「コマーシャル・フォト 2018年6月号」では、拡大と変化を続ける写真ビジネスの在り方とフォトグラファーたちの現状にせまる特集「拡張を続ける広告写真の行方」を掲載しています。
特集ではECビジネスにおける商品写真制作をはじめ、融合しつつある映像と写真の境界、プロとアマの垣根など、幅広いテーマに言及していますが、本記事では特集で扱った事例の一つとして「公募で選んだ高校生が撮影する広告写真」のケースを紹介します。
POINT:
- 撮影したのは3人の高校生
- カメラは写ルンです
- 3万3千枚からセレクト
撮影時の様子。脚立の上にまたがって撮影したり、時には被写体にくっつくほど近くに寄ったり。キャンペーンのメインキャラクター、八木莉可子さんも物怖じせず必ず撮るようにというミッションを与えられ、3人も果敢にアプローチしていった。
ポカリスエット制作ドキュメント
ポカリスエットの広告写真を高校生3人だけに任せる。この壮大な企画は春休み期間の何日かを使って行なわれたリアルなプロジェクト。その舞台裏の様子をレポートしていく。
オリエン
撮影
撮影はダンスの練習風景とCMの本番を追いかける。『写ルンです』で撮るとはいえ、撮影班という腕章をつけて、「今日この人たちはプロなんだ」と紹介してから現場に参加してもらった。
最初は裏に回って撮っていたが、次第に自らコミュニケーションを取るようになって、出演者とも打ち解けて写真を撮るようになってきた。
セレクション
3万3千枚の写真を全て現像し、いったんセレクト。最終段階では高校生たちも交えてセレクトした。
「誰が何を撮ったのか、それぞれ何枚採用されたのかは彼らにも伝えていないんですけど、3人の写真を使っています。自分が一番多いんじゃないかとみんないいように解釈していますよ」(正親氏)。
INTERVIEW:正親 篤(電通)「高校生を信じて任せれば『想像以上』のものができると証明したかった」
広告キャンペーンとして長い歴史のある大塚製薬のポカリスエット。今年は3人の高校生が撮影している。リスクをできるだけ避けていく今の広告の世界では無謀とも思えるアイデアだ。実際に撮った写真を見てみると、高校生が撮ったとは思えない水準の写真があがっている。なぜ高校生に任せようと思ったのか。CD兼ADの正親篤さんに聞いた。
正親 嘘とホントというのが自分の中でずっと引っかかっていました。なぜラベルを正面に向けて撮るのか。なぜ笑わなきゃいなきゃいけないのか。なぜ喉も乾いていないのに飲まなきゃならないのか。
高校生のリアルってなんなんだろうというのを「ポカ写」というフレームでやったりしていたんですけど、去年奥山由之さんにお願いした企画で高校生との距離感はすごく詰まりました。
奥山さんだったというのも大きいですけどCMを作っている現場にフォトグラファーを放り込んで撮ってもらうという企画だったから距離が縮まった。そこで、今年はADの松永美春のアイデアで高校生に撮らせてみることにしました。舞台を用意して、そこで起こっていることを撮ってもらおう。ADとフォトグラファーとの関係がいわゆる広告写真とは違うものになったと思ったんですよ。
―この方法に手応えを感じたのですね。
正親 そうですね。ただ、こちらも大塚製薬に対して責任があるので、いきなり高校生に撮ってもらうのはあまりにも無責任だ。その時に考えたのがコーチシステム。プロのフォトグラファーに教わりながら競作していく。
ただあるフォトグラファーのマネージャーに「世の中に出た時にフォトグラファーの撮ったものと高校生が撮ったものとの違いがわからないんじゃないか」と指摘されたんですね。それを聞いて、自分はもしかしたら高校生を信じきれてないんじゃないかと気付かされた。そして腹を決めて高校生だけで作ることにしました。回り道したことで企画の純度が高まった。その時点であがりも見えていた気がします。
―高校生は公募で選んだのですか。
正親 去年、ガチダンス選手権という企画でみんなが踊った動画を集めて1本のCMを作りました。「ブランドがみんなのものを公募するよ」ということが伝わると、ブランドの親近感が増すんですね。
写真5点と作文を書いてもらって134名の中から3名選びました。アマチュアのコンテストで賞を獲っている高校生もたくさんいましたけど、選んだのはとにかく写真が好きでたまらないといった感じの人。技術的なことを求めるのであればプロにお願いすればいいことですから。この3人を選んだことが今回僕らがした唯一の仕事です(笑)。
―現場でプロと高校生の差を感じた所はありますか。
正親 プロが撮る写真とは守備範囲が違う。初日の練習スタジオが真っ暗だったんですよ。プロだったら「これじゃ映らないから照明焚いて欲しい」って言うと思うんですけど、彼女たちは真っ暗な中でバシバシ撮っている。プロだったらそのまま撮ったりはしない。プロは1から10まで自分たちでセッティングできますから、そこは高校生とは圧倒的に違います。
ただ「撮りたい」という気持ちはおそらく一緒なんですよ。だったら高校生たちに足りないところを僕たちがディレクションしてお膳立てしてあげればいい。
―3人に指示したことはなんですか。
正親 3人にはとにかく撮れと。去年、奥山さんと一緒にやって、気軽に写真を撮る時代だからこそプロのすごさがわかりました。ただ素人とプロの境目がどんどんわからなくなっています。舞台を用意してプロのようにサポートすればここまでできるのかというとそうではなくて、現場の空気とか高校生を撮るという限られた1点だけで成立する。
例えば今から著名人のポートレイトを撮ってと写ルンですを渡しても絶対にいいものは撮れないです。そこは違うんですけど、「被写体が高校生である」「ポカリスエットの広告である」「CMの現場を撮る」という全ての条件が揃って、我々がサポートすればこんなすごいのが撮れるんだなと。
3万3千枚の中から13枚選びました。そりゃあ3万枚撮ればあると思います。去年の奥山さんは1万枚撮っていましたけどそのほとんどは使える写真でした。しかも物語もちゃんと写っている。でも3人の写真も僕らの想像を超えてきました。
高校生に写真を任せたということがこの企画の一番大きなところ。高校生を信じていたからこれだけの写真が撮れたと思っています。撮った写真のクオリティが高かったことでコピーの「自分は、きっと想像以上だ。」につながっていきました。結局はこの企画を決断してくれた大塚製薬が一番偉いですし、感謝しています。