スマートフォンやタブレット、あるいはフィーチャーフォンの普及によって、私たちは「一人一台カメラを持っている」といってさしつかえのない時代に生きています。人々は端末からWebサイトやSNSを利用し、その中で写真を見る、あるいは自ら撮影することも、今や日常の一部といえるでしょう。
いわゆるミラーレスや一眼レフといったレンズ交換式カメラを使った撮影は、スマートフォンでの撮影と比べて難しそうなイメージがあります。しかし実際のところ、両者ともカメラとしての構造は原理的にほぼ同じであり、写真を撮影するうえで留意するポイントに違いはほとんどありません。
「写真の撮り方ガイドブック」では、カメラの構造や設定項目の意味、光の捉え方、構図の作り方からレンズによる効果の違い、デジタルデータとしての写真の扱い方まで、写真の基礎と機材の使い方を一通りカバーしており、写真を本格的に学ぶ始めの一歩として使える一冊に仕上がっています。
本書はミラーレスや一眼レフカメラユーザー向けに作られた書籍ですが、スマートフォンでの撮影に応用できる部分も多いので、本連載では両者で共通して使える概念やテクニックを中心に紹介します。
本記事ではPart1「写真を撮るための基礎知識」より、「露出補正」についての記述を抜粋して紹介します。
露出補正の数値と絞りとシャッター速度の関係
絞りやシャッター速度と密接な関係を持つ露出補正ですが、この露出補正の数値変化は絞りやシャッター速度の数値変化と連動しています。下の図を見てください。太い縦線で区切られた絞りやシャッター速度の1段分(3目盛分)は、露出補正の1段分に相当しています。
ですから、仮に「F8・1/125秒」で標準露出になる場面で、露出補正を使ってプラス1補正すると、絞り優先オートの場合でシャッター速度は自動的に1/60秒になり、シャッター優先オートの場合で絞りは自動的にF5.6になります。このように露出補正の仕組みへの理解は、露出全体に関わる影響を把握することにつながります。
露出補正に関わる絞りとシャッター速度の連動性
ここでは1/3段ずつの変化で連動性を紹介していますが、これは当然1/2段ずつに揃えても同じ作用です。露出補正で±1段変更する行為は、絞りやシャッター速度を前後に1段ずらす行為に等しいのです。
露出補正と仕上がりへの影響
ここまでの話をもう少し深く掘り下げてみたいと思います。露出補正を行うということは、結局、絞りとシャッター速度を標準露出の数値から移動させて明るさを変えているということです。これはつまり、露出補正を行うことによって、「動く被写体への描写性」や「被写界深度の程度」が、大なり小なり「相対的に」変化していることを意味します。
わかりやすく記せば、下図のような変化が生じることになります。これを撮影モードに置き換えると、絞り優先オートの場合、プラス補正するほどシャッター速度は遅くなり、マイナス補正するほどシャッター速度は速くなるということです。
露出補正と描写への影響
露出補正を行うと絞りやシャッター速度が変わるため、補正レベルに応じて描写にも影響を与えます。利用する撮影モードごとにどんな傾向があるのか、確認しておきましょう。
シャッター優先オートの場合は、プラス補正するほど絞りが開き被写界深度は浅くなり、マイナス補正するほど絞りが絞られ被写界深度は深くなります。そして、プログラムオートの場合は、プラス補正するほどシャッター速度は遅くなり、被写界深度も浅くなります。マイナス補正するほど、シャッター速度は速くなり、被写界深度は深くなります。
このように露出補正の目的は写真の明るさを変えることにありますが、その目的を果たすために、実は絞りやシャッター速度が「自分の意図とは別に」変化しています。露出補正を行う際は、撮影モードに応じて絞りやシャッター速度もチェックする必要があるのです。
例えば、絞り優先オートやプログラムオートで大幅なプラス補正を行う際は、割り出されるシャッター速度が極端に遅くなっていないか確認したいところです。明るく写そうとする度に、手ブレが生じやすくなるからです。逆に、マイナス補正を行う際はシャッター速度が速くなる代わりに、絞りが絞り込まれやすくなり、意図せず深い被写界深度になってしまうことがあるので注意しましょう。
しかし、一方で露出補正は描写性を変えずに行うことも可能です。つまり、絞りやシャッター速度の数値を固定したまま、明るさのみを変えることができるのです。この際に用いるものが次回の連載で取り上げる「ISO感度」です。露出はこのISO感度と組み合わせることでさらに表現の振り幅を広げることが可能です。ISO感度は露出への理解に欠かせない要素なのです。