戯画を楽しむ
第4回

教訓、風俗、諷刺を奔放な筆致で描く「大津絵」

人物や事象をおもしろおかしく、比喩的に誇張した絵を「戯画」(ぎが)と呼びます。日本において、特に中近世に描かれた戯画には、人間や動物、妖怪や幽霊も入り混じった、ユーモラスで賑やかな、楽しい内容の作品がみられます。擬人化、滑稽化の手法をもって描かれる世界観はしばしば風刺の性格も帯びて、現在の漫画表現に通じる工夫もみられ、深く知るほどに興味をかきたてられる世界です。

文学博士で美学者の谷川渥さんが監修をつとめた「戯画を楽しむ」では、江戸時代から明治にかけて人気を集めた浮世絵師たちによる滑稽画や諷刺画を多数収録。戯画に描かれるモチーフや代表的な作品の解説を通して、その画が描かれた時代背景や物語の表現手法、作品そのもののおもしろさを楽しく理解できる一冊となっています。

本記事では第2章「滑稽と諷刺の笑いの世界」より、「大津絵」の解説と作品を抜粋して紹介します。

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大津絵(おおつえ)

民芸絵画の素朴なおもしろさ

大津絵はよく知られた素朴な民芸絵画の一つで、寛永年間(1624~44)ごろから始まったといわれ、はじめは仏画が描かれていた。近江国(滋賀県)大津の追分や三井寺で、参詣の人々や東海道中の旅人を相手に手軽な土産物として売られていた。寓意を込めたユーモラスな画題と奔放な筆致で描き、泥絵具で彩色したあとに描線を施すのが特徴である。

「猫とねずみ図」 江戸時代 大津市歴史博物館蔵

自分の体ほどもある大きな杯を両手で抱え酒を飲む鼠に、猫が唐辛子をつまんでさらに酒をすすめる。たっぷり飲ませて鼠が気を許した隙を狙って獲って食おうとしているようだ。大津絵には、この作品とは逆に猫が飲まされている図柄もある。いずれも酒に飲まれて我を忘れることへの戒めが込められている。

「浮世又平名絵の誉」歌川小芳盛 慶応4年(1868)東京都立中央図書館特別文庫室蔵

大津絵のキャラクターである藤娘や鬼の念仏、座頭、弁慶、長刀弁慶、長頭翁、寿老人などが絵師のまわりを歩いている。大津絵は仏画、人物(娘、若衆、奴など)、鬼の類、動物、福神、鳥類など百種類以上あり、諷刺や教訓、風俗などがさまざまな姿で描かれている。『浮世又平名絵の誉』は式亭三馬作、歌川国輝画の合巻で、天保13年(1842)に刊行された。


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