かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、スマートフォンで写真を撮るのが当たり前になった近年においても、カメラ好き、写真好きの人々から「オールドレンズ」と呼ばれ親しまれています。オールドレンズは「マウントアダプター」と呼ばれるパーツを用いることで現行のカメラに装着することができます。これまでに発売された膨大な数の交換レンズの中から、自分好みのレンズを見つけるのも、オールドレンズ遊びの楽しみの一つなのです。
「オールドレンズ・ライフ 2019-2020」では、オールドレンズの中でもあまり注目されてこなかった「オールドズームレンズ」を特集。一筋縄ではいかない性能や個性的な外観には、現代のレンズとは一味も二味も違う面白さがあります。
本記事ではその中の一つ、New FD 28-55mmF3.5-4.5の作例と解説を掲載します。
ブースト感のある歪曲を味わう
ズームレンズは得てして単焦点レンズより大きい。特にオールドズームは大きい鏡胴のものが多い。しかし、そうした事情も1980年代になると変化が見られる。そう、コンパクトズームの登場だ。ここで取上げるNew FD 28-55ミリF3.5-4.5は、そうした流れを汲む小型軽量な広角ズームである。
本レンズは、ヤシコンのディスタゴンT* 25ミリF2.8と似たようなサイズ感だ。こじんまりと小さく、しかも樹脂製なのでディスタゴンより遥かに軽い。ハンドリングしやすい反面、チープに見える点がマイナスポイントだろうか。しかし、侮るなかれ。このレンズ、思いの外写りがいいのだ。歪曲や開放での甘さが多少はあるものの、周辺部でもしっかりと解像する。安価なのに周辺部をしっかり使えるレンズなのだ。普及価格帯のレンズとは言え、キヤノンらしい実直な作りである。
このレンズのおもしろいところは、ワイド側の樽型歪曲収差だ。あからさまに歪むのではなく、ギターアンプのオーバードライブのように、程良いブースト感がある。直線が曲線になってしまうのは確かだが、その丸みを帯びた様子がとてもナチュラルに感じられるのだ。歪曲は収差の中でも敬遠されがちなだけに、味わいのある歪曲に注目したい。
広角28ミリから55ミリの約2倍の広角ズームだ。絞り込むと四隅までしっかり結像する。ボケは滑らかでクセの少ないレンズだ。