「自然光ポートレートの超絶レシピ」はその名の通り、10人の写真家が自然光を光源とするポートレートの撮り方を指南する主旨の書籍です。
太陽の出ている時間帯であれば誰にでも活用するチャンスのある自然光ですが、光をコントロールするためには、その場の“光を読む”技術が必要です。では、プロのカメラマンは、どのようなテクニックや工夫を使って、優れた作品を生み出しているのでしょうか。
本記事では、カメラマン・福島裕二さんによる「基本テクニック・屋外編」より、刻々と変化する光への対処方法についてご紹介します。
自然光は年間を通しても、一日の中でも、刻々と変化します。朝方・夕方は太陽の高度が低く、波長が短い青い光が空気の層で拡散されて色温度が低くなり、日中にかけて色温度が上昇します。日の出や日没後には、空が青くなるブルーアワーもあります。冬には光が若干赤くシフトします。
太陽の角度によって撮り方も変わります。朝は穏やかに、目が覚めてきたら元気よく、日中の光はドラマがないので屋内で、夕方はしっとりとした雰囲気で、夜は深めの写真を、などなど。どの時間帯にどんな意図で撮影したのか、戸田真琴さんの写真集のアメリカロケの事例を紹介します。
7:00~ 早朝の公園
ロケ初日の朝方の気温は10度以下。宿泊していたホテルの近くは、ビルの谷間の影で色温度が青かったので、木漏れ日が暖かそうに見える場所にこの子を置いてあげたいなと思って街をフラフラしてみました。光に誘われて行ったら、衣装と雰囲気の合う公園を見つけました。順光、サイド光だと朝の柔らかい雰囲気に対して光が硬くなってしまいます。爽やかさを強調したかったので、逆光メインで撮影しました。
季節ごとの太陽の動きを頭に入れ、今どの時間帯のどんな光なのかを意識して撮影に臨みましょう。
11:00~ 日中の街中
昼は街中の賑やかな雰囲気を生かして引きのスナップを撮りました。私の中では、モデルの造形に最大限合う光で人物の魅力を最優先に撮るのがポートレート、背景優先でその場にある光をそのまま受け入れて引きで撮るのがスナップという明確な線引きがあります。最低限の光の当たり方は見てシャッターを押していますが、スナップでは全体の雰囲気が第一印象になるので、顔にできる影などはそこまで気にしていません。
17:00~ 夕方のビーチ
合間に室内撮影を挟んで、夕方のビーチに移動しました。ここでも、モデルの顔よりも動きや背景を優先して撮影しています。光の方向は、こういう子がこういう光でこういうことやってると良かったなあという過去の記憶のストックから選んでいます。逆光では空が飛び気味に、順光では空が色濃く写るのは押さえておきたいポイントです。
6:30~ 明け方の街中
前日11時と同じシーンの、朝日をバックにした早朝の街中での撮影。朝日を透過させたかったので白系のワンピースで出かけました。逆光の太陽をレンズに入れてかすかにレンズフレアを出しています。ここでも、顔の振りで回り込む光をコントロールしています。
9:00~ 朝方の半屋外
これから太陽の角度が上がってきて、屋外で撮るには難しい時間帯になってきます。しかし、屋根のある半屋外のような場所を探せば、嫌な影を作る光をカットしながら、外の感じを出すことができます。いずれの写真もホテルの入り口の軒下で撮影しました。差し込む光が壁に反射して光が回っているため、影になる位置で撮れば、私好みの人肌の濃度が高い描写が得られます。上の写真では、影の位置で日が差し込む方向を向いてもらい、フラットな面光源が当たるような状況で撮っています。
12:30~ お昼時の親水公園
強いトップライトが落ちるお昼時に、あえて屋外へ。右の写真では、逆光の状態で顔にフラットな影を作っています。普通に撮ると地面の照り返しでお化けライトになるシチュエーションですが、顔を傾けてもらうと照り返しはサイドライトとして機能するので、違和感がなくなっています。さらにメイクさんの背中を借りた「人レフ」でモデルの手前側を起こしています。下の写真では、まず半逆光で私的にOKな影の形を作り、アシスタントのグレーパーカーをレフにしてシャドウ部を起こしています。
17:30~ 日没寸前の砂丘
ロケのラストは、夕暮れ時のダイナミックな砂丘に赴きました。まずは背景の光と影の凹凸を出すためにサイド光で撮影。ポーズも環境に合わせて壮大な感じでとリクエストしています。次に寝転がってもらい、逆光で陶酔するような表情を捉えました。二の腕の照り返しがきれいだなと思ってシャッターを切ったことを覚えています。
<玄光社の本>