いい写真を撮る100の方法
第7回

予期せぬシャッターチャンスを捉えるために

あなたは「いい写真」と聞いてどのような写真を想像するでしょうか。人によってその定義はそれぞれです。なかなか思った通りには転ばない偶発性も写真撮影の面白さですが、結果的には「撮影者の伝えたい事柄がしっかり伝わる」写真が「いい写真」といえるのもかもしれません。

「いい写真を撮る100の方法」では、スナップ写真を中心とした100点の写真について、撮影意図や撮影時のエピソードを交えながら、表現力を鍛える視点や思考法について解説。撮影者として他者に自身の感動やその場の空気感、興味の対象を伝える写真表現に向き合う姿勢を学べる内容にまとまっています。

本記事では第4章「構図を制する者が写真を制する」より、予期せぬタイミングのシャッターチャンスの捉え方について説明しています。

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いい写真を撮る100の方法

いい流れは予期せぬ状況で突然現れる

一時期北京にハマった理由は、迷路のような路地とそこで見られる日常もあったが、こうした驚くべき人物と遭遇できることもあったように思う。毛沢東の時代からタイムマシンに乗ってきたような人も珍しくなかった。 フルサイズ一眼レフ/ 56mm・ズームレンズ/絞り優先オート/ F2.8 / 1/1600秒/ WB オート/ ISO200

名作と言われる写真、あるいはSNSや雑誌で見て気になった写真でもいい。ポイントとなりそうな部分を指でなぞっていくと、一本のきれいな線で結ばれることがある。すべての名作や秀作というわけではないが、気付いた時はあっぱれという気分になる。自分も常に線を意識しながら撮影しているが、他人に伝わるような線がそうそう描けるわけではないからだ。

構図というのは一発で決まることもあるが、大抵は試行錯誤や微調整をしていく。しかし考えれば考えるほど上手くいかないものでもある。やめた……と思ってカメラを下ろし、さっきまでファインダー越しに眺めていた光景を肉眼で見た時に、ふとアイデアが浮かんだり、新しい発見をすることも多い。

例えば横位置ではフレームの中の要素が多くて決まらなかった構図が、縦位置で構え直したら見事にハマったということは多い。またアングルや立ち位置、レンズの焦点距離を変えたら、うまく重ならなかったものが重なったということもある。

しかし写真の面白いところは、いくら考えても思いつかない構図が突然生まれることだろう。もちろんそれに気付く観察力や、逃さず切り取る敏捷性は必要だが。

この写真はまさにそんな一枚。北京のある池のほとりで、現地にある日系企業から依頼されたロケをこなしていた。光と背景がいい場所を見つけ、モデルを立たせようとしたのだが……。そこに背筋の伸びた爺さんがすっと横入りして、柵の親柱に足を乗せたのだ。親柱は池に沿って何十本とある。おいおい、ここじゃなくてもいいじゃん!と思ったが、実はここだけが日陰だった。というかこの爺さんどこまで足が上がるんだ。

結局爺さんは写真の状態で2~3分静止していただろうか。それが両足だから、5分くらいは待たされたと思う。話しかけたけれど親柱と一体化してまるで石のように反応がなかった。それを横から見ると、片足を天に突き上げた爺さん、なかなかかっこいいではないか。足先を見ると使い込まれたカンフーシューズ。ふと「ドラゴンボール」の亀仙人を思い出した。元気なお年寄りが多い昨今の日本でも、なかなかここまでの鉄人はお目にかかれない。親柱や手すり、奥の対岸といった縦と横の線に対して、打ち込まれた楔のようにも、あるいは記号のスラッシュのようにも見える。

スナップではあまり選ばない縦位置で構えると、爺さんの頭上で風になびく柳の枝が。爺さんの体とシンクロして、画面の対角線を結ぶ線が現れた瞬間、モデルを取るはずのカメラで1枚だけシャッターを切った。謝謝、いたずらな北京の風。


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