2000年代以降、デジタルカメラを内蔵する携帯端末が広く普及し、私たちの日常生活は「写真撮影」と共にあるといっても過言ではありません。その一方で、近年になってフィルム写真も再評価されており、「古くて新しい写真表現」を評価する価値観の中で、写真表現に新たな広がりが訪れています。
写真は「現像」作業によっていかようにでも変化します。その性質は、デジタルでもフィルムでも変わりません。しかし根本的な部分で、デジタル写真はフィルム写真とは似て非なるものです。そしてそれは、デジタルがアナログに近づく余地を残しているということでもあるのです。
書籍「デジタルでフィルムを再現したい」では、デジタル写真現像ソフト「Lightroom Classic」を用いて、デジタル写真をフィルムの風合いに近づけるテクニックを紹介しています。まったくのゼロからフィルムの色合いを再現するのは大変な作業ですので、本書で色調やトーンなど、各種パラメータコントロールの基本を身につけるのも一つの手でしょう。
本記事では第3章「シーン別フィルム再現 屋内編」より、暗所の雰囲気を強調する調整方法を紹介します。
暗いものを暗いまま、静寂に
Before
作品タイトル:「新緑の窓」
シチュエーション:日中、晴れ、逆光/斜光、自然光
After
Step0:仕上がりをイメージする
元の写真の雰囲気を活かすために、必要最低限の補正を行います。
Step1:基本補正を行う
元の写真は、水平は大きく傾いていますし、部屋の雑多なものが写り込みすぎていて、かなり残念な状況です。角度補正とトリミングで写真を整えていきます。
ベースプリセットを適用したのち、角度補正で水平を整えるとともに、1:1に切り抜く。
露光量:+0.94→+0.91
ハイライト:-76→-86
窓の外が白飛びしかけているため。ハイライトをベースプリセットの値よりさらに下げる。
シャドウ:+20→+37
暗部の様子がうっすら認識できる程度にシャドウを上げる。
Step2:カラーを調整する
暖色寄りとするか、寒色寄りとするかは写真のイメージで決めます。この写真は瑞々しい空気感にしたかったので、寒色方向に編集していきます。
色温度:-12→-20
色かぶり補正:-16→-30
全体的にアンバーな色調だったため、色温度を上げ、色かぶり補正をグリーン側にした。
彩度:0→+16
彩度がやや低いと感じたため、少し上げた。
木々の緑の色をグリーンではなく、あえてアクアとブルーのカラーミキサーで微調整します。
カラーミキサー・アクア
色相:0→+35
彩度:0→-29
輝度:-38→0
カラーミキサー・ブルー
彩度:-5→-20
輝度:-47→0
「植物の緑=グリーン」という先入観を捨て、緑の中に含まれる青系統の色を調整。青味の彩度が高いと感じたため、アクアとブルーともに彩度を下げ、輝度を上げた。
一見、あまり変化していないように見えるが、全体的に青味が加わって新緑の爽やかさが強調されている。
Memo
カラーミキサーのアクアとブルーを使って植物の色を調整しましたが、他の事例と同様にグリーンを使って補正しても問題ありません。下はグリーンの色相をプラスにし、彩度を下げて調整しました。似たようなアウトプットとなりますが、アプローチが異なることで微妙なニュアンスの違いが生まれることに注目してください。