スマートフォンやタブレット、あるいはフィーチャーフォンの普及によって、私たちは「一人一台カメラを持っている」といってさしつかえのない時代に生きています。人々は端末からWebサイトやSNSを利用し、その中で写真を見る、あるいは自ら撮影することも、今や日常の一部といえるでしょう。
いわゆるミラーレスや一眼レフといったレンズ交換式カメラを使った撮影は、スマートフォンでの撮影と比べて難しそうなイメージがあります。しかし実際のところ、両者ともカメラとしての構造は原理的にほぼ同じであり、写真を撮影するうえで留意するポイントに違いはほとんどありません。
「写真の撮り方ガイドブック」では、カメラの構造や設定項目の意味、光の捉え方、構図の作り方からレンズによる効果の違い、デジタルデータとしての写真の扱い方まで、写真の基礎と機材の使い方を一通りカバーしており、写真を本格的に学ぶ始めの一歩として使える一冊に仕上がっています。
本書はミラーレスや一眼レフカメラユーザー向けに作られた書籍ですが、スマートフォンでの撮影に応用できる部分も多いので、本連載では両者で共通して使える概念やテクニックを中心に紹介します。
本記事ではPart1「写真を撮るための基礎知識」より、「ISO感度」についての記述を抜粋して紹介します。
ISO感度を理解する
露出は絞りとシャッター速度だけで決まるわけではありません。もうひとつ、決定的な役割を果たすものがISO感度です。ここではISO感度の特徴と露出に与える影響について解説します。
ISO感度とは何か
ISO感度はいわば写真を撮る際の土台となる要素です。この土台のもとでカメラは測光を行い、露出を判断しています。
ISO感度もその度合いは数値で示されます。カメラによって利用できるISO感度には幅がありますが、通常よく利用することになるISO感度はISO100~6400程度でしょうか。数値が小さくなるほど低感度、大きくなるほど高感度になります。わたしたちは常にいずれかのISO感度の数値の上で、絞りとシャッター速度を決め撮影を行っています。
では、そもそもISO感度とは何でしょうか。端的にISO感度は、光を感知する度合いを指します。低感度になるほどこの感度が弱まり、高感度になるほど強まります。言い換えれば、ISO感度は低感度になるほど、標準露出で撮影を行うのに多くの光が必要となります。逆に高感度になるほど、少ない光でも標準露出が割り出しやすくなります。ですから、ISO感度に応じて、露出の数値は著しく変化します。絞りもシャッター速度もこのISO感度に大きく依存しているのです。では、ISO感度は具体的にどのような変化を露出にもたらすのでしょうか。
ISO感度の数値変化
デジタルカメラの進化とともに、対応するISO感度の振り幅は広くなっています。一般的にISO200以下が低感度、ISO400前後が中感度、ISO800以上が高感度になります。
ISO感度をコップのサイズに置き換える
ISO感度が絞りやシャッター速度に与える影響は、やはりコップに水を注ぐ例で考えてみるとわかりやすいです。ここでISO感度は「コップのサイズ」に該当します。コップが大きくなるほど低感度、小さくなるほど高感度を表します。コップを水で満たそうとした場合、水の出る勢いが同じならば、サイズの大きなコップほど、水をいっぱいにするのに時間がかかります。一方、同じ時間をかけてコップを水で満たすならば、大きなコップほど、蛇口を開いて水の出る勢いを強くしなくてはいけません。
つまり、標準露出で撮影を行うことを目的にするならば、ISO感度は低感度になるほどシャッター速度が遅くなり、高感度になるほどシャッター速度を速くできることになります。絞りの側に立てば、ISO感度は低感度ほど、絞りを開かないと速いシャッター速度が利用しにくくなり、高感度ほど絞りを絞り込んでも速いシャッター速度を維持しやすくなるのです。
例えば、暗い室内での撮影や動き回る被写体を撮る場合などは、ISO感度を高感度にすることで、速いシャッター速度がより利用しやすくなり、ブレが防ぎやすくなります。また、一方で多少暗くても手持ち撮影が可能なため、それだけ絞りも絞り込みやすくなります。ピントを前後に合わせたい場面でも高感度は有効なのです。
ISO感度と露出の関係~ISO100とISO800での比較~
ISO感度の選択はいわばどのサイズのコップを選ぶかに等しいです。感度を高くすれば、シャッター速度は速くなり、絞りも絞り込んで撮影しやすくなります。逆に感度を低くすると、シャッター速度は遅くなり、絞りは絞り込みにくくなります。
シャッター速度の場合
水の勢いが同じならば、コップは小さいほう(高感度)が先にいっぱいになる。
絞りの場合
コップが大きなほうの水の勢いを強めれば、小さなコップと同じ時間で水を満たすことができる。
ISO感度と画質
このように見てみると、ISO感度は高感度にしたほうが何かと重宝するように思えます。しかし、話はそう簡単ではありません。高感度にすれば、少ない光量でもシャッター速度を遅くさせず、または絞りを開けすぎずに標準露出で写真が撮れるようになりますが、光の情報量が少ない分、画質に負荷がかかります。つまり、ISO感度は高感度にするほど画質が低化するのです。粒子が粗くなり、ノイズと呼ばれる画像の低化も起きやすくなります。画質のことを考えるならば、ISO感度は低感度に設定するのが理想です。扱える光の情報量が多い分、きめ細かく豊かな階調で撮影が行えます。そういった意味では、明るい日中は低感度で、暗所になるほど高感度を利用するのが一般的です。
なお、センサーサイズと有効画素数の内容によっても、ISO感度の画質は変わります。1画素の面積が大きいほうが、高感度にした際の画質の低化は少なくなります。ISO感度を高感度にして撮影する機会が多ければ、このあたりの仕様も意識し高感度に強いカメラボディを選択することも大事です。
ISO感度による影響
このようにISO感度は「絞り」「シャッター速度」「画質」の3要素に対して多大な影響を及ぼします。ISO感度は高感度にするほど、絞り優先オートではシャッター速度が速くなり、シャッター優先オートでは絞りが絞り込みやすくなり、そしてプログラムオートでは速いシャッター速度と絞り込んだ描写がより気軽に利用できるようになります。しかし、いずれのモードでも高感度ほど画質が低化します。
ISO感度と最適なシーン
- ISO50~200 自然風景、静物、スタジオ撮影など高画質に撮影したい場面で。
- ISO400前後 スナップ、風景、ポートレート、子供など。
- ISO800以上 スポーツや暗いシーンなど。
高感度になるほど粒子も粗くなり画質は少しずつ低化します。しかし、下の写真ではむしろ、高感度にすることでシャッター速度が速くなり、手持ちで夜景スナップが撮れています。ISO感度は最終的に自分の表現したい内容に合わせた選択が重要です。