ミリタリープラモデル、とりわけ航空機模型の中でも、機体の緻密な再現性や組みやすさで定評のあるタミヤ「1/48傑作機」シリーズは、モデルとなった機体への綿密な取材によって再現されたディテールやギミックが特徴です。
ホビージャパンの「飛行機模型製作の教科書 タミヤ1/48傑作機シリーズの世界 レシプロ機編」では、本シリーズに属する機体の組み方や塗装の手順を詳細に解説。豊富な作例もさることながら、組み立てや塗装に必要な道具や接着剤、塗料などの解説も網羅しており、初めて航空機模型に挑戦する人にも優しい構成となっています。
本記事では、林哲平氏による「川崎 三式戦闘機 飛燕I型丁」の「HOW TO BUILD」より、キット完成に向けた塗装とデカール処理の仕方をご紹介します。
機体の塗装
飛燕には窓枠用のマスキングシートが付属する。フリーハンドだとズレやすいので、金属定規を当ててデザインナイフで切り離そう。
キャノピーで忘れてはいけないのが内側のマスキング。塗料が吹き込まないようにしっかりと。
シルバーを塗る前に、機体内部色である明灰白色を塗装しておく。いきなり機体色を塗ると窓枠の内側まで機体色となってしまい、非常に不自然な仕上がりになってしまう。
足収納部とラジエーターをマスキング。足収納部はひっくり返さないと見えないので、多少の塗料の吹きこぼれはそれほど目立たない。ただし、ラジエーターは正面から見ると目立つので手を抜かないこと。
後部のラジエーターは奥まってる部分をマスキングする必要があるので、細いピンセットが役立つ。なお、ラジエーター内部色はキット指示だとジャーマングレイだが、黒っぽい色ならなんでもいいのでフラットブラックで問題無い。
尾翼はレッドで塗装するので本体からは外しておく。こういったマスキングせずとも塗り分け可能で、最後に接着するパーツをうっかり接着してしまわないように。
キットの指示では機体色はシルバーメタルとなっているが、より輝きが強く金属粒子の細かいメタルシルバーでよりメリハリのある銀に仕上げてみる。
エアモデルの缶スプレー塗装で悩むのが持ち手をどうつけるか。飛燕はエンジンレスで仕上げれば、エンジンカバーを外した内側に両面テープを貼った割り箸を差し込んで固定できる。
下地にタミヤスプレーのTS14ブラックを塗装して光沢ブラックの塗装面を作ったあと、メタルシルバーをスプレーして発色させる。メタルシルバーの下地には必ず光沢ブラックを塗ること。光の反射率が上がり、輝くナチュラルメタルの仕上がりとなる。
飛燕の尾部はレッドで塗り分けられている。曲面の強いカーブなど普通にマスキングテープを切り貼りするだけだと対応するのが難しい部分だ。
そんなときはマスキングテープをそのままマスク部分に貼り付け、爪楊枝でディテールにしっかりなじませてから刃を交換してよく切れる状態としたデザインナイフで切り抜こう。
マスキングした状態。このマスキング法は一歩間違えばパーツを傷つけてしまうが、難しい部分でもきれいにくっきりとマスキングできる。エアモデルでは必須テクニックなので、失敗を恐れずどんどんやってみよう。
尾部のマスキングで、胴体部分をすべてマスキングテープで覆うのはマスキングテープが勿体無いし、塗膜が禿げる危険もある。そんなときは普通のコピー用紙で覆ってしまうのが一番だ。
シルバーの下地に直接レッドを塗るとどうしても濁ってしまう。下地にMr.フィニッシングサーフェイサー1500ホワイトを吹いて発色用の白下地を作っておく。
尾翼も同様に白下地を作っておく。ホワイトは発色しづらい色なので、さっと吹いては乾燥を繰り返しながら塗装しよう。
下地ができたら、Mr.カラースプレーのレッドで塗装する。マスキングした部分を缶スプレーで塗装するときは一気に発色させようと塗料を吹きすぎないこと。マスキングテープの内側まで塗料がまわり、基本塗装からやり直しになってしまうことがあるのだ。
マスキングを剥がした完成状態。下地がシルバーなので、テープをピンセットで剥がすときは塗膜を傷つけないように気をつけよう。ちょっとしたはみ出しくらいなら筆でリタッチすれば問題なし!!!
