戯画を楽しむ
第7回

英雄譚にとどまらない人気モチーフ「源頼光」と「酒吞童子」

人物や事象をおもしろおかしく、比喩的に誇張した絵を「戯画」(ぎが)と呼びます。日本において、特に中近世に描かれた戯画には、人間や動物、妖怪や幽霊も入り混じった、ユーモラスで賑やかな、楽しい内容の作品がみられます。擬人化、滑稽化の手法をもって描かれる世界観はしばしば風刺の性格も帯びて、現在の漫画表現に通じる工夫もみられ、深く知るほどに興味をかきたてられる世界です。

文学博士で美学者の谷川渥さんが監修をつとめた「戯画を楽しむ」では、江戸時代から明治にかけて人気を集めた浮世絵師たちによる滑稽画や諷刺画を多数収録。戯画に描かれるモチーフや代表的な作品の解説を通して、その画が描かれた時代背景や物語の表現手法、作品そのもののおもしろさを楽しく理解できる一冊となっています。

本記事では第2章「滑稽と諷刺の笑いの世界」より、源頼光と四天王たちの活躍を描いた作品を抜粋して紹介します。

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酒呑童子と土蜘蛛退治

ヒーローたちの妖怪退治

酒呑童子と土蜘蛛の物語は、源頼光が渡辺綱や坂田公時ら四天王とともに退治する話。丹波大江山に住んでいたという鬼の頭目が酒呑童子で、鬼をよそおって財物や婦女子を掠奪した盗賊。また土蜘蛛の話は、源頼光が渡辺綱とともに京都神楽岡の廃屋で妖怪にあい、斬りつけた血の痕をたどり西山奥の洞窟で土蜘蛛をみつけて退治する武勇談。土蜘蛛は、古代大和王権の勢力に従わない土着の首長や集団を呼んだ名称である。

「大江山酒呑退治」歌川芳艶 安政5年(1858)国際日本文化研究センター蔵

大江山の酒呑童子を退治する源頼光と四天王たちの勇壮な姿を描いている。酒で酔いつぶれた酒呑童子の首を刎ねるが、首だけになってもまだ襲いかかり、恐ろしく吠えたけている。画面左では頼光のそばで坂田公時が酒呑童子の額めがけて金棒を打ちつける。酒呑童子の首を討ち取ったあと、首は都に運ばれて頼光たちは凱旋する。浮世絵では菱川師宣の時代から描かれる定番の場面だが、ここまで酒呑童子の首をクローズアップにしているのも珍しい。

「源頼光公館土蜘蛛作妖怪図」歌川国芳 東京都立中央図書館特別文庫室蔵

酒呑童子退治で有名な平安時代の武将源頼光が病に臥せり、四天王と呼ばれる強者(つわもの)たちが寝ずの番をしながら碁に興じている。そこに土蜘蛛が現れ、妖怪を出現させて彼らを苦しめようとしている。しかし戦っているのは妖怪同士でどうも妙である。妖怪は実は庶民たちであり、頼光は徳川将軍、四天王は老中水野忠邦などの幕臣に見立てている。これは天保の改革を諷刺した作品である。


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