「金継ぎ」って難しいでしょう? 時間かかるでしょう?材料の値段も高いんでしょう?よく、こんなことをいわれます。そんな難しいこといわないで、これまでの連載記事も参考に、さっそく試してみましょう!
体験するのは、『金継ぎ手帖 はじめてのつくろい』編集者の土屋綾子さん。ドイツの蚤の市で買った思い出のピッチャーを修理します。
パテ&耐水ペーパーで下ごしらえ
折れてしまった取っ手を瞬間接着剤で接着し、マスキングテープで固定。乾燥したら、隙間をパテ埋めしましょう。
「破片は揃っていても、細かい欠けで穴のようになっている場所があるので、そこにしっかりパテをいれる必要がありますね。指の腹で押し込むようにすると、うまくいきました」(土屋)
速乾性なので、乾かないうちに、はみ出たパテを拭き取りましょう。15分くらいでパテが硬化してくるので、耐水ペーパーで表面を滑らかにします。
素焼きや磁器の場合は、本体そのものを削ってしまわないように気をつけましょう。うつわの形に合わせて削りながら整えていきます。
「傷以外のところにくっついたパテや接着剤の一部も、耐水ペーパーでこするときれいに取れますね!」(土屋)
表面が、完全にフラットになったら、きれいに汚れを拭き取り、いったん乾燥させましょう。
今回、取っ手部分に6本の大きな傷があります。この傷すべてを金色で継ぐのもいいですが、
銀や他の色を混ぜるのもOKです。
「うつわの色が黒なので金が映えますが、ちょっとリズムをつけたいですね。6本すべて金にせず、上3本を金、下3本を銀にしてみます」(土屋)
無心で傷をなぞる
「なんだか、地図の海岸線や国境線をなぞっているような感覚になりますね」(土屋)
新うるしと金粉を、薄め液を加えながら混ぜ、極細の筆(0号面相筆)でパテの上に塗っていきます。ちなみに、金と銀を1:1の割合でまぜると、プラチナゴールドのような白金色になり、
優雅で落ち着いた色になりますよ。
ポイントは、筆を置くような感覚で!
何度もベタベタと塗るとムラができてしまうため、一気に塗ったほうが美しく仕上がります。心を「無」にして、作業しましょう。
その後、1~2日置いてしっかり乾燥させます。つやを出すため金継ぎした部分にオリーブオイルなどの植物油を塗って、柔らかい布で磨けばピカピカになり完成です。
電子レンジや食器乾燥機などは使わないという配慮も必要です。
こうして、取っ手が割れたピッチャーが……なんと!
こんな美しいうつわに蘇りました。
蘇ったうつわ
「もともとの黒一色で硬派な印象から、金と銀の金継ぎで、エレガントさが加わったと思います。お気に入りは、取っ手の外側に現れた楕円。地図の“飛び地”みたいですね。何より、このピッチャーがまた使えるようになったことがうれしいです!」(土屋)
うつわは、身近な存在であるとともに、日々の何気ない暮らしの思い出を受け入れてくれる大切な道具です。
もしあなたの戸棚の中に、割れてしまったけれど、思い出が詰まっていて捨てられないうつわが眠っているなら、「金継ぎ」で新たな生命を吹き込んでみましょう。
<玄光社の本>