Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-
第12回

プロの物撮りテクニック〜カタログのイメージカットを想定してコーヒー器具を撮る〜

格好良い、美しい、面白い物撮影の世界をビジュアルとプロセスで紹介する連載。ライティングテクニックや見せ方のアイデアなど、ビジュアル提案を行なうためのテクニックを凸版印刷TICビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファーの南雲暁彦氏が解説します。

本記事では、カタログのイメージカットを想定したコーヒー器具の撮影をご紹介します。

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

<完成作品>

1/200s f16 ISO4000
撮影協力:中島孟世(THS) / 一山菜菜海(THS)
レタッチ:川俣麻美(THS)
ロゴデザイン:井元友香(凸版印刷)
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“今回はコーヒー器具でも特にフォトジェニックなサイフォンとウォータードリッパー(水出しコーヒー器具)を撮影。そのアウトラインとガラスの中の表情をシンプルに写し出した。”

被写体として選んだプロダクトは、コーヒー器具の中でもフォトジェニックなサイフォンとウォータードリッパー(水出しコーヒー器具)だ。ともに独特なアウトラインと、ガラス容器をメインにしたキャラクターを持つ。

メインカットはサイフォンを使用。普段家庭で使用する場合はアルコールランプを使うことが多い。柔らかいランプの光がフラスコのお湯を熱していくシーンはじーっと見続けてしまうほど魅力的なのだが、今回はより色が強く直線的に光がガラスを通るハロゲンビームヒーターを使用。フラスコからロートへお湯が駆け上がるハイライトシーンを狙う。

サイフォン抽出はコーヒーの味もさることながら、理科の実験さながらのプロセスを楽しめるのも魅力なのだ。アウトラインと、ガラスの中の表情をシンプルに写し出し、より強くそのキャラクターを感じさせるビジュアルを撮影する。

ライティング図


【使用機材】
カメラ&レンズ(ニコン)
Z 7…[1]
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED…[2]

ライト(broncolor〈アガイ商事取扱製品〉)
ストリップライト120…[3]
(ジェネレーター:スコロ3200 S)

 

撮影の流れ

今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。ライティング図と合わせて見ていこう。

1. セットを組む

コーヒーサイフォンは大きく3つのパーツから成っている。下ボールのフラスコと上ボールのロート、それを支えるアームである。今回選んだ器具はアーム肩の金属部分に独特な形状の飾りを持つちょっと珍しいものだ。さらに加熱器具はビームヒーターという豪華仕様。

ライティングはハイライトでそのアウトラインを縁取り、ガラス部分はビームヒーターの光で調節するという設計。漆黒の中に浮かび上がらせるために黒い背景とバック板を用意。ビームヒーターをセットしてその上にサイフォンを置く。アームは飾りにハイライトを入れやすくするため、またプロダクト全体のボリューム感を出すために画面上で少しフラスコと重なる様にセット、アウトラインを作るライトは左右後方に配置した。

撮影セットの様子

2. 輪郭のライティング

輪郭にハイライトを入れる照明機材は112×12cmの発光部をもつブロンカラーのストリップライト120。これでサイフォンの独特な形状の輪郭を浮かび上がらせる。サイフォンはほとんどのパーツがラウンドしているので真横からライトを当てると手前に光が回り込んでしまい、サイド面だけを細く光らせることができない。そのため少し後方からなるべくスリット状にしてライトを当てる。

基本的に今回使う照明器具はこのライト2発だけ、これでこのカットのベースは決まってしまうので、自分が作りたい表情になるようにカメラ位置とともにハイライトの入り方をしっかりと調整する。

ストリップライト120を被写体の真横よりやや後方に設置

3. ライトの調整

ガラス部分は透過した光がさらにガラスの反対内側にもハイライトを作ってしまう。これは水が入る部分は消えるが、影響が大きいのでライトのスリットを細くしてなるべくシャープにしておく。左右一発ずつライティングし、細かく位置を確認していく、特に右からのライトは、アーム肩のラウンドした飾り部分に綺麗なラインが入るようにアーム自体の角度と合わせて丁寧にライト位置を調整する。もちろん左右のバランスは崩してはいけない。

(左)左ライトのみ当てた状態 (中央)右ライトのみ当てた状態 (右)左右ライトを当てた状態

4. ビームヒーターを入れる

かなり強烈な光と熱を放つサイフォン用ビームヒーターである。これは基本的にはリフレクターの真ん中にハロゲンランプを装着して耐熱性の高い石英ガラスのフィルターでカバーしてあるというものだ。沸騰したフラスコ内の水がロートを駆け上がるときにできるオレンジ色の水柱をこのヒーターの光をメインライトに表現する。つまり水を沸騰させ、さらにライティングするという二役をこいつは担うことになる。

