映像の色味は、作品世界の状況や登場人物の心情などを表現するうえで大きな比重を占める要素です。例えば映画などの回想シーンでセピア色になった映像や、ホラーやサスペンスで青みがかった緊迫のシーンを目にしたことはないでしょうか。映像作品におけるこれらの演出は、カラーグレーディングという工程によるものです。
「カラーグレーディングワークフロー&シネマカメラ」では、動画編集ソフトを用いたカラーグレーディングのテクニックを解説。実務でカラーグレーディングを行っているプロが、撮影から編集、グレーディングの手順を説明しています。また、一部の記事ではWeb版「ビデオSALON」と連携して、説明手順を動画で紹介したり、お試し編集・調整用の素材提供なども行っており、読者の理解を助ける試みも行っています。
本記事では、映像作家の井上卓郎さんによる「空の色の作り方」について抜粋して紹介します。今回は後編です。
06. 空を滑らかにする
空の色を調整するとバンディングというギザギザした色の段差やブロックノイズが出ることがある。特に圧縮コーデックのLog素材などはダイナミックレンジと引き換えに階調の情報量が減らされているので出やすい。空を滑らかにする方法はとてもかんたん。
まず空の部分を選択し、ResolveFXリバイバルにある「デバンド」というFXを使う。あまりキツくかけ過ぎるとディテールが失われるので各数値を調整する。
デバンド補正前
デバンド補正後
07. 空の影部分に特定の色を乗せる
空の色を調整する際、カラーホイールのLogを使うと特定の輝度部分に色を乗せることができる。空全体ではなく影部分を紫にしたい場合、ミッドトーンのホイールを紫方向へ振り、ローレンジとハイレンジで色を乗せる範囲を指定する。プライマリーホイールを使うより、色を乗せる輝度の範囲を繊細に調整できる。雲以外でもティール アンド オレンジのティールのかかる範囲を指定したい時などに使える。
調整前
調整後
08. 雲を強調する
トーンカーブなどを使ってコントラストを調整する方法とは別の方法を紹介します。ResolveFXカラーの中にあるコントラストポップを使うとディテールが強調される。Lightroomでいう明瞭度に近い。空以外にもディテールやコントラストを強調する場合にも使用できる便利なエフェクト。ただし掛けすぎは注意。
強調前
強調後
09. オシャレにコントラストを下げる
オシャレなカフェ映像などで見られる低コントラストの映像は中間部はそのままに最暗部を持ち上げ、最明部を落とすことで作れる。空の色がギリギリ残る程度に明部を落とし、影の部分は破綻するギリギリまで持ち上げる。併せて彩度も落とすとさらに効果的だろう。
調整前
調整後
10. 複数カットの印象を合わせる(手動ショットマッチ)
動画作品はほとんどの場合、1シーン1カットでは成立しない。いくつかのカットで空の色が合わない場合の合わせ方をここでは紹介しよう。クリップAとクリップBがあり、BをAに合わせるという想定。
クリップA
クリップB
ベースとなるクリップ(A)のスチールを保存し、色を合わせるクリップ(B/左)と(A)のスチールを並べて表示する。
パレードスコープを見ながらプライマリーバーを調節し波形を同じようになるように調整する。この時輝度ミックスは0にする。
ベクトルスコープに切り替え(A)をON/OFFしながら波形が合うようにカラーホイールを調整する。
完成形
11. 複数カットの印象を合わせる(自動ショットマッチ)
実はDaVinci Resolveには自動で色のマッチングをしてくれる便利な機能がある。クリップを選択。ベースとなるクリップを右クリックして「このクリップにショットマッチ(自動)で、複数のカットを一度に色を合わせることもできる。
調整前
調整後
私がグレーディングの参考にしている人
Kilian Schoenbergerというフォトグラファーの写真を参考にしています。日本とヨーロッパの山では空気感が違うので同じ様に色を作っても違和感は出るので参考というか憧れみたいな感じですが。
Kilianは色盲らしいのですが独特な(かと言って突拍子のないものではない)空気感を表現していてKilianの撮った写真は一目でわかります。