長引く新型コロナウイルス感染症の流行で、私たちは公私ともに様々な制約を抱えています。社会の在りようが変化する中、フォトグラファーたちもこれまでにない視点で活動を始めており、様々な場所でその成果を目にすることができるようになってきました。
「コマーシャルフォト」2020年8月号の特集「STAYHOMEから生まれたフォトグラファーのプロジェクト」では、人々のふるまいが変化した社会の中で新たなプロジェクトをスタートしたフォトグラファーたちの活動を紹介しています。
本記事では、接触や移動に制限がある状況ならではの手法で家族写真を撮影したキセキミチコさんの「送る写真展」を紹介します。
以下「コマーシャル・フォト 2020年8月号」からの転載です。
リモートで撮影し、写真をタペストリーで送る。キセキミチコ「送る写真展」
コンセプトは「会えない人を、写真でつなぐ」。会いたくても、自由に会うことができない人へ“写真展”を贈ろうという企画。撮影はリモートで行なっている。写真を布にプリントし、タペストリーのような形に仕上げた後、家族に直筆のメッセージを書き加えてもらって完成。“今は会えない”大切な人へ贈られた。10名限定の企画だった。
身近に写真を飾れる形であることにもこだわって制作
全国的な自粛の影響で施設にいる高齢の祖母に会うことができなくなってしまったことを受け、“会いたい人に会うことが出来なくなった時、写真で何かできないだろうか”と企画したのが「送る写真展」。写真だけならメールで簡単に送れる時代だからこそ、写真プリントという“形”にすることにもこだわったそう。感染予防のため、撮影は全てリモートで行なった。
「この撮影方法、実は被写体であるご家族の方の負担が大きいんです。カメラも用意するし、自ら動いていただくので。写真を贈りたいと思うご家族のお手伝いさせていただく…というような感覚でした」。
今回の企画には、もうひとつステップがある。
「今の状況が落ち着いて自由に会うことができるようになったら、今回撮影させていただいた方と、写真を受け取っていただいた方、ご家族の皆さん全員が一同に集まった写真を撮らせて欲しいとお願いしているんです。そこでこの企画は完結すると思っています。早く次の撮影ができる日を心待ちにしているんです」。
今後も何かの形で“写真で人をつなぐ”ことを続けていきたいと考えているという。
額装ではなく、タペストリーの形にしたのは“身近に飾りやすく、邪魔にならない”ことを考慮した結果。布へのプリントなども手がけている。「施設に入所している方だと、ベッド周辺にはお薬など大切なものがたくさんあります。施設スタッフの方の作業を遮らないような形を考えました。ハンガーがついていれば、片手で飾ることもできます。布なので発送もしやすいと思いますので」(キセキ)
家族の直筆メッセージを添えて完成。「“写真展”なので、作品キャプションのイメージでスペースを取りました。ご家族の方の直筆をぜひ入れていただきたかったんです」(キセキ)
きせきみちこ
1981年ベルギー出身。その後、香港、フランスで少女期を過ごす。日本大学藝術学部写真学科卒業。現在、フリーランスとして音楽、ドキュメンタリー、ファッションを中心に活動。
www.kisekimichiko.com