ビームヒーターとモデリングライトのみ当てた状態

ここで重要なのはストロボとの露出のバランスとシャッタースピードだ。ビームヒーターは出力を調整することができるのでストロボの光に負けないように最大出力にした。

ストロボを発光しないでビームヒーターだけの露出を確認

5. シャッタースピードを決める

輪郭を出すストロボと定常光のビームヒーターの組み合わせなので、シャッタースピードで表現を変えることができる。スローシンクロにすれば1秒程度で水柱は火柱のようになる。今回はストロボが作り出す気泡のシャープな輪郭とビームヒーターの作り出すオレンジ色の気泡が合わさり、躍動感と緊張感を併せ持つ表現になるように1/200秒にシャッタースピードをセットした。

6. シズルの瞬間を撮影

ガラス、水、金属、ミックスライト、しかも沸騰の瞬間を狙っての撮影と、実はかなり欲張った撮影なのだが、ライティングの設計をしていて試行錯誤の上たどり着いたのはこのようなシンプルなライティングだった。“フォルム”と“シズル”の2点の素直な追求でこのライティングは成り立っている。

沸騰の瞬間を狙って撮影

セットが決まった後はシズルの瞬間を捉えるべくシャッターチャンスに全てをかけるトライ&エラーの撮影だったが、結果、非常に印象的な写真ができ上がったと思っている。沸騰するタイミングや気泡の出方が毎回微妙に違い、そこが苦戦ポイントだったことも付け加えておこう。

完成ライティング

 

Tips

ストリップライト120
今回のライティングでは細いスリット状の光を作れて、なおかつビームヒーターの露出に合わせて微細な出力のコントロールができるライトが必要だった。ブロンカラーのストリップライト120は長辺112cm、短辺12cmの長方形のボックライトで縦長の均一な面光源を作ることができるため、まさにうってつけのライトだ。さらに専用のバーンドアを使用することで、かなり細いスリット状の光を作ることができる。映り込みがシャープなため、メリハリのあるエッジが効いた演出が可能だ。

ストリップライト120

スコロ3200 S
ジェネレーターはスコロ3200 S。最大出力3200W、最低出力3Wと調整幅が広く今回のような微細なミックスライト(ビームヒーター)との露出合わせを可能にする。毎回思うが、スコロがあればどんな撮影でも対応できるという安心感がある。

スコロ3200 S

Z 7 + AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED
カメラはニコンフルサイズミラーレス機のZ 7を使用。4575万画素という高画素機であるが最新の機材だけあって今回のようにISO4000でも充分常用感度として使用できる。高画素機につきもののブレに関してもミラーレスのためミラーショックがないのは当然だが、フォーカルプレーンシャッターによるショックも抑えられていてブレを気にすることなく撮影することができた。なにより、Z 7が秀でていると感じたのがEVFファインダーの自然な見え方だ。光学ファインダーとの違和感が少なく、ブツ撮り以外のシーンでも使いやすいカメラだ。

Z 7 + AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED

バリエーション

セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。

30s f11 ISO100  ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示

バリエーションカットの被写体は、ウォータードリッパー(水出しコーヒー器具)にした。これもフォルムとシズルを意識したビジュアルを目指す。

水出しコーヒーといえば抽出に気の遠くなるような時間を費やし、コーヒー専門店で通常の倍近い金額を払って飲むものだったが、最近家庭用のウォータードリッパーも色々とお目見えし身近なものになってきている。このドリッパーは中でも非常に美しい造形を持ち、“淹れる”ことも楽しめる、インテリア性の高いプロダクトである。

撮影手法はメインカットと同じくストリップライト120で輪郭を出す。ビームヒーターの代わりに、ガラスの下にLEDを仕込むことでコーヒーを見せることにした。

今回プロダクトのイメージカットとしてコーヒー器具を選んだのは、今まで僕が見たサイフォンやウォータードリッパーの写真にあまりかっこいい写真が見当たらなかったからだ。好きこそ物の上手なれ、ではないが僕は簡単に言ってしまうとコーヒーが趣味のひとつで、コーヒー器具の美しさや抽出の楽しさを表現できるようなビジュアルがもっと世の中にあっても良いのに、と思っている。

 

Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

コマーシャル・フォト 2019年11月号

著者プロフィール

南雲暁彦

(なぐも・あきひこ)
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷(株)TICビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー。「匠」エキスパートクリエイター。コマーシャルフォトを中心に映像制作、執筆、セミナー講師なども行う。海外ロケを得意とし、世界300以上の都市で撮影実績を持つ。APA広告年鑑、全国カタログ・ポスター展グランプリなど国内外で受賞歴多数。APA会員。知的財産管理技能士。長岡造形大学非常勤講師。

著書「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」2019年10月28日発売

様々な広告撮影の現場で活躍するフォトグラファー南雲暁彦氏が、月刊コマーシャル・フォトにて連載していた、ブツ撮りテクニック企画「Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-」をまとめたものです。

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