ミニチュア写真家田中達也さんインタビュー。「見立て」の極意は色と形、簡略化!

作品タイトル:これからも未来へ進み続ける 〜Heading for the Future〜 (c) 田中達也

見立てのミニチュア写真を発表し、国内外で数多くの展覧会も実施しているミニチュア写真家の田中達也さんが、光学メーカー、タムロンの創業70周年を記念して、ミニチュアオブジェを制作しました。

埼玉県さいたま市に本社を置くタムロンは、1950年11月1日、旧浦和市(現浦和区)に写真機・双眼鏡レンズの加工を行う「泰成光学機器製作所」として創業。1970年に現在の社名「株式会社タムロン」に社名変更しています。

田中達也さんが制作したミニチュアオブジェは、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて2020年2月に開催中止が発表された写真映像関連イベント「CP+ 2020」のタムロンブースで展示が決まっていたもの。SLに見立てたタムロンレンズを、駅のホームや線路脇から迎える人々が表現されています。

今夏、タムロン本社にて田中達也さんがミニチュアオブジェの制作を行う様子がメディア向けに公開されました。編集部ではこの折り、タムロン創業70周年記念のミニチュアオブジェやご自身の作品制作の考え方などについて田中さんにお話を伺う機会を得ましたので、その模様をお伝えします。

作品のアイディアは「色」と「形」から連想

――ミニチュア写真を撮ろうと思ったきっかけについてお聞かせください。

田中さん(以下敬称略):本格的に写真を始めたきっかけはSNSでした。始めの頃は風景写真を掲載していたのですが、撮っているうちにまた別の被写体を撮りたくなったのです。でも当時はデザイナーとして働いていたので、どこかへ行って被写体を探すのは時間的に難しかった。

そのとき着目したのがミニチュアでした。当時、趣味で作っていたプラモデルと一緒に、人物のミニチュア人形も飾っていたのですが、このミニチュア人形を被写体とし、様々なシチュエーションを作って、撮影をするようになりました。

作っていたプラモデルのジャンルは、いわゆるガンプラや城、鉄道模型のたぐいです。ガンプラなら1/144、鉄道模型なら1/160くらいの小さなスケール。プラモデルと人物のミニチュアを一緒に飾ることで、スケール感が出るのです。スケール感を表現するためにミニチュアを使っているのは、今も昔も同じですね。

撮っていくうちに、写真を見てくれるみんなはどういう作品が好きなのかと思って、いいねの数を分析していった結果、今のような作風に落ち着きました。

田中達也さん

――ミニチュア作品における「見立て」のアイディアは、どのように発想しているのでしょうか。

田中:考え方のパターンはいくつかあるのですが、ひとつは、端的にものを見て、連想していくことでしょうか。

例えば「夏の風景を表現したい」と思ったならば「夏といえば海、海といえば青」と連想していきます。そうすると、青いもの、水色のものであればわりとなんでも「海」として表現できるんですよね。たとえばそれはビニールシートなどです。

「形」から入るパターンもあります。仮に「列車」を表現したい場合は、まず「細長いものがたくさん連なっている」形状に着目。そこから「細長いもの」を用意します。それはパンでもいいし、鉛筆でもいい。とにかく細長いものを集中して探すのです。

いずれの場合でも共通の考え方としては、色や形に落とし込む際、一度簡略化するのが重要です。

これからも続いていく道の「節目」を表現

――今回制作しているミニチュア作品「これからも未来へ進み続ける 〜Heading for the Future〜」のテーマについてご教示ください。

田中:今回のテーマ「列車」は、タムロン創業70周年ということで、レンズメーカーとしての歴史を感じさせるような仕上がりを目指しました。歴史の長さを「長い列」のような形で表現しようと考えると、記念碑的な一本のレンズだけを使うよりは、複数のレンズを使った方が適切ではないかと考えました。

「たくさんのレンズがある」状況で何ができるのか。いろいろ候補はあったのですが、最終的にはやはり70周年ということで「列車が前に向かって進んでいく」ことを想起させる風景を採用しました。レンズの黒いカラーリングも、ちょうどSLに見立てることができますよね。鉄道には「これから先もずっと繋がっていく」イメージがありますし、70周年の節目も「駅」という形で表現してみました。

定規で緻密に測りながら、模型を設置していく。

 

接着剤で細かいパーツを固定していく。田中達也氏愛用の接着剤は、紫外線で瞬間で硬化するペン型タイプのもの。通常の接着剤では、硬化後にはみ出た部分が白く残ってしまうが、この製品は色が残らずきれいに仕上がるという。
列車に「見立てられた」タムロンのレンズたち。その数、なんと11本。SP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USD/16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACRO/SP 35mm F/1.4 Di USD/SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD/SP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1/18-400mm F/3.5-6.3 Di II VC HLD

 

――作品作りに使っている機材について教えてください。

田中:カメラボディはずっとソニーのカメラを使っています。僕がレンズ交換式のカメラを使い始めたのは2012年ごろなのですが、ミニチュアってファインダーを覗くと撮りにくいので、当時からライブビューが比較的使いやすかったのが決定的でした。今はミラーレスの「α7R III」を使っています。僕の作品の場合は展覧会などで大きく伸ばすことが多いので、必然的に高解像度のα7Rシリーズを選択することになりました。

一番使っているレンズは90mmのマクロですが、最初の頃は圧縮効果を狙って望遠レンズを使うことが多かったんですね。ただ、様々な作品を制作していくうちに、広角マクロの面白さにも気づきました。僕は前職がデザイナーだったせいか「構図をつくる」視点で撮影していたのですが、広角マクロレンズを使ってみてからは、パースを効かせて臨場感を出すのもいいなと思うようになりました。

 

タムロン70周年記念ミニチュアオブジェの撮影に使用したレンズ
『TAMRON 24mm F/2.8 Di III OSD M1:2 Model F051』

「わかりやすさ」よりも「斬新さ」

――写真家としての原点はSNSだということですが、長年作品発表をSNSで行ってきた中で、鑑賞者、フォロワーの反応は変わるものですか?

