被写体としての「空」は、誰もが見上げればいつでも目にすることができ、その時々で様々な表情を見せてくれる、身近で手軽な存在です。しかし誰が撮っても「それなり」の絵になる一方で、写真映像作品として「それなり以上」を目指すのであれば、技術を磨き、機材を整えるだけでは足りず、さらにひと工夫もふた工夫も必要になる奥深さがあるジャンルでもあります。
「四季の空 撮り方レシピブック」では、日本の四季に見られる気象現象を中心として、「空」にまつわる様々な作例と、撮り方のコツを解説しています。また、機材選びやカメラ設定についても言及しており、様々な条件がありうる気象撮影における勘所を掴むのにも役立つ一冊となっています。
本記事では「四季の空を撮る・不思議な空」の章より、「皆既日食」の作例を抜粋して紹介します。
皆既日食
太陽が月によって完全に隠される現象が皆既日食だ。まれにしか見ることができない壮大な天文ショーは、観察できる範囲も地球上のごく一部に限られる。
皆既日食中のコロナ
皆既日食中のコロナは、肉眼で見るともっと広がって見えるが、内側と外側の輝度差が大きいため、1枚の写真に表現するのは困難だ。
皆既日食は、地球上のごく一部の場所で1~2年ごとに見られる現象だ。渡航が困難な場所であることも多いため、旅行代理店などが催行する日食ツアーを利用する人も多い。明るく輝く太陽が月に隠されると、昼間の時間帯であっても、あたりは夜のように暗くなる。皆既中の太陽は、双眼鏡などでコロナやプロミネンスを観察したい。皆既直前と直後に現れるダイヤモンドリングと呼ばれる光景が最も美しい。部分日食の間は、太陽撮影用のフィルターを使用して撮影する。
皆既日食中の空
皆既日食中の空を対角魚眼レンズで撮影。地平線の近くがやや明るいことがわかる。当日は雲が多い天気だったが、雲間からコロナの輝きを見ることができた。
皆既日食中の太陽の周辺に見ることができるコロナは、満月とほぼ同じ明るさだ。望遠レンズを使用して、カメラを三脚に載せて撮影しよう。やや感度を上げて、シャッター速度を遅めに設定して撮影するが、コロナの内側と外側で明るさが異なるため、段階的に露出を変えて複数枚の写真を撮影しておこう。カメラのダイナミックレンジを調整するのもいい。皆既日食中は周囲の風景にも注目したい。地平線の近くはやや明るく、空の色が変化していくようすもまた興味深い。
*本記事に掲載している写真の著作権は著者が所有いたします。写真の無断使用や転載を禁止いたします。