かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、現在においては「オールドレンズ」と呼ばれ広く親しまれています。
レンズは「写真うつり」の多くの部分を決める要素ですが、オールドレンズの世界においては、必ずしも画面のすみずみまではっきり、くっきり写ることだけが良しとされるわけでもありません。レトロな外観と個性的な写りも人気の一因です。
シリーズ10冊目となる「オールドレンズ・ライフ 2020-2021」では、現行のデジタルカメラで沈胴レンズを使う「沈胴レンズクロニクル」、あえてフレアやゴーストを発生させるレンズを使う「Flare Ghost Collection」などの特集を掲載。各レンズの特徴から装着前に押さえるべき注意点、実写作例など、レンズ沼のほとりに立つ人々の背中を押す内容となっています。
本記事では特集「Flare Ghost Collection」より、「Takumar 83mmF1.9」の作例を紹介します。
優良レンズが放つ波状ゴースト
虹色のゴーストはよく見かける。ただし、タクマー83mm F1.9の虹色ゴーストは一味ちがう。虹色のゴーストが何層にも重なり、波状ゴーストを形成しているのだ。他に類を見ない強烈なゴーストである。
光学設計の専門家に発生原因を尋ねたところ、レンズ同士の接着面に干渉縞が発生し、それが波状ゴーストになるという。ただし、レンズの組み立て精度によって、発生する個体、発生しない個体があるそうだ。光学的には波状ゴーストが発生しない個体が当たり玉ということになるが、さて、オールドレンズファンにとってはどうだろう。
開放はやや甘さを感じるが、周辺部でもピントが合い、何よりコントラストの付き方が良い。しかもF4以降は急激にシャープさを増す。素性の良いレンズだからこそ、波状ゴーストという個性が際立つ。