田中:最近は「同じモチーフで、いかに違うアイデアを出すか」が重要になってきたと感じます。僕がミニチュアで作品をつくり始めた頃は、みんなが想像はしていても形にはしなかったもの、たとえばブロッコリーを樹に見立てるとかを作品にして、「私もそう思ってた!」「ほんとにやる人がいるなんて!」という共感を呼ぶ反応が多かった。

でも長く続けていると、パッと思いつくようなアイデアは出し尽くしているわけで、日々、新しい発想を要求されている。ある意味「限界を超える」挑戦をしているようなところがあって、作品自体も昔より複雑な作りになってきています。そういう意味でも、メイキングを出すのはいいことなのかなと思います。

それと、最近は僕の作品を見てくださる方も目が肥えてきたというか、「見立て」写真の見方を深く理解してくださってきている気がしています。多少わかりにくい見立てでもついてきてくれるようになってきたのです。

どういうことかというと、これまでは俯瞰的な視点でモチーフをわかりやすく表現した、いわば説明的な作品を意識的に撮影してきたのですが、これが低い目線から臨場感を優先して撮影した、一見何を見立てに使っているのかわかりにくいものでも、見立ての作品として理解していただけるようになってきました。

例えば茶色いダウンジャケットを畑に見立てて、農家の格好のミニチュアを並べた作品は、パッと見たらそれがダウンジャケットには見えませんよね。でもこのように、一見してわからないくらいの方がむしろ面白がって見てもらえるようになってきているのです。

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. 1.16 thu “Do My Best for The Vest” . おいしい野菜のためにベストを尽くします . #ダウンベスト #畑
#ユニクロ #ウルトラライトダウン #DownVest #Field #UNIQLO . ────────────────── 《EXHIBITION info》 . 【MINIATURE LIFE展 in 山形】 MINIATURE LIFE EXHIBITION in Yamagata until Mar 1, 2020 #MINIATURELIFE展 #ミニチュアライフ展 . 【微型展 2.0 台中站】 MINIATURE LIFE EXHIBITION2 in Taichung
until Mar 1, 2020 #微型展 #田中達也微型展 . 【small MUJI vol.1“Miniature”】 until Feb 29, 2020 #smallMUJI #MUJIKamppiHelsinki . ℹ️Please look at the Instagram story’s highlight for more information. .

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――作品に関して、新しく始めた試みは何かありますか?

田中:作品のメイキングをたくさん出すようにしましたね。先ほどお話したダウンジャケット畑の作品でも、後から別カットでネタばらしをするカットを用意しています。

これまで、機材や照明のセッティング、撮り方といった情報は表に出してこなかったのですが、思いの外興味のある方がいらっしゃるようなので、出せるものについては出すことにしています。ダウンジャケットの例のように別カットを横に掲載することもあれば、動画を出して、その中でネタばらしをすることもあります。いろんなパターンで作ってみています。

意図した通りの表現を見せたいなら「展覧会」がベスト

――作品を制作する中で、モチベーションにしていることはなんでしょうか。

田中:SNSの反応は今でも大事にしています。自分の作品が拡散し、海外の方の目に触れる機会が増えると、国内外での展覧会に繋がることもありますし。最終的には展覧会に繋げられたらいいなとは思いますが、でももっとシンプルに「いいね」がもらえたらやっぱりうれしいですよね。フォロワーが増えたり、いいねがもらえるにはどうしたらいいか、というのは無視できない視点です。

――「展覧会の開催」も作品制作の大きな動機づけになっているんですね。

田中:展覧会は、いまのところ作家が意図した通りの表現を見ることのできる唯一の手段だと思っています。それはみんなが手にしている表示デバイスがそれぞれ異なるからです。僕はSNSで作品を発表していますが、それを表示するデバイスは画面の大きさも違うし、色もそれぞれ異なっている。多くの場合、こちらが意図している表現ではない可能性がとても大きいのです。だから僕は、写真集も電子書籍としては出していません。

写真家が見せたい表現の中には、写っているもののほかにも、大きく伸ばした写真のサイズ感や、それぞれの作品の並べ方も含まれます。それは時として、デジタル環境では表現しきれないものです。僕が被写体としているミニチュアであれば実物を展示することもできるし、それを来場者自身に撮影させることもできます。実際に自分で撮影してみることで気づけることもあるはずですよね。

表示デバイスに縛られず、同時にそういう体験ができるところも含めて、作家が見せたい表現を実際に目にする環境としては、結局アナログ環境で実物を目にすることができる展覧会が一番適していると思います。

<関連サイト>

MINITURE LIFE(田中達也氏)
https://miniature-calendar.com/

株式会社タムロン/70周年特設ページ
https://www.tamron.co.jp/70th/

株式会社タムロン/TAMRON MAG
https://tamronmag.jp/


<田中達也氏の著書(玄光社刊>

MINIATURE LETTER LIFE 田中達也ポストカードブック

 

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