オールドレンズ・ライフ
第9回

お手頃価格でボケ味を楽しむ Ultron 50mm F2

かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、デジタルカメラ全盛の現代において「オールドレンズ」と呼ばれて人気を集めています。人気のきっかけとなったのは、ミラーレスカメラの普及でした。オールドレンズのほとんどは、そのままでは現行機種のカメラに装着できませんが、マウントアダプターと呼ばれるパーツを用いれば、現代のミラーレスカメラに取り付けが可能。そこから「レンズ遊び」が支持を集めるようになったのです。

写真家・ライターの澤村徹氏は、書籍「オールドレンズ・ライフ(玄光社刊)」シリーズで7年に渡ってオールドレンズの楽しみ方を紹介してきました。その集大成として刊行されたのが「オールドレンズ・ベストセレクション」。ここで採り上げた172本の魅力的で個性的なオールドレンズの中から、本記事では、Ultron 50mm F2をご紹介します。

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オールドレンズ・ベストセレクション

 

温かみのあるオーバードライブのように

Leica M[Typ 240]+ Ultron 50mm F2 絞り優先AE F2 1/2000秒 ISO200 AWB RAW 同スペックのライカのズミクロンと比べ、ボケに雑味が感じられる。わずかにぐるぐるボケの印象もあり、それらが描写の旨みに貢献する。

大口径レンズは芸術家肌、スタンダードクラスのレンズは職人肌。レンズの明るさによる描写テイストは、おおむねこのような傾向がある。大口径タイプは危うさを秘めたセンシティブな描写が魅力。スタンダードタイプは安定感のある描写が魅力だ。ライカのズミルックス(大口径タイプ)とズミクロン(スタンダードタイプ)の関係を思い浮かべればわかりやすいだろう。

ところが、ウルトロン50ミリF2はさにあらず。プロミネントには、大口径タイプのノクトン50ミリF1.5と、スタンダードタイプのウルトロン50ミリF2がある。ノクトンは開放でわずかに滲みこそするが、実に堅実な写りをするレンズだ。一方、ウルトロンは開放F2の割りに滲みがあり、ぐるぐるボケを感じさせるカットもめずらしくない。スタンダードクラスのレンズなのに、思いの外描写が暴れがちなのだ。

クセ玉と言うほどではないが、ウルトロン50ミリF2は隠れクセ玉的な妙味がある。真空管アンプをオーバードライブさせたような、マイルドな収差が心地良い。

Leica M[Typ 240]+ Ultron 50mm F2 絞り優先AE F2 1/180秒 +0.66EV ISO200 AWB RAW 前ボケを活かし、緑のトンネルをやさしく捉えた。周辺部にぐるぐるボケの気配があり、ほど良い雑味を演じている。

プロミネント用の普及価格帯標準レンズだ。製造は1950年代で、5群6枚のダブルガウス型である。カプラー経由でM型ライカに装着できる。

Mount : Prominent mount / Bland : Voigtländer / Ultron 50mmF2 / 中古価格:20,000~40,000円 プロミネント用の普及価格帯標準レンズだ。製造は1950年代で、5群6枚のダブルガウス型である。カプラー経由でM型ライカに装着できる。

 


<玄光社の本>

オールドレンズ・ベストセレクション

著者プロフィール

澤村 徹


(さわむら・てつ)
フリーライター・写真家

マウントアダプターを用いたオールドレンズ撮影、デジタルカメラのドレスアップ、デジタル赤外線写真など、ひと癖あるカメラホビーを提案している。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線撮影による作品を発表。玄光社「オールドレンズ・ライフ」の他、雑誌、書籍など数多く執筆。

書籍(玄光社):
オールドレンズ・ベストセレクション
オールドレンズ・ライフ 2017-2018
マウントアダプター解体新書
作品づくりが上達するRAW現像読本

ウェブサイト:Tetsu Sawamura official site
Twitter:@tetsu_sawamura

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