星空写真の教科書
第5回

きれいな星空写真を写すなら、標高や気温にも気をつけよう

星雲や惑星、夜空を埋め尽くす星空には、見る人の心を揺さぶるものがあります。誰しも一度は、星空を写真に記録したい、と考えるのではないでしょうか。

星空と地上風景の両方を構図に入れた写真は、一般的に星景写真と呼ばれます。主役はあくまでも星空ですが、地上の自然や建造物を写し込むことで、星空の魅力が引き立つことから、天体写真の中でも人気のあるジャンルです。

技術評論社が発売している「星空撮影の教科書」では、星空写真にまつわる様々なテーマを、著者で天体写真家の中西昭雄さんによる作例とともに解説。星空を撮影するにあたって必要となる機材から天球の動き、撮影に適した時間帯、場所の選び方、合成処理を前提とした撮影方法、海外遠征時の留意点にいたるまで、星空撮影の初心者からベテランまで、幅広いレベルの撮影者に役立つ一冊となっています。

本記事では、Chapter3「星空撮影の撮影条件を知ろう」より、撮影地の標高、気温、湿度が星空撮影に及ぼす影響について解説します。

星空撮影の教科書 ~星・月・夜の風景写真の撮り方が、これ1冊でマスターできる! (かんたんフォトLife)

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1. 標高は高いほどよい

星空の撮影において、気温や湿度といった気象条件は撮影結果に大きな影響を与えます。また標高はこれらの気象条件と大いに関係があるため、撮影場所選びの重要な要素になります。

生物にとって地球の大気は必要不可欠なものですが、「天体観測」の世界では大気は観測の敵となります。雲によって見えなくなったり、天体の光を弱めてしまったり、大気のゆらぎによって細かいところまで観測できなかったりと、よいことがありません。そのため星空撮影には、空気の量が少ない標高の高い場所が有利になります。

世界の天文学者も、標高が高く晴天率の高い場所に天文台を設置したり、人工衛星に天体望遠鏡を搭載したりして観測を行っています。星空撮影においても、標高が高いほど星空はクリアに写り、星座写真や本格的な星雲・星団写真にも有利です。

チリのチャナントール山(標高5640m)の星空は、それはすばらしいものです。空の低いところまで星数が多く、大気のゆらぎも少ないため、黄道光(こうどうこう)と呼ばれる黄道に沿った淡い光が強烈に明るく見えます。その分、人間にとっては苛酷な環境で、草木が生えず虫もいない、どこか別の星に来たような錯覚に陥ります。 撮影協力:東京大学TAOプロジェクト

2. 気温は低い方がよい

気象条件は単純ではなく、複数の要素が組み合わされるため一概にはいえないものの、一般に星空の撮影には気温は低い方が有利と考えられます。一番の理由は、カメラに搭載されているイメージセンサーの特性です。イメージセンサーは、気温が低い=センサーの温度が低いほど、ノイズが少なくなるという性質があるためです。

また気温が非常に高い国や地域では、わずかな風でも埃が舞い上がりやすく、晴れていて光害があまりない条件下でも、大気の透明度が悪くなるため、あまり星が見えないということがあります。総じて気温は低い方が有利といえるでしょう。

3. 湿度は低い方がよい

もし同じ気温なら、湿度は低い方が星空の撮影に有利です。大気中の水分が少ないほど、空気の透明度が高くなります。その分星空がクリアに見えますし、光害の影響も少なくなります。また夜露が付きにくくなるのも、大きな利点です。低温、低湿度で大気のゆらぎが少なく、星空がクリアに見える場所となると、やはり高山ということになります。

日本では湿度が低すぎて困るということはほとんどありませんが、気温の項目で解説したように、国や地域によっては極端な高温低湿度のために、星空の撮影に適さない条件になる場合があります。

湿度が高いときと低いときでは、大気の透明度が大きく違ってきます。湿度が高いと透明度が悪くなり、星の輝きが失われるだけでなく、レンズが結露しやすくなるので注意が必要です。湿度の低い日を狙って撮影すると、左の写真のように星の輝きをクリアに写すことができます。

4. 天体の高度によって写りが変わる

これは星雲や星団、月や太陽、惑星といった天体を拡大して撮影したい場合に特にいえることですが、天体の高度によって写りが大きく違ってきます。天体の高度が低いほど、大気によって減光され、またゆらぎが大きくすっきりとした像に写りません。光害の影響で、背景のかぶりも大きくなります。そのため、どうしても低空で撮らなければならない理由がない限りは、目的の天体の高度が上がる時刻を選んで撮影するのがよいでしょう。

もし低空で撮影しなければならない場合は、大気による減光が大きい場合は露出を明るくし、光害の影響で背景が明るい場合は、反対に露出を暗くします。光害の影響で背景の色が不自然な場合は、ホワイトバランスを調整します。

低空にあるとき、月は大気の影響で減光します。かつ青い光が吸収されてしまい、赤っぽく写ります(上)。夕日が赤いのと同じ理由です。ホワイトバランスを4800Kにして撮影すれば、その影響を減らすことができます(下)。

 


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