光と影の処方箋
第8回

広告写真はスナップ写真のエッセンスの宝庫

写真家の相原正明さんは著書「光と影の処方箋」のなかで、「心が通う写真の撮り方」を理解すれば、撮影スタンスが変わり、作品も良い方法へ変わっていくといいます。自然風景、街、人物、鉄道など、地球上のあらゆる被写体を撮影してきた著者が語る“心が通う写真の撮り方”とは?

本記事では、第5章の「Travel snap(旅行スナップ)」の中から、スナップショットを撮る上での極意についてご紹介します。

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「光と影の処方箋」
APS-Cサイズカメラ 56mmF1.2 絞り優先AE(F2.2・1/250秒)+1.7EV ISO200 
WB:晴天 ニュージーランド・南島 テカポ湖

 

広告写真を見ることはスナップ撮影に役立つ

〔 撮り方 〕
が見えるベンチで朝ご飯を食べようと思い歩いていると、タッチの差で先客に座られてしまった。良い場所だったのにと思った瞬間、頭の中に絵がひらめいた。ウォークマンの広告のワンシーンだ。それまでつけていたズームからボケの美しい56mm 単体レンズに交換する。ブルーのマフラーが生きるように色のモードもソフトにして少し彩度をUP。そして露出を+1~2EV に設定した。最初、彼女はベンチの左側に座っていた。「右に寄って」と彼女に念を送る(笑)。本気でそう思った。すると彼女はバッグを左にずらしセンターに移動したのだ。僕はしゃがんでカメラと彼女のマフラーが同じ高さになる位置で撮影した。撮り終えると彼女はマフラーを外してしまった。そ
れは一瞬の出合いだった。

〔 処方箋 〕
写真家になる前、僕は広告代理店の営業マンだった。毎日仕事で膨大な広告写真を見ていた。そして知らぬ間に広告写真の絵作りというのが心にインプットされた。

今回も、このシーンを見たとき、空を少し入れるとタイトルコピーが入ると思った。広告あるいは編集物は写真+文字を考えなければならない。この手法は、フォトブックあるいは広告編集の仕事を目指すときにとても大事だ。広告はアートディレクターが考えたカンプという完成形の絵に基づいて撮影されるため、画面に無駄がない。他社と差別化していかに印象に残るかを考え、構図とライティング、そして瞬間を捉える。時間があるときに広告写真をたくさん見ておくと、参考になる要素はたくさんある。

広告写真は完璧な映像を目指した賜物だ。写真の勉強には宝の山である。

 


<玄光社の本>

「光と影の処方箋」

著者プロフィール

相原正明

1988年のバイクでのオーストラリア縦断撮影ツーリング以来かの地でランドスケープフォトの虜になり、以後オーストラリアを中心に「地球のポートレイト」をコンセプトに撮影。2004年オーストラリア最大の写真ギャラリー・ウィルダネスギャラリーで日本人として初の個展開催。以後写真展はアメリカ、韓国、そしてドイツ・フォトキナでは富士フイルムメインステージで個展を開催。また2008年には世界のトップ写真家17人を集めたアドビアドベンチャー・タスマニアに日本・オーストラリア代表として参加。現在写真家であるとともにフレンドオブタスマニア(タスマニア州観光親善大使)の称号を持つ。パブリックコレクションとして、オーストラリア大使館東京およびソウル、デンマーク王室に作品が収蔵されている。また2014年からは三代目桂花團治師匠の襲名を中心に落語の世界の撮影を始める。写真展多数。写真集、書籍には「ちいさないのち」小学館刊、「誰も言わなかったランドスケープ・フォトの極意」玄光社刊、「しずくの国」エシェルアン刊。

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