いわゆる「鉄道写真」は、写真撮影の一ジャンルとして広く認知されていますが、日常の中でカジュアルに撮れる一方で、作品に仕上げるという観点からは、動体・風景写真の技術や、写真芸術表現の感覚など、撮影者に複合的な素養を求める側面がある、奥の深い撮影ジャンルです。
風景写真家として知られる相原正明さんの著書「夜鉄(よるてつ)」は、夜行列車をテーマに撮影した作品集「STAR SNOW STEEL」と、夜に列車を撮影する際のテクニック解説を併せて収録した実践的なガイドブックです。
推奨する機材の方向性やロケハン時の留意点、写真セレクトの考え方、完成イメージを想定した絵コンテから撮影地周辺の見取り図まで、相原さんの「作品レシピ」とも呼ぶべき情報が詰まった一冊となっています。
本記事では「夜鉄テクニック解説編」より、絵コンテで作品イメージを固定した一例を紹介します。なお、ここで紹介した作例は、本書前半に掲載している作品集「STAR SNOW STEEL」に収録されています。
昔からの定番、新旧の対比
1. Location
ホームの側線が旧型車両の博物館
岳南富士岡駅にはホーム横の引き込み線に、いくつかの旧型デッキ付きEL(電気機関車)が停まっている。今は現役を退いたELたち。ホームは引き込み線に隣接しているので、現役の車両と並べて1枚の写真に収めることも簡単だ。
岳南富士岡駅の2本の側線には古いEL4両が置かれ博物館のよう。ホームは列車交換ができ、邪魔な照明はない。
2. Concept
新旧車両の静と動
重厚な旧型EL。だが昼間に撮るとサビやペンキのはげなどの劣化が目立ち、画になりにくい。そこで夜、真横を通る現役電車の明かりを照明にして、静かに余生を送っている重厚な車両との新旧対比のイメージを狙った。今回は個人的な趣味でデッキがかっこいいED402を選んだ。
3. Technique
夜の闇には立体感が必要
デッキ付きのELを被写体に選んだ。のっぺりとした箱型のELと比べて凹凸があり画になること、黄色くペイン
トされたデッキが夜に映えそうなことがその理由だ。
ローアングルが決め手
物体としての重厚感を強調するために、ローアングルから撮影。この効果は風景撮影だけに限らず、たとえばかのヒトラーは肖像写真を下からしか撮らせなかったという。
映り込みに気をつける
輝度差が大きいためマニュアル露出で撮影している。またELの左窓下の金属の帯に自分が映り込んでしまわないよう、念のため撮影時には黒い衣服を着用した。
派手な被写体だけが作品となるのではない
色設定を「ニュートラル」にし、老兵ここにあり、という鉄の重厚な質感を出した。現役電車が止まる寸前にシャッターを切り、光の残像で静と動の対比を作り出した。
絵コンテ
見取り図
側線に設置された4台のEL機関車と現役電車の対照がこの駅の夜鉄的ポイント。駅舎も雰囲気はよいが、駅前の自動販売機の光が強く撮影は難しい。撮影ポイントはA~Eの5つ。ポイントAはホームの屋根越しに、ポイントBはホームの柱越しから撮影。ポイントDが掲載作品の撮影位置で、EL機関車の横を列車が減速して通るタイミングでバルブ撮影。新旧光と影のイメージを狙った。ポイントEからは28~100mm 程度のレンズを使用し、4台のEL機関車を入れてポイントC、Dと同じくバルブ撮影を試みる。