ふだん写真は撮っているけれども、どうも納得できる写真が撮れない。そういう思いを抱く人は多いのではないでしょうか?写真家の大村祐里子さんは、フォトテクニックデジタルの連載「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」の中で、日常的な風景を独自の視点で見つめて写真作品をつくる方法を教えています。
「身近なものを作品にする」大村祐里子さんの撮り方辞典、第29回のテーマは「ボート」です。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
撮影のポイント
1. 絶景ポートレートの要領でボートを捉えてみよう。
2. F11やF16くらいまで絞り込んで撮る。
与論島の海で撮影した一枚です。モクモクの入道雲が写り込んだ海面に、ポツンとボートが浮かんでいる光景が美しくて、思わずシャッターを切りました。空も海も爽やかな青、ではなく、深い青をしていたので、それをそのまま写したくて、露出は少しアンダーにしました。
絶景ポートレートをヒントにする
よく「絶景ポートレート」という言葉を目にします。大自然の中にモデルさんが佇んでいるアレです。私は以前から、ボートの写真は絶景ポートレートと同じテンションで撮るとうまくいくのではないか、という持論を展開しております。
モデルさんをボートに置き換え、「美しい光景の中にボート」という意識で撮ってみるといい感じに仕上がります。しかもボートは水面に浮かんでいるので、実際は絶景に出かけなくとも、身近なところで絵をつくれてしまいます。
絞り込んで情景を隅々まで描写
ボートは近づいて観察してみると、それほどきれいではないことがほとんどです。そこで、ボートそのものをしっかり写すというよりは、「ボートのある光景」を写した方が絵としてキマるように思います。
具体的には、ボートが存在している状況を隅々まで描写した方が「ボートのある光景」を提示しやすくなります。ということで、F11やF16くらいまで絞り込んで、空や雲や水面のディテールを細かく写し込むことをオススメします。
こちらは、岡山で夕刻、川の近くを歩いていた時に撮影しました。夕日に照らされ、オレンジ…ではなく、黄色っぽく光る川に浮かぶ、ボートの黒いシルエットに惹かれました。
はじめは、ボートよりも、川の水面の白い模様が気になりました。そして、模様の先にボートがある、というフレームの中の「流れ」のようなものが心地よかったので撮影をしました。このように空を入れず、水面とボートだけを撮っても面白いです。
南の島で、浜辺に打ち上げられたボートが絵になるなと感じたのでシャッターを切りました。空も海もシアンに染まっているのがたまらなくきれいだったので、そのまま写しとれるように、シアンが強く出るフィルムを使用しました。