駆け出しクリエイターのための お金と確定申告Q&A
第5回

「副業」と「本業」の境目はどこ?

「確定申告」は、国税である所得税を自ら計算して、税務署に届け出るための手続きです。「税金を正しく納めるための仕組み」であり、知っておくと便利ですが、いまいちよくわからない、と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A」(桑原清幸・著)では、税金の基礎や収入の区分、帳簿の付け方から節税のコツまで、確定申告にまつわる素朴な疑問について、ケースごとの事例を交えながら、詳しく解説しています。

本記事では「個人事業主として独立する際の手続き」に関するQ&Aを紹介します。

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Q.
私はカメラマンです。広告代理店で写真撮影のアルバイトをしながら、個人でもカメラマンの仕事を引き受けています。今年は個人で受注する仕事が増えて、アルバイトの給料よりも、個人の仕事の収入のほうが多くなってきました。何かすべきことはありますか?

A.
「副業」で始めたクリエイターの仕事も、「本業」といえるくらい収入が増えてきたら、税務署に「開業届」を出しましょう。これで税務署に、「私は個人事業主です」「クリエイターとして本格的に事業を開始しました」と宣言したことになります。

「開業届」は、正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」という書類で、税務署に行けばもらえますし、国税庁のウェブサイトからPDFファイルでダウンロードできます。

この開業届には、事業を開始した日付を記入します。開業届は、事業を開始した日から1カ月以内に税務署に提出しなければなりません。もし遅れてしまっても特にペナルティはありませんが、早めに提出しておきましょう。

なお、「副業」と「本業」の境目については、実は明確なルールがありません。人それぞれ、仕事の内容や収入の大きさなど状況が違うので、各自で「事業」といえるレベルかどうかを判断しなければなりません。

事業といえるかどうかの目安としては、例えば以下のようなものが考えられます。

  • ビジネスとして行っているかどうか(単なる趣味ではない)
  • 有料で販売・提供しているかどうか(ボランティアではない)
  • 収入が継続・反復しているかどうか(単発の臨時収入ではない)
  • この仕事に一定の時間を割いているかどうか(片手間ではない)
  • 生活するうえで、この収入に頼っているかどうか(ある程度の収入がある)など

これらは明確なルールとして決められたものではないので、ケースバイケースで判断するしかありません。また、開業届を出すことで、確定申告での所得の区分が変わります。これまで「雑所得」として申告していたものが、「事業所得」となります。

所得税ではこの違いは大きくて、事業所得は他の所得と損益通算ができるなど、いろいろなメリットがあるのです。

もし、まだ片手間で規模が小さい段階で開業届を出してしまい、税務署から事業と認められないと、事業所得ではなく、雑所得とされてしまい、損益通算などのメリットが受けられなくなってしまいます。

クリエイターとして本格的に稼げるようになってきたら、早めに「開業届」を税務署に出しておきましょう。これであなたも独立開業、立派な「個人事業主」です。

 


<玄光社の本>

 

<著者の新刊>

本書の著者・桑原清幸さんの新刊「駆け出しクリエイターのためのお金と独立準備Q&A」が10月29日に発売されます。本書と併せて、独立後の仕事とお金の管理に、是非お役立てください。


著者プロフィール

桑原清幸

(くわばら・きよゆき)
1972年群馬県渋川市生まれ。桑原清幸会計事務所代表。税理士・公認会計士。上智大学在学中に公認会計士試験に合格。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。大手会計事務所で20年間勤務したのち、独立開業。会計事務所とアートを融合したギャラリーKKAG(Kiyoyuki Kuwabara Accounting Gallery)を設立。植田正治やソール・ライターなど写真を中心とした展覧会の企画制作を手掛ける株式会社コンタクトの財務担当取締役(CFO)を務める。暗室バーの税務顧問も務めるなど、会計専門家の立場からアートビジネスの発展を支えている。趣味は、ライカカメラ収集・写真の暗室作業の他、秘湯スタンプ集め、日本酒立ち飲み屋巡りなど。上智大学経済学部非常勤講師。

ウェブサイト:kkag.jp

書籍(玄光社):
駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A
駆け出しクリエイターのためのお金と独立準備Q&A

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