[最新カメラ徹底検証]リコー THETA V
音も 360度で録れる!
THETA V の空間音声を
ヨーロッパの古都でテスト
[TEST・TEXT]大須賀 淳(スタジオねこやなぎ)+[テスト協力]寺嶋 赳
話題の多い360度VR動画周辺で、最近特に注目されているのが「空間音声」。これは映像と連動して音声の方向も変化する技術を指し、「動かない」普通のオーディオに比べて、360度動画視聴時の臨場感や没入感が大きく向上する。YouTube をはじめとするサービスが再生対応するなど徐々に普及していたが、特に最近は人気360度カメラの最新版であるリコー THETA V に空間音声用のマイクが標準搭載されるなど、一気に「標準」となりそうな勢いを見せている。今回は THETA V と、さらに高品質な空間音声収録ができるという専用マイク「TA-1」を、オーストリアの古都グラーツへの出張に持参してテストしてみた。
リコー THETA V
56,700円 2017年9月15日発売
今回のモデルから 4K/30p の360度動画機能に対応したことに加え、もう一つの
注目機能が360度の空間音声収録。内蔵マイクでも対応するが、同時発売された
専用空間音声マイクTA-1(35,100円)を使うとさらに高音質な空間音声を収録できる。
「標準」で空間音声を収録
空間音声の収録には、全方位をカバーするため、最低4つのマイクユニットが必要となる。筆者はこれまで主に単体レコーダーのズームH2nを使って、カメラと別回しで空間音声の収録を行うことが多かった。この方法は、品質的には納得できる一方、収録先でカメラとレコーダーの両方を操作したり、同期していない映像と音声を編集時に合わせるといった作業には、正直ある程度の煩雑さは否めなかった。THETA V純正マイクのTA-1は、本体の下部に三脚ネジとプラグを挿し込む形で取り付けるだけで使え、専用の電池なども必要ない。THETA のUSBコネクタを塞がないように切り欠きが用意されているので、モバイルバッテリーなどで電源供給しながらの利用もできる。カメラが若干長くなる以外は、セッティングに関する面倒さは一気に解消されてしまった。
内蔵マイクも空間音声対応! シンプルに取り付けられる外部マイク
(1)前機種のTHETA Sと空間音声収録できるPCMレコーダー・ズーム H2nのセッティング例。映像に極力映り込まないようにカメラとレコーダーを垂直にセットするには工夫が必要だった。音質的には良好ながら、準備やファイル管理に手間がかかった。(2)TA-1を装着すると全長は伸びるものの、煩雑さは劇的に軽減された。(3)TA-1に設けられた切り欠き部分からUSBケーブルを接続し、電源供給しながら使用可能。(4)TA-1本体にはスイッチ類などは一切なく、取り付けるだけで簡単に使用できる設計となっている。
THETA V はスマホアプリから設定の変更が行えるが、現時点で空間音声に関する項目はない。逆に言うと、TA-1の装着などに関係なく常に空間音声での収録が行われているのだ。これは、いわゆる「普通のユーザー」が無意識に撮った動画も当たり前に空間音声対応になることを意味し、数年後には空間音声でない360度動画のほうが「不自然」という状況になるかもしれない。
専用アプリTHETA Sの操作
(1)専用スマホアプリでは、Wi-Fi(THETA V本体から発信)経由で撮影のリアルタイムプレビューや、ファイルの転送などが行える。自分の映り込みを避けるために、設置後に物陰に隠れた後、リモートで撮影という運用が可能だ。(2)マイクに関する設定は、感度のロー・ノーマル切り替えのみで、設定なしでも標準で空間音声が記録される。コンサート収録など大音量となる場所では、ローに設定することで音割れを回避できる。
健闘する内蔵マイク着実な性能のTA-1
実は空間音声は再生するソフト次第で、聴こえ方がかなり変わる(同じファイルを YouTube と Facebook それぞれにアップしてもかなり異なるほど)。今回の評価は、全て iPhone版の専用アプリ「THETA S」上で再生した結果を元にしている。
全体を通じて特筆したいのは「内蔵マイクがけっこう悪くない」という点。高級感のある質感ではないものの、空間音声の魅力である音源の方向の変化は明確に感じられ、臨場感アップに大きく効果を発揮している。トランペットの録音では、内蔵マイクは派手に感じる一方、若干音が薄くなる印象だった。一方のTA-1は、楽器の音が空間でふくよかに広がるのを表現できており、PCMレコーダーの内蔵マイク級の音質は確保されている。両者をカメラに例えると「充分にキレイな民生機」と「レンズやセンサーの良さを感じるミドルクラスの機種」的な差に近い。
