オールドレンズ・ライフ
第23回

オールドレンズの中でもあまり注目されてこなかった「ほどよい樽型歪曲収差」を楽しむ New FD 28-55mmF3.5-4.5

かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、スマートフォンで写真を撮るのが当たり前になった近年においても、カメラ好き、写真好きの人々から「オールドレンズ」と呼ばれ親しまれています。オールドレンズは「マウントアダプター」と呼ばれるパーツを用いることで現行のカメラに装着することができます。これまでに発売された膨大な数の交換レンズの中から、自分好みのレンズを見つけるのも、オールドレンズ遊びの楽しみの一つなのです。

オールドレンズ・ライフ 2019-2020」では、オールドレンズの中でもあまり注目されてこなかった「オールドズームレンズ」を特集。一筋縄ではいかない性能や個性的な外観には、現代のレンズとは一味も二味も違う面白さがあります。

本記事ではその中の一つ、New FD 28-55mmF3.5-4.5の作例と解説を掲載します。

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オールドレンズ・ライフ 2019-2020

ブースト感のある歪曲を味わう

マウントアダプター経由でα7IIIに装着したところ。小振りのズームであることがわかる。

 

本レンズは可変絞りなので、ワイド側とテレ側で指標を色分けしている。

ズームレンズは得てして単焦点レンズより大きい。特にオールドズームは大きい鏡胴のものが多い。しかし、そうした事情も1980年代になると変化が見られる。そう、コンパクトズームの登場だ。ここで取上げるNew FD 28-55ミリF3.5-4.5は、そうした流れを汲む小型軽量な広角ズームである。

本レンズは、ヤシコンのディスタゴンT* 25ミリF2.8と似たようなサイズ感だ。こじんまりと小さく、しかも樹脂製なのでディスタゴンより遥かに軽い。ハンドリングしやすい反面、チープに見える点がマイナスポイントだろうか。しかし、侮るなかれ。このレンズ、思いの外写りがいいのだ。歪曲や開放での甘さが多少はあるものの、周辺部でもしっかりと解像する。安価なのに周辺部をしっかり使えるレンズなのだ。普及価格帯のレンズとは言え、キヤノンらしい実直な作りである。

このレンズのおもしろいところは、ワイド側の樽型歪曲収差だ。あからさまに歪むのではなく、ギターアンプのオーバードライブのように、程良いブースト感がある。直線が曲線になってしまうのは確かだが、その丸みを帯びた様子がとてもナチュラルに感じられるのだ。歪曲は収差の中でも敬遠されがちなだけに、味わいのある歪曲に注目したい。

全域マクロ機構を搭載し、ズーム全域でフィルム面から29センチでのマクロ撮影が可能だ。
樹脂製の鏡胴に大きめのローレットを備える。小型軽量な広角ズームだ。
New FDマウントを採用する。スタンダードなFDマウントアダプターに装着できる。
中段がズームリングだ。ズーミングによって鏡胴が若干伸縮する。
α7III + New FD 28-55mmF3.5-4.5 絞り優先AE F3.5 1/320秒 -0.7EV ISO100 AWB RAW 28mm パーキングの看板を掲げた鉄柱が、わずかに歪曲しているのがわかるだろうか。このさりげなく歪曲した様子に妙味がある。

広角28ミリから55ミリの約2倍の広角ズームだ。絞り込むと四隅までしっかり結像する。ボケは滑らかでクセの少ないレンズだ。

Wide: 20mm
Tele: 55mm
New FD 28-55mmF3.5-4.5 中古価格:5,000~6,000円 Canon New FD mount 1983年に登場した広角ズームだ。レンズ構成は10群10枚で、全域マクロ機構を搭載しているのが特長だ。当時の価格は35,600円だった。
FD-SαE 税別価格:19,000円 FDマウント、およびNew FDマウントのレンズをソニーEマウントボディに装着する。

オールドレンズ・ライフ 2019-2020

著者プロフィール

澤村 徹


(さわむら・てつ)
フリーライター・写真家

マウントアダプターを用いたオールドレンズ撮影、デジタルカメラのドレスアップ、デジタル赤外線写真など、ひと癖あるカメラホビーを提案している。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線撮影による作品を発表。玄光社「オールドレンズ・ライフ」の他、雑誌、書籍など数多く執筆。

書籍(玄光社):
オールドレンズ・ベストセレクション
オールドレンズ・ライフ 2017-2018
マウントアダプター解体新書
作品づくりが上達するRAW現像読本

ウェブサイト:Tetsu Sawamura official site
Twitter:@tetsu_sawamura

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