写真に限らず、芸術表現の場ではしばしば「自分らしい」表現に価値があるとされます。ではそこで求められる「自分らしさ」とは端的に言ってどのような過程を経て作品として発露するものなのでしょうか。
「個性あふれる“私らしい”写真を撮る方法」著者の野寺治孝さんは写真表現において大事なこととして、撮影者の「感性」と「個性」を挙げています。本書では機材やテクニックも重要な要素としながら、心構えや考え方に重点を置いて、「私らしい写真」を撮るヒントとなる72のテーマについて語っています。
本記事では第1章「これからずっと写真を続けていくために」より、表現したいイメージを撮影するための技術の一つとして「ボケ」と「被写界深度」について解説します。
被写界深度をコントロールするということ
このコンテンツは少々難しいのでじっくりと読み進めて理解していってください。初心者の方にとっては最初の難関かもしれませんが頑張ってください。
カメラの[絞り優先AE]は、自分の好みの”絞り値”を選ぶとカメラが自動的にシャッタースピードを設定してくれるモードのことです。このモードの最大の特長は、絞り値を変えることで”被写界深度”が調整できることです。それともう1つの特長は、どのような絞り値にしても露出(明るさ)が一定ということです。絞り値をF4、F5・6、F8と変えた時に、それに伴ってシャッタースピードが変化しても露出が変わることはありません。
“被写界深度”とは被写体にピントを合わせた時、その前後のピントが合っているようにボケなく見える範囲のことです。絞り値の数値が小さいほど被写界深度は浅くなり、大きいほど深くなります。
たとえば絞り値がF2よりもF16の方が被写界深度は深くなり、ピントの合っている範囲が広くなります。ちなみに画面全体にピントが合っているように見えて、ボケた箇所がないことをパンフォーカスと言います。また被写界深度はレンズが広角か望遠かによっても変わってきます。同じ絞り値でも広角になるほど被写界深度は深くなり、望遠になるほど浅くなっていきます。加えてカメラから主役のモチーフまでの距離、さらにそのモチーフから背景までの距離によっても変わってきます。
ですから「F22で撮れば被写界深度が深くなり、すべてパンフォーカスになる」というのは、その時々に使用するレンズと条件によってはそうなる場合もありますが、なりにくい場合もあるということなのです。
ではなぜ「被写界深度のコントロール」が大事なのでしょうか。それは自分で”ボケ具合”をコントロールできるからです。ポートレートならば背景をボカして人物を浮き上がらせて強調することができます。自然風景ならばパンフォーカスにして画面全体を見せる、といった自分が撮りたいイメージどおりの写真が撮れる技術なのです。
ピント、露出、シャッタースピードの知識がしっかり頭に入っていれば、とりあえずは上手な写真は撮れます。しかしその先の感性と個性を”私らしく”表現するためには「被写界深度のコントロール」は必須になります。