「身近なものを作品にする」大村祐里子さんの撮り方辞典、第22回のテーマは「椅子」。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
撮影のポイント
1. 「なぜ、ここにあるの?」と不思議になるようなシチュエーションで椅子を見つけたら、その椅子の来し方(きしかた)に思いを馳せよう。
2. 変わったシチュエーションに椅子がある場合は、変わった構図の方がしっくりくる。
窓に向かってポツンと佇む椅子があり、それを見て「この椅子は窓の外の景色を見続けてきたんだろうな」と思いました。そこで、友だちに座ってもらい、椅子が窓の外の光を浴びながら、景色をぼんやり眺めているような写真に仕上げました。
想像力を駆使して表現に生かす
「変わったシチュエーション」に存在する椅子に惹かれます。通常、椅子は部屋の中に置いてあるものですが、時々、屋外や、「なんでそんなところに?」という場所に放置されていたりします。長い間、雑草に埋もれているような椅子もありますし、誰がどうやってそこに持ってきたのかまったくわからない椅子もあります。変わったシチュエーションの下、椅子たちがどんなことを考えてきたか想像し、それを写真に表現しようとすると面白いものが撮れるように思います。
特殊なロケーションでは構図も大胆に
椅子の姿をきちんと写し取ろうとするよりも、自分の感じた椅子の姿を優先しましょう。雑草に囲まれている感じを表現したいのであれば、椅子の全体を描くよりも、雑草がごちゃごちゃと生えている様子をメインにしてしまいましょう。また「変わったシチュエーション」にある椅子を撮る場合は、構図も変わっていた方が、状況の伝わる写真に仕上がります。思い切って、椅子の一部や、椅子の影しか写っていないような構図を採用してみるのも一興かと。
雑草が生い茂った中に、長い間存在してきたような椅子がありました。なんとなく、椅子と自然がうまく共存しているように見えたので、陰気な感じではなく、明るい雰囲気に仕上げ、椅子と自然の関係が悪くないことを表現しました。
ラクガキだけの廃墟に置いてあった椅子を撮影しました。椅子が、ド派手な落書きを背にして、そっぽを向いているように見えたので、椅子と壁が隔絶されているような雰囲気に仕上げました。
壁際にあるピアノの椅子がいいなと思ったのでシャッターを切りました。椅子よりも、椅子に当たっている光が作りだす「影」がドラマティックで良いと感じたので、影をメインに写し出しています。その椅子が見続けてきた数々の演奏を象徴しているような雰囲気に仕上がったかな、と思います。