という2つの撮り方
星が軌跡を描いた写真のうち、長秒露出を使った方法にチャレンジしてみましょう。難易度は高いですが、うまく撮れたときの喜びも大きいものです。
星空写真で、星を長い軌跡として写したい場合、その方法は大きく次の2つに分けることができます。
- 長秒露出を行う方法
- 比較明合成によって、多数の写真を合成する方法
長秒露出を行う方法は、フイルム時代から行われていた方法で、B(バルブ)で数分~数十分、ときには数時間という露出を行います。合成ではないという意味から、「一発撮り」と呼ばれることもあります。
それに対して比較明合成は、数秒~数十秒という、星の写真としては比較的短時間の露出による撮影を多数行い、それらを合成することによって星の軌跡を表現する方法です。
2種類の撮影方法のうち、比較明合成は短時間の露出で繰り返し撮影を行うという方法上の特徴から、明るい夜空や月齢条件でも撮影できるという利点があります。また撮影中に雲が来てしまったり、レンズに夜露が付いてしまったりした場合でも、それまでのカットを使ってなんとか作品を得ることができます。
それに対して長秒露出による「一発撮り」写真は、長時間の露出に耐えられる程度に夜空の暗さが重要になる、露出中の失敗が許されないなど、難易度が高い撮り方になります。とはいえ、合成をよしとしない方や、後処理を苦手とする方であれば、取り組む価値のある撮影方法です。設定した露出時間が終わり、液晶モニターに美しい星の軌跡が表示されたときが、撮影の苦労が報われた瞬間です。
比較明合成と長秒露出の大きな違いは、写真に写る星の数にあります。長秒露出の場合は長時間の露出で撮影することからISO100などISO感度を下げて設定しますが、比較明合成は露出時間を減らすためISO1600といった高いISO感度で撮影します。ISO感度を高くすれば、その分低ISO感度では写らない暗い星までも写すことができ、結果的に比較明合成では、長秒露出に比べて多くの星々を写すことが可能になります。
長秒露出
比較明合成
2. 長秒露出で星の軌跡を撮る方法
長秒露出で星の軌跡写真を撮影するには、B(バルブ)モードを使います。バルブとは、シャッターボタンを押している間、シャッターが開き続けて露出が行われるというものです。具体的にはリモートスイッチを用い、リモートスイッチをロックしてシャッターを開き、しばらく放置します。そして所定の露出時間がきたら、ロックを解除してシャッターを閉じるわけです。時計とにらめっこするのは大変なので、長秒露出の設定が可能なタイマー式のリモートスイッチを用いるのが便利でしょう。また最近では、長秒設定が可能なカメラの機種も出てきています。
1枚あたりの露出時間は、短くて数分、長い場合には数十分から1時間以上になります。露出時間が長くなるほど軌跡を長く写し込むことができますが、強風でカメラがぶれてしまったり、近くを自動車が通ってヘッドライトで照らされてしまったり、レンズに夜露が降りてしまったりと、失敗する可能性が高くなります。
露出15秒
露出8分
3. 構図を考える
星の軌跡写真ならではの構図の決め方として、北の方向を撮影する場合に「北極星の位置」が画面の隅に来てしまったり、画面からはみ出したりしないように気をつける必要があります。
夜空の星は、天の北極つまり北極星付近を中心に回転するような動きをしています。つまり北極星には星空の中心的な意味合いがあり、その北極星が画面の端にあると、画面構成としてとても不安定になります。北の方向を撮影する場合は、北極星が画面の中心付近に来るように構図を考えましょう。
×(NG例)
○(OK例)
4. 星の軌跡写真のカメラ設定
長秒露出でのカメラ設定は、基本的には短時間露出による星空写真と変わりません。異なるのは、撮影モードをBにして撮影を行うという点です。また、露出時間が非常に長いため、長秒露出のノイズ低減機能を〈ON〉にするかどうかの判断が必要です。カメラのセンサーは、気温が高く、ISO 感度設定が高く、露光時間が長いほど、輝点状のノイズが目立つようになります。このノイズは光が当たっていないのに発生することから、暗電流ノイズやダークノイズなどと呼ばれます。
このノイズを除去するのが、長秒露出のノイズ低減機能です。露光が終わった後、シャッターを閉じた状態でもう一度同じ露出時間で画像を取得し、撮影画像からシャッターを閉じて取得した画像を減算することによって、ノイズを除去するというものです。気温が10℃以上なら、高性能な機種でも〈ON〉にした方が無難です。
ただしノイズ低減機能を〈ON〉にすると、画像が得られるまでに倍の露出時間が必要となり、その分バッテリーを消耗するので注意が必要です。
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