写真はカメラ、スマホ任せでシャッターボタンを押すだけできれいに撮れる世の中になりました。しかし、それで本当に自分の表現したい写真を撮れているのでしょうか?
写真家の大村祐里子さんは、『「光」をよく知ること、「光」を読むこと、そして「光」を作ることで写真が変わる』と言います。カメラ任せではなく、自分の目で被写体をよく見て、そこから表現したい光を作っていくことがプロの技なのです。
この連載では、シェフに扮した大村祐里子さんが、料理をするのではなく、撮影テクニックとしての露出のレシピを公開していきます。
第4回目は、ストロボを用いた人物撮影で、単体露出計を使ってみたいと思います。ストロボ使用時こそ単体露出計が欠かせません。定常光と違い、ストロボ光は一瞬の閃光です。ストロボのモデリングライトで、光が当たる範囲はある程度わかりますが、露出計を使わなければ、実際に発光させたとき、どのくらいの量の光が被写体に当たるかわかりません。適当に撮ってみて、ストロボの光量を調節しながら理想の写り具合に近づけていく……という方法がなくもないですが、慣れていないと途方もない時間がかかり被写体を待たせてしまいます。また、別の機会に「前回とまったく同じ露出の写真を撮って欲しい」と言われたときに、露出計でしっかりと露出を計っておかないと、そのリクエストに応えられません。露出計がプロフォトグラファーにとって必須アイテムであることの理由です。
今回使用する機材
セコニック フラッシュメイト L-308X
L-308Xはストロボを測光することができます。ストロボを測光するには、フラッシュ光コード接続モード、または、コードレスモードのどちらかを選びます。
<フラッシュ光コード接続モード>
コード式は、露出計とストロボをシンクロコードで繋ぎ測光する方式です。L-308X上で[カミナリマークC]を選択し、露出計の測定ボタンを押すとストロボが発光し、測光ができます。確実な方法ですが、シンクロコードが届く範囲内でしか使えません。
<コードレスモード>
コードレスモードは、露出計とストロボをシンクロコードで繋がない測光方式です。L-308X上で[カミナリマーク]を選択し、測定ボタンを押すと待機状態になるので、そのあいだにストロボのテスト発光ボタンを押し、発光させます。ストロボが発光すると露出計がその光を測光します。
今回はコード式/コードレスモードのどちらも使用しています。ご自身の機材、状況に合わせて使い分けてください。
※以上はストロボとの接続方法をどうするか、という話です。測光方法そのものは、今回の記事内ではすべて「入射光式」を選択しています。
ストロボを使う上での注意
ストロボで撮影をする場合は、前回までのようにその場の明るさに合わせてISO感度とシャッター速度と絞りを決める……ことはしません。ISO感度、シャッター速度、絞りを自分で決めたあとに、ストロボの光量を調節して、自分の決めた値に近づけていきます。
今回はすべて、ISO感度200、シャッター速度は1/125秒、絞りはメインで写したい部分をF5.6、としました。そうなるように、その都度ストロボの光量を調節しています。
ストロボを使う場合、一瞬の閃光を捉えるとはいえシャッター速度が早すぎると、ストロボの光すべてを捉えきれない場合もあります。ストロボの光をきちんと捉え切るためには、1/125秒くらいが安全とされています。したがって、今回シャッター速度は1/125秒で固定しています。*注
撮影では、電源部と発光部がひとつになっているモノブロックタイプのストロボを使用しています。1/10段刻みで調光可能です。
*注:ストロボの閃光時間は機種(クリップオンか大型か、またはメーカーごと)によって異なり、かつ同調速度の上限がカメラメーカーによって異なるため、機材の組み合わせによって様々なケースがあります。この説明に関しては本題から外れるので今回は割愛させていただきます。
斜め前からストロボでライティング
モデルに白い背景紙の前に座ってもらい、向かって左斜め前からストロボを発光させます。ストロボの前には光を柔らかくするために紗幕を置いています。女性モデルなのでかたい光ではない方が良いと思ったからです。モデルの顔は、向かって左側が明るくなり、右側が暗くなると想像できます。
実際にコードレスモードで測光してみると、向かって左側の頬はF5.6、鼻のあたりはF4.0 9 、右側の頬はF2.8 9でした。とすると、左頬と右頬では、1.1段の露出差があることになります。左右の頬に1.1段の差がつくと、このくらいの陰影感が出るとわかります。
単体露出計は、顔まわりだけではなく、もちろん別の場所の露出を計ることも可能です。試しに、背景紙の前まで移動して、背景の露出を計ってみます。すると、背景はF2.8 3でした。
このように、複数ポイントの露出を計り、露出バランスを確認できる点が単体露出計の優れたところです。詳しくは後述します。
サイドからストロボでライティング
今度は、モデルの左横からストロボを発光させます。先ほどよりも、向かって右側が暗くなると想像できます。
実際にコードレスモードで測光してみると、向かって左側の頬はF5.6、鼻のあたりはF4.0 1 、右側の頬はF2.0 5でした。とすると、左頬と右頬では、2.5段の露出差があることになります。左右の頬で2.5段の差がつくと、顔にかなりの陰影感が出るとわかります。
ちなみに、背景(モデルの右肩上あたりの位置)は F2.0 5でした。
サイドからストロボでライティング(右にカポックあり)
*カポックとは、大型のレフ板のことです。
さきほどと同じシーンで、向かって右側にカポックを立ててみます。カポックに反射した光が、モデルの右頬を明るくするので、前よりは露出差がなくなり、陰影感が薄れると想像できます。
