星空写真の教科書
第4回

星空撮影に向いた天候を見極めよう

星雲や惑星、夜空を埋め尽くす星空には、見る人の心を揺さぶるものがあります。誰しも一度は、星空を写真に記録したい、と考えるのではないでしょうか。

星空と地上風景の両方を構図に入れた写真は、一般的に星景写真と呼ばれます。主役はあくまでも星空ですが、地上の自然や建造物を写し込むことで、星空の魅力が引き立つことから、天体写真の中でも人気のあるジャンルです。

技術評論社が発売している「星空撮影の教科書」(技術評論社)では、星空写真にまつわる様々なテーマを、著者で天体写真家の中西昭雄さんによる作例とともに解説。星空を撮影するにあたって必要となる機材から天球の動き、撮影に適した時間帯、場所の選び方、合成処理を前提とした撮影方法、海外遠征時の留意点にいたるまで、星空撮影の初心者からベテランまで、幅広いレベルの撮影者に役立つ一冊となっています。

本記事では、Chapter3「星空撮影の撮影条件を知ろう」より、星空撮影に適した天気について解説します。

星空撮影の教科書 ~星・月・夜の風景写真の撮り方が、これ1冊でマスターできる! (かんたんフォトLife)

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1. 快晴が鉄則の星空撮影

星空の撮影では、天候は「快晴」もしくは「快晴に近い晴れ」が原則であることを知っておきましょう。気象学上では、全天のうち雲が8、青空が2しかなくても「晴れ」になります。しかしそれでは星はほとんど見えません。雲が2未満、青空が8以上ある「快晴」か、それに近い晴れであることが望ましいわけです。さらに、昼間晴れていても、夜になると曇ってしまうということもよくあります。周りを海が取り囲み、水蒸気が多い日本では、気温が下がると雲が出てしまうことが多いためです。

天気予報を見て撮影に出かけるかどうかを判断する際は、単に晴れか曇りかだけではなく、夜の湿度や、大きな晴天域に入っているかどうかに注意が必要です。

2. 撮影に適した快晴は年間60日ほど

インターネットで各都道府県の年間快晴日数を調べると、いくつかのサイトで、ランキングを見ることができます。トップは埼玉県のことが多く、年間60日程度。筆者がよく撮影に出かける長野県は、20日程度しかありません。しかし撮影可能な「快晴に近い晴れ」の日になるともう少し多く、長野県でも年間で60日程度あるのではないでしょうか。

それでも平均すると撮影可能な晩は6夜に1夜しかなく、月齢も考慮に入れると、さらに少なくなります。日本はそれだけ星空の撮影に適した夜が少ないということです。そのため日本の多くの研究機関は、海外に天文台を置いています。ハワイのマウナケア山やチリのアタカマ高地は年間300夜程度観測ができるそうですから、日本とは逆に6夜に5夜観測可能ということになります。

3. 雲があったらダメなのか?

「快晴」もしくは「快晴に近い晴れ」が原則である星空写真ですが、雲があったらダメなのかというと必ずしもそうではありません。一般の風景写真で雲が効果的に作品を演出することがあるように、星空写真でもよい感じに雲が写っていれば、優れた作品になり得るでしょう。特にタイムラプス撮影の場合には、適度に雲が流れてくると、臨場感が増して見ごたえがあります。

しかし雲はどんな出方をするかの予想がとても難しく、好みの雲が出てくれるかどうかは運次第といえます。夏の雷雲や火山の噴煙は、星空とのコラボレーションとして興味深い被写体です。いずれも稲妻を放ち、強烈な印象の星空写真になる可能性があります。しかしこれらの撮影には危険が伴いますので、あまりおすすめできません。

画面全体に雲は写っていますが、量としてはたいしたことはなく、星もたくさん写っています。この程度の量の雲であれば、星空写真のアクセントになります。

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辛うじて雲の切れ間から星が見えていますが、夜空の大半を雲が占めており、街灯りを反射して明るく写ってしまいました。星空写真とはいえない、NGの写真です。

4. 天候によってカメラの設定は変わる?

雲があったりなかったり、あるいは大気の透明度がよかったり悪かったりで、カメラの設定を変える必要があるでしょうか? 多くの場合答えはYesで、変更した方がよいケースが大半です。

その理由は、光害の影響です。雲があると街灯りを反射したり、大気の透明度が悪いと光害の影響に大気の減光が重なったりして、背景が濁った感じの発色になります。そのため露出に加え、ホワイトバランスの調整が重要になってきます。一方、光害のない場所であれば、雲があっても光の反射がないためそこだけ黒く見え、星がないように見えます。日本にはそのような場所は絶滅寸前になってしまいましたが、そんな場所なら設定変更の必要性も少ないでしょう。

雲がない場合

光害がほとんどないオーストラリアで撮影した天の川です。このときは、ときおり雲が流れてきて、画面内に写り込むような天候でした。しかし、このカットには雲がほとんど写っていません。

雲がある場合

同じ場所で撮影した写真ですが、こちらのカットには、画面の右側に雲が写り込んでいます。光害の多い日本と違い、雲は街灯りを反射しないため黒く写ります。設定の変更は不要です。

 


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