伊藤之一写真展「Light of the Ring」

2019年10月2日~10月7日 アメリカ橋ギャラリー

(c) 伊藤之一

神社の土俵で繰り広げられる日々の情景

たとえばビルの天井についているスプリンクラーだったり(『ヘソ』 2005年)、高圧線の鉄塔だったり(『テツオ』2006年)、雨の日の道路だったり(『雨が、アスファルト』2009年)、日常の中にある普段は気にもとめないモノや風景を、伊藤之一はまるでコレクターのように写真として収集していく。

彼が今回、テーマにしたのは世田谷八幡神社境内にある土俵。古くから奉納相撲が行なわれてきた由緒ある「土俵」だ。

「15年も近くに住んでいて、土俵があることは知っていたのですが、2年ほど前、仕事の撮影帰りに通り掛かったら神社の前に長蛇の列ができていた。ちょうど奉納相撲の日だったんですね。普段はあまり人気もなく静かな境内に人が集まっている。

それからその土俵が急に気になり、撮り始めたんです」。

世田谷八幡の土俵は緩やかな傾斜の石の観覧席で囲まれている。伊藤之一は2年間、時間が空けばそこに通い、ほぼ同じ場所に三脚を据え撮影を続けた。カメラを振り土俵を左右半分ずつで撮影。合わさった2枚の写真には数秒の時間の経過が写り、視差のズレは丸いはずの土俵に不思議な違和感を与えている。

2年間通して撮影した写真の中には、1年で一番賑わう奉納相撲だけではなく、普段の日の土俵で遊ぶ親子や、朝の散歩に来た老人、なにやら言い争っているような男女の姿、雨の日、雪の日、早朝、深夜の誰もいない土俵も写っている。

最初「神社の土俵の写真」と聞いた時は、失礼ながらそれが写真集としてまとまるのかと思ってしまったが、そこには東京の四季があり、人々の営みがあった。伊藤之一が今回撮り続けたのは、そうした街の息づかいなのかもしれない。

9月15日に刊行される写真集「Light of the Ring」は81点を収録。恵比寿・アメリカ橋ギャラリーでの写真展では約40点が展示される予定。

<開催概要>

伊藤之一写真展「Light of the Ring」
期間:2019年10月2日(水)~10月7日(月)
会場:アメリカ橋ギャラリー
東京都渋谷区恵比寿南1-22-3
https://americabashigallery.com/exhibitions/#exhib_2470
03-6303-1414
開館時間:11時~19時(初日は14時から、最終日は17時まで)
会期中無休、入館無料

(c) 伊藤之一
(c) 伊藤之一
伊藤之一写真集「Light of the Ring」 装丁:林 琢真 発行所:青幻舎 印刷・製本 株式会社ライブアートブックス A4サイズ上製本、108ページ、定価3500円(税別)

コマーシャル・フォト 2019年10月号

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