ポートレートは専門の写真家がいるほど確立されたジャンルです。カメラを持った人なら一度は撮ってみたいと思ったことがあるのではないでしょうか。
ただ、ポートレート撮影には「モデル」の存在が必須。モデルさんのスケジュールや撮影場所を決めるなど、撮影を始めるまでに多くの段取りが存在します。
そこをヒラリと乗り越えたのが、女性セルフポートレート写真家のRinatyさん。初の著書「#セルフポートレートの裏側 撮影もモデルも全部わたし。」は、自身をモデルとして撮影するセルフポートレートの撮り方、そして撮影の裏側を公開した一冊です。セルフポートレートは、自分がモデルで自分がフォトグラファー。誰もがチャレンジできるジャンルです。
コンセプトは「わたしだけの世界観で、そこに写ったわたしなら好きになれる」。
自分の新たな一面を発見でき、自分のことをもっと好きになれるセルフポートレート作品50点の中から、8点の作品を紹介。第9回は歴史ある景観の中でのセルフポートレートです。

歴史ある景観の中で一瞬をベストに記録

F3.5●1/500●ISO1250
カメラ:SONY α7R III
レンズ:TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III VXD G2
照明:GODOX AD300pro
フィルター:H&Y whitepromist 1/4
撮影地:奈良県橿原市 畝傍高等学校
モノと歴史をセルフポートレートで記録する
創立明治29年、伝統ある共学の畝傍(うねび)高等学校で撮影しました。校舎が古く、老朽化が進んでいるため壊す予定があり、その前に校舎の写真を撮ろう! という動きがあることを知ったのです。その写真に残したいという気持ちに共感し、撮影に挑みました。廊下の木目や風合いからは長い歴史を感じることができました。わたしは高校時代、制服よりも私服で登校することが多く、制服を着た高校生らしい写真がほぼありません。今回、畝傍高等学校の学生さんから制服をお借りして着用し、撮影しました。私が思い描く高校生像を表現するいい機会となりました。
Point 1 セルフタイマーに合わせて瞬間的にポーズを決める
高校生の元気の良さを表現したくて、シャッタースピードは1/500に設定し、セルフタイマーに合わせてジャンプしました。体幹もブレることなく2~3回で決まりました。ふくらはぎの筋肉もきれいで、日々の筋トレの成果が出ています(笑)。撮影は8月、廊下エリアは冷房が切れていて、動きのあるポーズもしたので、とても暑くて汗をかきながらの撮影となりました。
Point 2 イメージ通りに表情管理する
教室からバーン! と勢い良く飛び出すイメージで、「お昼休みだ! やっほー!」という若くて元気いっぱいな様子を表現しています。ジャンプをすると表情は崩れやすく、空中から着地するまでに重力でまぶたと頬の肉が下がってしまいます。さらに飛ぶ瞬間は力みやすく、肩が上がって首がすくみやすくなるため、そうならないよう意識しながら写りました。
Point 3 キーになるものを理解して構図を決める
奥行きと、廊下の傷んだところを写しているところがポイントです。光を柔らかくするためにホワイトミストのフィルターを使用し、自然光のみで撮影。窓ガラスや柱が垂直に写るように意識したり、天井のラインを構図の角と合わせたり、バランスの取れた絵になるよう意識しています。
【撮影の裏側エピソード】学生が講義を受けている間に、セルフポートレートを楽しむ
この撮影の際、奈良県の高校に通う写真部の高校生向けイベントにゲスト講師として招いていただきました。午前中は実習やレクチャーを行い、他の先生方がアドバイスをしている間に、学生から制服を借りて撮影へ。「みんなが講義を受けている間に、わたしは自撮りしてきた」と言ったら、「どれだけ自撮りが好きなの~!」と嬉しい反応をもらいました。また、撮影中は高校生になりきっていますが、醸し出す雰囲気に苦戦。高校生の色気ってありますよね。その年齢でないと表現できないことがあるということに気がつきました。