さて、期待以上の実力を持つ内蔵マイクだが、屋外で風に吹かれると(当然ではあるものの)盛大に風切り音が入ってしまう。一方の TA-1 は専用のウィンドスクリーンが付属しており、それを装着することで、かなりの軽減が可能だった。THETA 本体は構造上ウィンドスクリーンの装着が難しそうなので(水中ハウジングに入れる手はあるが、確実に音がこもるはず)、野外で常に確実な空間音声収録を行いたい人にはTA-1が「必須」と言えそうだ。
いろいろなシーンで内蔵マイクとTA-1を試す
●室内での楽器演奏で比較
[Impression]
【内蔵マイク】高域が若干強調された「元気な音」という印象。定位を含め全体がシャープだが、その影響で楽器の音が多少薄く感じられる。ただし決して悪い音ではなく、空間音声の魅力は充分に楽しむことができる。
【TA-1】内蔵マイクよりトランペットの中域が豊かに収録されており、空間全体を通してふくよかな音像となっている。方向を変えた際の定位や位相の変化もなめらかで、誇張の少ないリアルな臨場感が感じられる。
●強風吹きすさぶ屋外で比較
[Impression]
【内蔵マイク】風切り音は盛大に入ってしまうものの、その背後で声も内容を聴き取れるレベルで録れている。空間の広がりと声の明瞭さのバランスも悪くなく、内蔵マイクとしては十分な水準と言える。
【TA-1】付属のウィンドスクリーンを付けて収録。効果は大きく、風切り音は不快にならないレベルまで低減される。内蔵マイクより大幅に解像感が高い印象で、風で舞う枯れ葉一枚の音まで明瞭に感じられる。
●聖堂内をTA-1で収録しながら歩行
●カフェでの会話をTA-1で
リニアPCM記録で編集にも有利
画像でも説明している通り、THETA V で撮影されたMP4ファイル(正確には、アプリやユーティリティで平面視に変換されて出力されたファイル)は、編集ソフトや普通の動画プレイヤーで開くと音声がモノラルで認識される。専用ユーティリティの「RICOH THETA Movie Converter」で QuickTime(.mov)ファイルに変換すると、その中に空間音声用の4トラックのオーディオが格納されている仕組みだ。
空間音声トラックはリニアPCMで記録されており、AAC のみだった前機種と比べてフォーマットの上でも向上している。TA-1 の音は、そのままでは派手さはないものの、情報量が多いのでイコライザー等の処理で着実に変化する。空間音声を抜きに考えても、オーディオ面で大きなステップアップが施されたと言えるだろう。
THETAシリーズは、一見難しそうな360度動画を「この上なく簡単にした」ことがヒットの理由だと思う。THETA V では、同様に「難しそう」だった空間音声を、一気に全てのユーザーに開放した画期的な施策と言えるだろう。例えばサードパーティ製のマイクの出現など、今後のさらなる広がりにも大いに期待したい!
Premiere Proに空間音声として読み込むためにはユーティリティで変換
THETA Vで撮影したMP4ファイルをそのまま編集ソフト(画面はPremiere Pro)で開くと、音声はモノラルとして読み込まれる。リコーのWebサイト(https://theta360.com/ja/support/download/)でダウンロードできるユーティリティ「RICOH THETA Movie Converter」にMP4ファイルをドラッグ&ドロップすると、空間音声用の4トラック音声を持ったQuickTimeファイルが出力される。
映像と音の方向のズレをPremiere Proで調整した
Premiere Pro(CC2018)では配置した音声素材上で右クリックして、「アンビソニックをモニター」をONにすることで空間音声をプレビューしながらの編集が行える。今回のテストでは、映像と音声の方向にズレが生じた。しかし、これはPremiere付属のエフェクト「Panner-Ambisonic」を使って、音声を-90°回転すると一致させることができた。
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