ふだん写真は撮っているけれども、どうも納得できる写真が撮れない。そういう思いを抱く人は多いのではないでしょうか?写真家の大村祐里子さんは、フォトテクニックデジタルの連載「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」の中で、日常的な風景を独自の視点で見つめて写真作品をつくる方法を教えています。
「身近なものを作品にする」大村祐里子さんの撮り方辞典、第50回のテーマは「道」です。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
撮影のポイント
1. 目の前の道に、その時その場で感じた感覚や思いを重ねるように表現を工夫する。
2. 絞りを開けて、道に奥行感を出したり、スローシャッターで行き交う人々をぶらして撮ってみよう。
霧に包まれた、雨の森です。道を歩いている時、幻想的でいいなと思いシャッターを切りました。雨がひどく、レンズに水滴がついてしまいましたが、そのままの方が現場の雰囲気に近いかと思い、あえて拭きませんでした。
その場の感覚をそのまま表現
道を歩いていると、いろいろなことを感じます。「ああ、今日は暑いな」とか、「行き交う人々がせわしないな」とか。私は、いつも、そういったことを写真で表現したいなと思い、シャッターを切っています。雨で視界が悪い時は、あえてレンズについた水滴をそのままにしてモヤっとさせて撮りますし、暑くて日差しが強烈な日は、光と影がハッキリとわかるように撮ります。目の前の道をそのまま写し取るのではなく、自分の感覚に従って描き出してみてはいかがでしょうか。
絞りやシャッター速度で工夫
道を撮る時に意識しているのは2つ。1つ目は絞りです。絞りを開放にすれば、写真に奥行きが出て、立体的な雰囲気になります。道の長さや距離を表現したい時はそちらがよいでしょう。絞れば、隅々まできっちりと描き出されます。道の状況を詳細に説明したい場合はそうしましょう。2つ目は、シャッタースピードです。道を行き交う人々をうまい具合に流して撮りたい場合は、シャッタースピードを(1秒など)極端に遅くすると面白いです。
交差点を歩く人々を、スローシャッターで撮影しました。たくさんの透明人間が歩いているようです。雑踏を行き交う顔のない人々…という、なんだか疲れた社会を代弁するような一枚になりました。
強い光が差し込む遊歩道を、手をつないだご夫婦が歩いていて、いいなと思いました。木々が輝き、道には木漏れ日、真ん中にはご夫婦、という要素をまるごと一枚に収めたかったので、f8まで絞りました。
新宿駅をせわしなく歩く人たちを、新宿駅西口地下の壁面オブジェ「新宿の目」がじっと見つめているように見えました。人よりも、新宿の目の存在感を強く出したかったので、シャッタースピードを2秒まで遅くして、人の足だけがかろうじて見えるような雰囲気にしました。