水平・垂直尾翼が塗り終わった状態。デカールワークまでパーツは本体に接着しないで、このままにしておこう。
防眩塗装としてフラットブラックを塗装する。しっかりとマスキングして、銀の部分に黒が乗らないようにしよう。
マスキングを剥がせばご覧の通り。塗り漏れやマスキング漏れが無いか確認しよう。
デカールと仕上げ
キットにはマーキングを再現するためのデカールが付属している。飛燕は日の丸や細長いラインなど、大判のデカールが多い。一見難しく見えるかもしれないが、手順をしっかり守れば意外なくらい簡単に貼れるのだ。
キットには細かなコーションマークもしっかり入っている。が、たくさんのデカールを初心者が全部貼るのは大変なので、目立たないデカールは省くのも選択肢の一つ。
台紙からデザインナイフを使ってデカールを切り出す。ここはデザインナイフを使うこと。ハサミで切り出すよりも、細かい所まで切り出せる。
デカールを水に浸して台紙と分離させる。手ではなくピンセットでつまむこと。大判デカールならば塗料皿より大きい普通の皿に水を張ると楽だが、事前に家族の許可を得ておくのを忘れないように。
説明書を見ながら指定の位置に台紙をずらしながらデカールを乗せる。細かい位置決めは水を染み込ませた平筆の筆先で押しながら調整するのが一番安全な方法だ。
位置が決まったらティッシュで上からそっと押さえて水分を取る。シルバーの塗面は滑らかで、このとき一番デカールがズレやすいので要注意。
デカールが固定されたらマークソフターを塗る。マークソフターはデカール用の軟化剤で、塗るとデカールが柔らかくなり、ディテールに密着してより自然な仕上がりとなるのだ。
マークソフターを塗って10秒ほど待つとデカールが伸びてシワがよってくる。このシワを水を染み込ませた綿棒でくるくる、っと軽く回しながら伸ばしつつ、デカールをディテールに密着させていこう。
基本のラインを貼ったら次は日の丸。説明書を見ながら、指定の位置に貼っていこう。要領はさっきと同じだが、2枚目のデカールのほうがズレやすいので位置決めは慎重に。
最後に日の丸から尾部へと伸びるラインを貼ったら完成。平面に貼るデカールなので、大きさに比べて貼りやすいので非常に簡単。どうしても不安な人は別機体用の青ラインで練習するのも手だ。
フラップ上部の「フムナ」。このデカールは位置決めを容易にするため大きな余白部分がとられている。最後にツヤ消しコートをしない銀塗装の場合、余白はそのままだとかなり目立ってしまう。
なので余白はカットしてしまおう。デザインナイフを使って字の部分だけを切り抜く。あまりにギリギリで切り抜こうとすると字を破損する危険があるので余白はちょっと残しておこう。
切り出した状態。細かく切り出したデカールは小さく、ちょっとしたことでなくしやすい。一気に3文字切り抜くのではなく、一字切ったら貼るを繰り返すほうが安全だ。
切り抜いたデカールを貼っていく。デカール面積が小さくなるとノリが流れやすく、剥がれやすくなるのでマークセッターと併用しよう。最初は中心の「ム」から貼れば位置決めしやすい。
順番に「フ」「ナ」を貼った状態。エアモデルは平面に散らばるコーションなどが余白で繋がっていることが多く、余白カットは必須テクニック。作りやすい飛燕でしっかり練習しておこう。
プロペラと燃料タンクは最新考証によると黄緑7号という茶色がかった緑で塗られていたというので、タミヤスプレーのOD色(陸上自衛隊)で塗装している。
ホイールも最新考証によると明灰白色という説も。まずは割り箸に固定して一気に塗装する。
タイヤは筆塗りで。キットの塗装指示にはラバーブラックとあるが、初心者は塗料を揃えるのが大変なので黒系の色は全部フラットブラックで塗装すれば問題ない。
塗り分けた状態。ディテールがくっきりしているので気をつけていれば黒がはみ出すことはそうそう無いが、はみ出たときは缶スプレーから明灰白色を出して筆でリタッチしよう。
