かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、現在においては「オールドレンズ」と呼ばれ広く親しまれています。
レンズは「写真うつり」の多くの部分を決める要素ですが、オールドレンズの世界においては、必ずしも画面のすみずみまではっきり、くっきり写ることだけが良しとされるわけでもありません。レトロな外観と個性的な写りも人気の一因です。
シリーズ10冊目となる「オールドレンズ・ライフ 2020-2021」では、現行のデジタルカメラで沈胴レンズを使う「沈胴レンズクロニクル」、あえてフレアやゴーストを発生させるレンズを使う「Flare Ghost Collection」などの特集を掲載。各レンズの特徴から装着前に押さえるべき注意点、実写作例など、レンズ沼のほとりに立つ人々の背中を押す内容となっています。
本記事では特集「誰も買わないオールドレンズを買ってみた。」より、「S-Travegon 35mmF2.8 R」の作例を紹介します。
銘玉ばかりがオールドレンズではない。レンズ名どころかメーカー名すら知らない。名前こそ知っているが、使っている人を見たことがない。そんなマイナーなオールドレンズが無数にある。言うなれば、歴史に埋もれたレンズ。ただ、それらは本当に見るべきものがないのか。期待と不安を胸に抱き、誰も買わないオールドレンズを買ってみた。
中堅メーカーの実力に浸る
カールツァイスイエナやシュナイダーのレンズを物色していると、シャハト(A. Schacht Ulm)というメーカーにたびたび出くわす。派手なゼブラ柄の鏡胴で、いかにも1960年代のドイツであることを自己主張している。ただ、カールツァイスイエナやシュナイダーと比べ、どこかB級路線の気配を感じるのは気のせいか。
シャハトは1959年に設立されたドイツの光学メーカーだ。普及価格帯レンズを得意とする中堅メーカー、という説明がわかりやすいだろう。トラベナー、トラベゴン、トラベノンと、旅のおともを彷彿とさせるレンズ名で製品展開していた。基本的に普及価格帯のレンズだが、このSトラベゴン35mmF2.8Rはルートヴィッヒ・ベルテレが設計したという逸話もあり、ちょっとした狙い目かもしれない。