あなたは「いい写真」と聞いてどのような写真を想像するでしょうか。人によってその定義はそれぞれです。なかなか思った通りには転ばない偶発性も写真撮影の面白さですが、結果的には「撮影者の伝えたい事柄がしっかり伝わる」写真が「いい写真」といえるのもかもしれません。
「いい写真を撮る100の方法」では、スナップ写真を中心とした100点の写真について、撮影意図や撮影時のエピソードを交えながら、表現力を鍛える視点や思考法について解説。撮影者として他者に自身の感動やその場の空気感、興味の対象を伝える写真表現に向き合う姿勢を学べる内容にまとまっています。
本記事では第3章「カメラの使い方、レンズの選び方」より、「ボケ」に意味を持たせることの重要性について解説します。
ボケにしっかりと情報と意味を込める
明るいレンズや長めの焦点距離を使い、絞りを開けて背景をボカすことに熱心な人をたまに見かける。いや、よく見かける。ただ背景がボケているだけの写真を見ると、それ何を写したいの?と僕はもどかしい気持ちになる。もっともSNSでは、そんなボケているだけの写真が”いいね”をたくさんもらえるのも事実なのである。
SNSでボケが大きな写真が評価されるのは、実は鑑賞サイズが小さいというメディアの特性でもある。これは写真の性質を知れば納得がいくと思う。
写真はプリントでもスマホでも基本的には平面だ。これを人間が手に取らなくても平面と認識できるのは、両眼で鑑賞しているから。脳は両眼の視差でモノの立体感を感じているのだ。だから片眼で物を見ると、視差がないためすべて平面的に見えてしまう。一方で脳はモノの形や大きさを情報として有しており、視差がなくても想像で立体的なイメージをつくる。写真も片眼で見ると平面という認識が薄れ、両眼で見るより立体感が生まれてくる。
同じ原理で、鑑賞距離が遠くなると両眼の視差が少なくなり、平面の写真でも立体的に感じるようになる。美術館やギャラリーで大きな写真や絵画に迫力を感じるのは、単に大きいからというわけではなく、人間のメカニズムと関係しているのだ。
反対に小さな写真を近距離で鑑賞すると、視差が大きいため平面という認識が強くなる。SNSの写真はスマホはもちろん、パソコンでもさほど大きく表示されない。そのため背景が大きくボケた写真は、相対的に他の写真より立体的でいい写真に見えてくるというわけだ。
僕も仕事では企業や飲食店がSNSで掲載するための写真をよく撮影している。同じ場面を撮影しても、鑑賞距離があるポスター用は絞り気味にしてシャープに見せるが、SNS用はちょっとボカしすぎかなというくらい背景をボカす。
そのとき僕が心がけているのは、ボケに何らかの情報やデザイン、色彩を込めること。ボケを描くために色のあるものを被写体の前後に置くこともある。背景がただボケているのは空白と同じで、立体感や想像させる力がどうしても弱くなるのだ。以上、マジメなボケの話。