腕時計ライフ
第4回

機械式時計のシステムを学ぼう

「腕時計」という装置は、「時間を見る」という機能だけを備えていながら、精密機械、あるいは装飾品として、複数の側面から人々を魅了する力を持っています。市場にはカジュアルモデルから超高級機まで多彩な機種が存在し、その多様性には目を見張るものがありますが、それと同時に、それらの価格差に疑問を感じることがあるかもしれません。

腕時計の基本がわかる教科書」は、そうした疑問を払拭する一助になりうる一冊です。本書では機械式腕時計をメインに、時計そのものの歴史や腕時計の基本的な構造、市場に参入しているすべてのブランド、そして時計の核となるムーブメントの紹介から簡易的な専門用語集も完備しており、2015年刊行ながら、近年における機械式腕時計の基礎を俯瞰するとともに、その魅力をも伝える内容は、現在でも高い支持を受けています。

本記事ではPart2「腕時計の基本」より、機械式時計が動作する仕組みについてより深く掘り下げます。

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ここからは機械式時計のシステムについて説明していきます。まずは全体像をつかみましょう。

機械式時計は大きく以下の機構からなっています。

1. 動力機構
2. 輪列機構
3. 脱進機構
4. 調速機構

本ページ下部の図を見てください。動力機構は香箱と主ゼンマイ、輪列機構は香箱車や二〜四番車、脱進機構はガンギ車とアンクル、調速機構はテンプ、振り石といった数多くの部品で構成されているのがわかります。

シンプルながらも精密さが要求される

ではこの4つの機構はどのように関わっているのでしょうか?

まずゼンマイが巻かれることで1の動力機構に力がたまります。それがほどけ回転エネルギーが生じます。

その力は2の輪列機構に伝わり秒針や分針を動かしますが、指針が動くスピードを3の脱進機構と4の調速機構で調節するというわけです。

このように解説すると、非常に簡単なしくみで時計が動いているように感じますが、仮に輪列機構調速機構に1千分の1秒の狂いがあるだけで、1日86秒の誤差が生じてしまうので、高度の精密さが要求されます。

では各機構についてさらに詳しく説明しましょう。

まず1の動力機構ですが、香箱に主ゼンマイが渦巻き状で収められています。リューズによって中央のシャフトに主ゼンマイが巻き付き、ゼンマイがほどけると、その力が香箱車を経て二番車に伝わります。二番車には軸の先に分針が取り付けられており、ゼンマイの動力で回転します。

さらに二番車の歯車は三番車を回転させます。三番車には指針は付いておらず、ゼンマイの動力を四番車に伝えます。四番車は秒針が取り付けられており、それを回転させます。

ここまでゼンマイから歯車、指針までのつながりを説明しました。しかしもしゼンマイの動きをコントロールできなければ、ゼンマイは一気にほどけてしまい指針は高速で回転して時計としての役割を果たしません。

そこで登場するのが3の脱進機構、4の調速機構です。

テンプが一定の周期を持った振動を作り出す

なかでも、もっとも重要なのはテンプと呼ばれる部分です。これは金属の輪と極細のヒゲゼンマイとよばれる部品でできています。

歯車の回転運動はガンギ車からアンクルへと伝わります。アンクルは回転運動を往復運動に変えテンプを動かします。このテンプは左右に回転するわけですが、仮に右に回転するとヒゲゼンマイの力で元に戻ろうとし、左へと回ります。次に左に行ったところで、今度はまた元の位置に戻ろうと右に回転します。これが一定の周期を持った左右への振動となります。この振動は正確なリズムとなりガンギ車を通して輪列構造にフィードバックされ、回転速度をコントロールするというわけです。その結果分針は1時間で1回転、秒針は1分で1回転するのです。

 


<玄光社の本>

腕時計の基本がわかる教科書
腕時計ライフ

著者プロフィール

花谷 正登

(はなたに・まさと)

1959年札幌生まれ。フリーランス編集・ライター。

時計関連ムックで『時計Begin』(世界文化社)『腕時計王』(KKベストセラーズ)『Watch SENSOR』(ネコ・パブリッシング)『クロノス日本版』(シムサム・メディア)などを創刊から担当。

その他、『ホットドック・プレス』(講談社)『POPEYE』『CASAブルータス』『relax』(マガジンハウス)『日経トレンディ』(日経BP社)『週刊SPA!』(扶桑社)『Gainer』(光文社)『LEON』(主婦と生活社)などでも活躍。著書に『間違いだらけの時計選び』(廣済堂出版)。

書籍(玄光社):
腕時計ライフ」(監修)
腕時計の基本がわかる教科書」(監修)

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