オールドレンズ・ライフ
第29回

時代性を感じさせる「旅のおとも」 S-Travegon 35mmF2.8 R

かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、現在においては「オールドレンズ」と呼ばれ広く親しまれています。

レンズは「写真うつり」の多くの部分を決める要素ですが、オールドレンズの世界においては、必ずしも画面のすみずみまではっきり、くっきり写ることだけが良しとされるわけでもありません。レトロな外観と個性的な写りも人気の一因です。

シリーズ10冊目となる「オールドレンズ・ライフ 2020-2021」では、現行のデジタルカメラで沈胴レンズを使う「沈胴レンズクロニクル」、あえてフレアやゴーストを発生させるレンズを使う「Flare Ghost Collection」などの特集を掲載。各レンズの特徴から装着前に押さえるべき注意点、実写作例など、レンズ沼のほとりに立つ人々の背中を押す内容となっています。

本記事では特集「誰も買わないオールドレンズを買ってみた。」より、「S-Travegon 35mmF2.8 R」の作例を紹介します。

>この連載の他の記事はこちら
>前回の記事はこちら

オールドレンズ・ライフ 2020-2021

銘玉ばかりがオールドレンズではない。レンズ名どころかメーカー名すら知らない。名前こそ知っているが、使っている人を見たことがない。そんなマイナーなオールドレンズが無数にある。言うなれば、歴史に埋もれたレンズ。ただ、それらは本当に見るべきものがないのか。期待と不安を胸に抱き、誰も買わないオールドレンズを買ってみた。

中堅メーカーの実力に浸る

α7III + S-Travegon 35mmF2.8 R 絞り優先 AE F4 1/100秒 -0.7EV ISO100 AWB RAW 開放では周辺光量落ちが見られるが、F4まで絞ると隅々までクリアだ。曇天下でもコントラストの付き方がいい。

カールツァイスイエナやシュナイダーのレンズを物色していると、シャハト(A. Schacht Ulm)というメーカーにたびたび出くわす。派手なゼブラ柄の鏡胴で、いかにも1960年代のドイツであることを自己主張している。ただ、カールツァイスイエナやシュナイダーと比べ、どこかB級路線の気配を感じるのは気のせいか。

シャハトは1959年に設立されたドイツの光学メーカーだ。普及価格帯レンズを得意とする中堅メーカー、という説明がわかりやすいだろう。トラベナー、トラベゴン、トラベノンと、旅のおともを彷彿とさせるレンズ名で製品展開していた。基本的に普及価格帯のレンズだが、このSトラベゴン35mmF2.8Rはルートヴィッヒ・ベルテレが設計したという逸話もあり、ちょっとした狙い目かもしれない。

α7III + S-Travegon 35mmF2.8 R 絞り優先 AE F2.8 1/40秒 -1.3EV ISO100 AWB RAW 窓枠の英字にピントを合わせる。開放から破綻なくシャープに写る。おもしろみは希薄だが、堅実な写りだ。
A.Schacht Ulm / M42 mount S-Travegon 35mmF2.8 R 中古価格:15,000~35,000円 1961年に登場した広角レンズ。レンズ構成は3群7枚のレトロフォーカス型を採用。M42マウントに加え、エキザクタマウントの個体も多い。
K&F Concept / KF-42E2 税別価格:3,500円 M42マウントのレンズをソニーEマウントボディに装着する。側面にネジがあり、これを緩めるとレンズの指標位置を調節できる。

オールドレンズ・ライフ 2020-2021

著者プロフィール

澤村 徹


(さわむら・てつ)
フリーライター・写真家

マウントアダプターを用いたオールドレンズ撮影、デジタルカメラのドレスアップ、デジタル赤外線写真など、ひと癖あるカメラホビーを提案している。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線撮影による作品を発表。玄光社「オールドレンズ・ライフ」の他、雑誌、書籍など数多く執筆。

書籍(玄光社):
オールドレンズ・ベストセレクション
オールドレンズ・ライフ 2017-2018
マウントアダプター解体新書
作品づくりが上達するRAW現像読本

ウェブサイト:Tetsu Sawamura official site
Twitter:@tetsu_sawamura

関連記事