尾部のタイヤは塗り分けが非常に複雑なパーツとなっている。ここも筆塗りでささっと仕上げよう。主脚タイヤほど目立たないので、はみ出し部分は強めのウォッシングなどで誤魔化すのも手だ。
排気管まわりはフラットブラックでスプレー塗装。排気管はキット指示だとブラウンだが、これは使い込んで酸化した状態の色。今回はウェザリング無しのプレーンな仕上げなので、錆びる前の金属色であるシルバーに。塗料はタミヤエナメル塗料のチタンシルバーを使っている。
こちらも最新考証の説に合わせて主脚をチタンシルバーと明灰白色で塗り分けこう。
脚部カバーは裏側をMr.ウェザリングカラーのマルチブラックで軽くウォッシングしたあと、メタルシルバー部分にデカールを貼る。黄帯部はそのまま貼ると余白がカバーからはみ出るので必ずカットしておくこと。
それぞれ塗り分けた脚部を接着した状態。塗料のはみ出しやリカバリーを考えるとエポキシ系接着剤が一番だが、初心者のうちは手早く速乾タイプの流し込み接着剤で問題なし。どんどん作って完成品を増やそう。
燃料タンクはデカールを貼ってから接続部をタミヤエナメル塗料のフラットブラックとチタンシルバーで塗り分ける。エナメル塗料は塗膜が弱く、はがれやすいので、それを防ぐためだ。
脚部はグラつきを防ぐためにも速乾タイプの流し込み接着剤でガッチリ固定しておくこと。目立たない裏側なので、多少接着剤がはみ出てもほとんどわからない。
翼端灯はタミヤエナメル塗料のクリヤーレッドとクリヤーブルーを使って透明感のある仕上がりに。ちなみに飛行機の翼端灯は世界的ルールで左は赤、右は青と決まっているので憶えておこう。
キャノピー表面のマスキングは最後に剥がそう。これは少しでもガラス部分を保護する時間を増やし、キャノピーにキズがつくのをできるかぎり減らすため。
キャノピーのマスキングはシートを使っても難しい。少しのはみ出しは日常茶飯事。慌てずに爪楊枝の先で軽くこすればはみ出しは簡単にこそぎ落とせる。
エンジンの吸気口はデカールを貼るのが非常に難しく、どうしても隙間ができやすい部分。タミヤエナメル塗料のフラットレッドでリタッチしておこう。
最後にピトー管を本体に接着すれば完成だ。ここは接着剤がはみ出ると非常に目立つ部分なので、塗膜を侵さないタミヤ多用途接着剤を爪楊枝で穴に点付けしてから固定するとよい。
缶スプレーできれいな金属塗装!川崎 三式戦闘機 飛燕I型丁 完成!
エアモデルはキャノピーのマスキング、破損しやすい脚部、持ち手をつけようが無い胴体など初心者を迷わせる部分が多いジャンルです。今の時代、初めてエアモデルを手にするモデラーが一番楽しく作れるキットはなにか?あらゆる要素を突き詰めた結果、たどり着いたのがこの飛燕です。抑えられたパーツ数にすり合わせ無しでの製作を可能にするタミヤのパーツ精度。鬼門であるキャノピーマスキングをクリアするシートの付属に、缶スプレーだけで塗装できるシンプルかつ素晴らしい配色。完璧です!!! このHow toでは「いかに楽をして見映えがする作品を作るか」に注力しています。飛燕と缶スプレーを手にとってエアモデルデビューを果たしてください!!!
本作例製作のポイントをおさらい
- 接着は流し込み接着剤速乾タイプで手早く
- 見えないところは存在しない。とことん手を抜いてOK
- マットブラックとセミグロスブラックなど分ける必要無し。同じような色なら全部同じでOK
- マスキングシートは定規を使ってカット。フリーハンドはズレる
- シルバーの下には必ず光沢ブラックを吹いて光の反射率を上げること
- シルバーに無理にスミ入れしなくてOK。汚くなることがある
- キットの塗装指示だけでなく、最新考証をちょっと勉強してみよう。他と差がつくポイントだ
- デカールは余白を切って使う
- 筆塗りはエアモデルでは必須テクニック
前編はこちら