撮影した写真を他者に見せる目的は様々です。ただ記録として見せるならば「撮って出し」でも十分ですが、そこに撮影者が持った感情や、直接関係ないなんらかの意味合いを乗せたいと考えたとき、それはたとえ最終的に何も手を加えなかったとしても、表現を試みたことにほかなりません。
画面の色合いは写真や映像の印象を一変させます。例えば映画の画面をよく見てみると、シーンによっては現実の風景とはかけ離れた色合いで表現されていることに気づくでしょう。こうした映画的なカラー表現は、しばしば写真の調整でも用いられます。
「シネマティック・フォトの撮り方」では、写真に映画的な演出を加えることを大前提に、撮影時に留意すべきポイントや編集方法、鑑賞する際の心構えも解説。著者の上田晃司さんは写真と映像の両方で作品の撮影を続けており、静止画の画作り解説を主たるテーマに据えた本書の製作においても、映像製作の考え方を採用しています。
本記事ではChapter1「シネマティック・フォトの基本」より、「ボケ感」を活かした画作りの方法についての解説を紹介します。
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シネマティックな演出にはボケ感が重要
印象的なシーンに加えてボケ感やダイナミックレンジを考慮する
シネマティック・フォトでは、印象的なワンシーンを狙うことに加えて、プラスαの要素をいかに活かせるかが鍵になる。なかでも重要なのが「ボケ感」だ。映画とテレビとの最大の違いはこのボケ感にある。テレビは情報量を多く見せるためにパンフォーカスで撮影することが多い。
パンフォーカスの世界は肉眼で見ている世界に近いので、あまりシネマ感を感じない。ニュース番組などをイメージすると分かりやすいだろう。TVのような印象をビデオルックなどということもある。シネマルックには、前ボケや後ボケなど、ボケの演出が多い。さらにダイナミックレンジも広く、シャドウからハイライトまで粘るプロファイルを用いるのも特徴だ。そのほかに、プラスαの要素として水蒸気や排気ガスなどの煙や逆光、雨などがある。それらの様々な要素を見つけて写真に取り入れることで、シネマティック・フォトを作り上げていく。
パンフォーカス
近くのものから遠くのものまでピントが合っているように見えるよう、被写界深度を深くして撮影する手法。
なお玄光社オンラインストアにおいて、著者の上田晃司さんが作成したCUBE形式のLUTファイルを販売中です。本連載を参考にシネマティック・フォトを試してみたいとお考えでしたら、ぜひ購入をご検討下さい。