「ビデオSALON.web」からの転載記事です。
1910年から2000年代まで世界各国の映画ポスターを芸術、商業的視点から俯瞰していく書籍『映画ポスターの歴史』。さる9月1日、書籍発売に先駆けてTSUTAYA TOKYO ROPPONGIにてトークイベント『映画ポスターの過去・現在・未来』が開催された。登壇者は本書を監修してくれた国立映画アーカイブ主任研究員の岡田秀則さんと数々の映画ポスターを手がける人気グラフィックデザイナーの大島依提亜さん。お二人に本書のなかで気になったポスターをセレクトしてもらい、その魅力やそれにまつわるエピソードについて語ってもらった。
後半となる今回は、映画のグラフィックを中心に、デザイナー・アートディレクターとして活躍している大島依提亜さんが選んだポスターについて話した模様をお届けする。
大島依提亜さんが本の中で気になったポスター
なんだかんだでソール・バスの影響は大きい。『黄金の腕』
大島:このポスターはソール・バスなんですけど、本当は一番最初に選ばないといけないところを岡田さんマニアック過ぎて選んでなかったんで、僕が選ばないといけないのかと思ったんです(笑)。それくらい映画のポスターといえば一番有名なグラフィックデザイナーで、そのなかでもかなり有名なポスターです。『黄金の腕』のポスターバージョンでは人が入ってなくて、色面構成だけでやってるやつが本当は好きなんですけど、このバージョンもおもしろいですよね。
岡田:日本映画で2013年制作の『二流小説家』という作品があって、そのポスターがずいぶん『黄金の腕』っぽいなぁと思ったんですけど。
大島:僕もそう思った(笑)。真似したくなるようなグラフィックなんですよね。僕自身もソール・バスの影響っていうのはなんだかんだですごく大きくて。例えば、この色彩? 青系統・紫系統でまとめるとか。単純な色を使ってるんだけど同系色の鮮やかな色でまとめるとすごく決まりやすいとか。
岡田:『シャイニング』とかもそうですか? 背景は黄色一本なんだけど、文字の中から怖い顔が出てくるポスター。
大島:そうそう。そういうのがいいんですよね。この時代ってモノクロの映画なんだけど、写真を人工着色して着彩しちゃうものもあるんですけど、モノクロの映画でありつつ、ちゃんと映画のポスターとしての鮮やかさや艶やかさをキープしてるところがソール・バスの持ち味ですよね。
岡田:なるほど。それはやっぱり、作られている人ならではの視点ですね。
実は企業ロゴや広告も数多く手がけていたソール・バス
大島:ソール・バスって映画ファンの間では「映画ポスターの巨匠」としてお馴染みなんですけど、(徐にビニール袋から取り出して)紀文のはんぺんあるじゃないですか? このマーク、ソール・バスなんですよ。あとね、(さらにボックスティッシュを取り出し)「Kleenex(クリネックス)」という文字もそうなんです。あとはコーセーとかミノルタとか。だから、実は日本の生活に根ざしたプロダクトのロゴを手がけていて。大企業のロゴタイプや広告なんかもかなりやっているんです。確かに映画の仕事がメインなんだけど、グラフィックデザイナーとしてもかなり巨大な存在だなと思ってます。
岡田:私も映画デザイナーのソール・バスって言ったら、グラフィックデザインの専門家の方に「違います!」って明確に言われたことがあります。
大島:そこがね、僕からすると、モヤモヤしていてグラフィックデザイナーとしては総体的に見てるんですけど、映画っていうのはその一端であって、映画ファンからするとやっぱり映画のグラフィックデザイナーということになるかな。
岡田:そうですよね。あとご自身で映画の始まりや終わりのタイトルクレジットも手がけていますから。そういうところを見ると、やっぱり映画に深く関わっていると思います。
大島:あと、もう一つ絵本も作ってて、『アンリくん、パリへ行く』という本で、日本版が2012年に出たんですけど。学生時代にグラフィックデザイナーの歴史を見てるときに、その本が掲載されてて、それにすごいやられちゃって。その影響がものすごい大きいんです。
小さなタイトルでも目線を誘導できる設計が秀逸『ローズマリーの赤ちゃん』
岡田:これもフランクファート。
大島:僕、ホント大好きで。この人の仕事が載っているということ自体がこの本の魅力だと思います。僕、勘違いしてたっていうかフィリップ・ギブスさんて人が、このポスターを作ってるのかと思ってたんですけど、二人体制で作ってるんですかね?
岡田:社内で役割分担してるんですか?
大島:この本ではスティーヴン・フランクファートさん名義で掲載されていますが、会社名が二人の名前の連名だったりするので、フランクファートさんの仕事ということで表記されている場合もあるということなんでしょうかね? 僕が好きなのはこの本に載っているものとは別バージョンのポスターになるのですが、これもタイトルが異常に小さい。そのタイトルの使い方がいいんですよねぇ。ぽつんとあるタイトルと乳母車の大きさが対比されてるから、一緒に目線もそこに向かうので、小さいから読みにくいという話じゃなくて、ちゃんとそういうコントロールがされているのが秀逸だと思います。
デザインの作法は昔から確立しているが、ビジュアル次第でフレッシュに見える瞬間がある『ロブスター』
大島:これはかなり時代が飛んで最近のものですが、ギリシャの監督でヨルゴス・ランティモスさんという、ちょっと変わった映画を撮る人なんですけど、その最近のヨルゴス作品を全て手がけられていてるのは同じくギリシャのデザイナーであるバシリス・マルマタキスさん。この『ロブスター』自体もすごく変わった設定で、45日以内に伴侶ができないと動物に変えられちゃうっていうおかしな話なんだけど、配偶者の不在性みたいなものをこうやって切り取るだけで端的に表してしまえるのはすごいなと思いました。もちろん日本版ではこのビジュアルは全然使われませんでした。
で、さっきの『オルフェ』に戻れますか?
大島:『ロブスター』の前作にあたる『Alpies(日本では未公開)』という映画がありまして、これが『オルフェ』のポスターと類似する、三角形の構図のコラージュという共通項があって、制作者がどこまで意識しているかどうかはわからないですが。そもそもデザインの手法というのはかなり古い時代から確立されちゃってるんだけど、似たような手法でも、時代時代で、ものすごくフレッシュに見える瞬間があるというのが、すごくおもしろいなと思って。比べるとすごく似てるんだけど、やっぱり現代的でもあるし、普遍的な部分もあるし、新しさもある。すごくこのギリシャのデザイナーさんは優秀だなと思いました。
トークセッションを終えて
岡田:実際に本をご覧になると、今回の話も「あぁ、これのことだったのか」という点がたくさんあると思います。とはいえ、限られたページ数ですから、「この人取り上げてないのか」とか「この映画のビジュアル出てないのか」というご意見もありそうですけれど、これからこういう流れの本が増えていけばいいと思います。
大島:あとは、ご自身でモヤっとしたら調べてみると、そこからまた世界が広がりますし、すごい楽しいです。
岡田:そうですね。しかし、よくこれだけの映画ポスターを載っけた本が出たなと。
大島:本当本当。
岡田:それは画期的だと思います。今は『スター・ウォーズ』やったドリュー・ストルーザンとか『唇からナイフ』のボブ・ピークとか作家別の本がどんどん発行されていますからね。今、映画本は売れないと言いますけど、映画ポスター本はついに盛り上がってきたという印象を持っていますし、これはまさにその先駆的な一冊だと思います。ぜひお手に取ってみてください。
二人:ありがとうございました。
転載元:ビデオSALON.web
https://videosalon.jp/interview/history_of_filmposter_event/
(前編はこちら)