実際にコードレスモードで測光してみると、向かって左側の頬はF5.6、鼻のあたりはF4.0 7 、右側の頬はF2.8 6でした。とすると、左頬と右頬では、1.4段の露出差があることになります。カポックを置くことで、左右の頬の露出差が2.5段から1.4段まで縮まりました。結果、陰影感もだいぶ薄れました。
ちなみに、背景(モデルの右肩上あたりの位置)は F2.0 6でした。
背景に注目してみる
ここで、Photo1とPhoto3の背景に注目してみます。
2枚とも白い背景紙の前で撮影しています。しかし、背景を見てみると、Photo1は薄いグレーに、Photo3はやや濃いグレーになっています。
これは、背景紙の露出が異なるために起こります。Photo1の背景の露出はF2.8 3でした。一方、Photo3はF2.0 6でした。両者の背景には0.7段の露出差があることがわかります。
Photo1はストロボをモデルの斜め前から当てているので、背景にもある程度光が届き、それなりに明るくなっています。しかし、Photo3は、ストロボをモデルの横から当てているので、背景に届く光が少なくなり、結果的にPhoto1よりも暗くなっています。
単体露出計を使い、明るさを感覚ではなく「数値」で把握できるようになると、背景の色や濃度の違いなども表現できるようになります。
【シェフゆり茶のレシピ!】
バック飛ばし
背景の話と絡めて、よく登場するのが「バック飛ばし」です。これは、被写体の背景を真っ白に飛ばしてしまう手法です。プロフィール撮影や、写真を切り抜きで使用する場合に行います。
バック飛ばしは、入射光式で測光する場合、メインとなる露出と比較して、背景を+2段に調整します。今回は、モデルの顔の露出をF5.6にしたので、背景がF11になるように調節しました。具体的には、背景にだけ別のストロボを当てて明るくしています。結果として、背景が真っ白に飛びました。
【POINT】
このように、複数ポイントの露出を計り、全体の露出バランスを数値で確認できる点が単体露出計の優れたところです。撮影では、モデルだけではなく、それ以外のポイントの露出を計り、それらのバランスを整えていく作業も必要となります。そんなときに、単体露出計が大活躍します。
【シェフゆり子の調理結果】
モノブロックストロボとカポックで、前回撮影した窓際の写真を再現してみる
前回の記事では自然光の差し込む室内の窓際でモデルを撮影しました。その写真は、モデルの左右の頬に2段の露出差がありました。今回は、それとまったく同じ露出差をもつ写真を、ストロボで再現してみました。
「露出計」を使って露出バランスを正確に合わせ、光を再現する
左:前回の写真 サイドからの自然光で撮影
右:今回の写真 スタジオでライティングして、前回の写真を再現した
→2枚の写真を比べると、モデルの顔の露出バランスは同じになっている。
今回のセッティングでは、モデルの右頬がF5.6、鼻の前あたりがF4.0、左の頬がF2.8になるように調整しました。左右の頬の露出差は2段。したがって、前回の写真を同じ陰影感をもつ、ということになります。
単体露出計は、露出のバランスを感覚ではなく「数値」で把握することができるので、後日、まったく同じ露出バランスの写真を「再現」できます。これが、単体露出計を使う大きなメリットです。仕事の撮影においては「以前とまったく同じ写真を撮って欲しい」というオーダーがよくあります。特に、プロフィール撮影では、日をまたぎ、複数人を同じ条件で撮影することが多いです。そういったときに、単体露出計でしっかりと露出を計っておけば、前と同じ露出バランスの写真を再現することができます。数字ではなく感覚に頼り「なんとなく同じ」にしたものは、改めて並べてみると結構バラバラな印象になったりします……。
ただし、再現にあたりひとつ気をつけなければならないのは、たとえ露出バランスが同じであっても、光の「質」までは同じにならない、ということです。露出計が教えてくれるのはあくまでも光の「量」だけです。今回はストロボを用いて前回と同じ露出差の写真を撮影してみました。陰影感は同じですが、前回の自然光に比べると、どうしても光がかたい印象を受けます。したがって、再現力を高めるには、光の柔らかさ・かたさなどの「質」を知る勉強を別途する必要があります。
前回の屋外の写真と同じ露出バランスのものを撮影してみる
前回、高架下で撮影した一枚は、モデルの左右の頬の露出差は0、すなわち左右の頬の露出は同じでした。今回は、ストロボで同じ状況をつくってみました。モデルの頬は左右ともにF5.6です。
さらに同じ条件で、絞りだけF4.5にしてみました。先ほどの一枚と比べて、絞りは2/3段開いていることになります。写真が明るくなり、パキっとした印象となります。ただ、モデルさんの肌や白い衣装のディティールはだいぶ飛んでしまっています。
また、前回は屋外で、頭の上から太陽光が降り注ぐ状態の写真も撮影しました。トップライト(頭の上から注ぐ光)は、顔の露出に比べて「+1段」でした。
今回は、左右の頬の露出をF5.6にして、頭上から一灯ストロボを炊き、そちらのトップライトはF8.0になるように調整しました。バランスは前回の写真と同じです。
まとめ
単体露出計を使用するメリットは2つあります。1つ目は、露出のバランス=陰影感を数値で把握できる、ということ。そして、2つ目は、数値で把握できるからこそ、別の機会に同じ露出バランスを持つ写真を「再現」できる、ことです。
特にストロボを使用した撮影ではその重要性をより実感できるので、今回はストロボを使って撮影をしてみました。
このレシピの連載もクライマックスに近づいてきたので、今回は難しい話もでてきてしまいましたが、単体露出計の存在意義が少しでも伝わったら嬉しいです。
モデル:希
ヘアメイク:堀江裕美
メーカーサイト:セコニック フラッシュメイト L-308X
販売サイトはこちら
協力:セコニック https://www.sekonic.co.jp/