カラーグレーディングワークフロー&シネマカメラ
第1回

カラーグレーディングで表現する「空の表情」

映像の色味は、作品世界の状況や登場人物の心情などを表現するうえで大きな比重を占める要素です。例えば映画などの回想シーンでセピア色になった映像や、ホラーやサスペンスで青みがかった緊迫のシーンを目にしたことはないでしょうか。映像作品におけるこれらの演出は、カラーグレーディングという工程によるものです。

カラーグレーディングワークフロー&シネマカメラ」では、動画編集ソフトを用いたカラーグレーディングのテクニックを解説。実務でカラーグレーディングを行っているプロが、撮影から編集、グレーディングの手順を説明しています。また、一部の記事ではWeb版「ビデオSALON」と連携して、説明手順を動画で紹介したり、お試し編集・調整用の素材提供なども行っており、読者の理解を助ける試みも行っています。

本記事では、映像作家の井上卓郎さんによる「空の色の作り方」について抜粋して紹介します。今回はその前編。

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空の色で印象を作るグレーディング

01. 空の青はひとつではない

普段何気なく眺めている空。あなたは空の色をいくつ知っているだろうか? 夏の青空、灰色の曇天、橙の夕暮れ、漆黒の夜空、海外では緑色の空もあるらしい。スカッと晴れた青空は気分を爽快にし、おどろおどろしい曇天は心を不安にさせる。空の色は人の心に影響を与える。そんな空の表情を DaVinci Resolveによるカラーグレーディングで表現してみよう。

春の空は少し紫色がかった青。

夏の空は鮮やかでしっかりとした青。

秋の空は薄い色だがカラッとした青。

冬は黒に近い青。

02. プライマリーホイールで色がどう変わるか知る

とりあえず色を変えてみよう。一番かんたんな方法はプライマリーホイールで調整する方法だ。明るい空の部分を変化させるにはゲインのホイールを調整する。オレンジ、パープルのほうに振ると印象的に、ブルー方向に振ると落ち着いているが寒々しい印象になる。

03. 先にカラーコレクションを行う

カラーコレクションは基本補正、カラーグレーディングは芸術性を高める演色と覚えよう。まずはカラーコレクションをしっかり行うことで空の色を抜き出す作業の負担が大きく変わる。また作品全体の統一感を保つことができる。

マスターホイールを使う方法
リフト(暗部)、ガンマ(中間部)、ゲイン(明部)のホイールを左右に動かし明るさとコントラストを調整します。一番基本となる方法。

トーンカーブを使う方法
カーブの中のカスタムを選ぶとトーンカーブを調整することができる。マスターホイールを使うより細かく輝度・コントラストを調整できる。トーンカーブをうまく調整できるようになると彩度を調整しなくても自然な色合いを出すことができます。この段階で雲の立体感も出しておこう。私が一番使う方法がこれ。コントラストを調整した後に色温度、ティントを調整しホワイトバランスを取る。最後に彩度を調整する。

オート
実はDaVinci Resolveには自動でカラーコレクションをしてくれる機能がある。プライマリーページの左下にある『A』のボタンをクリックすると自動的にカラーコレクションをしてくれる。バージョン16になってから一気に精度が上がり実用的になった。しかし思ったようにならないこともあるのでカラーコレクションの基本は必ず身につけておこう。

04. パワーウィンドウとクオリファイアーで空を抜き出す

パワーウィンドウとクオリファイアーを使って空の範囲を抜き出す。パワーウィンドウを使うと選択した範囲を、クオリファイアーを使うと色情報を元に選択することができる。

パワーウインドウツール
四角形などの形状やカーブ、グラデーションを組み合わせて空以外のマスクする範囲を選択する。ソフトネスを調整してウィンドウの境界線をスムーズにする。パワーウィンドウは大まかに範囲を指定する時に便利。

左上にあるハイライトのアイコンをクリックするとマスクの範囲を確認できる。

クオリファイアーツール
「色相」「彩度」「輝度」といった色情報を元に範囲を選択します。各バーの下の数値を調整することで選択範囲を調整します。色相、彩度、輝度の各項目をON、OFFすることで抜き出す範囲が変わります。

「選択範囲」「マットフィネス」を調整することでさらに詳細に選択ができます。

クオリファイアーとパワーウィンドウのミックス
クオリファイアーで抜ききれない場合は、パワーウィンドウと組み合わせて使うこともできます。

05. カーブを使いこなして空の色を変化させる

カーブの中には6つのモードがある。主に使用するのは「カスタム」「色相vs色相」「色相vs彩度」「色相vs輝度」の4項目。色相というのは変化させたい色と理解すれば大丈夫だ。カーブを使って空の特定の色(主にシアンとブルー)を変化させてみよう。

カスタム
トーンカーブを調整してコントラストを付ける。空のブルーが引き締まり雲の陰影も浮かび上がる。

色相 vs 色相
色を別の色にシフトさせる。シアンとブルーをシフトさせ黄色味を帯びた空になった。

色相 vs 彩度
シアンとブルーの彩度を強め空が鮮やかになった。

色相 vs 輝度
シアンとブルーの明るさを下げ空を引き締めた。

続く


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