Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-
第11回

iPhone XSで撮る!フォトグラファーの南雲暁彦氏によるプロのライティングテクニック

格好良い、美しい、面白い物撮影の世界をビジュアルとプロセスで紹介する連載。ライティングテクニックや見せ方のアイデアなど、ビジュアル提案を行なうためのテクニックを凸版印刷TICビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファーの南雲暁彦氏が解説します。

本記事では、広告媒体のキービジュアルを想定したスニーカーの撮影をご紹介します。

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

<完成作品>

1/400s f1.8 ISO25
撮影協力:中島孟世(THS)
ロゴデザイン:井元友香(凸版印刷)
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“1979年リリースの名作バスケットシューズ「TOP TEN HI」の復刻版をiPhone XSで撮影し、カッコ良い広告作品に仕立てみた。”

今回の被写体は、アディダスの「TOP TEN HI」というバスケットシューズ。1979年に当時のプロバスケットボールプレイヤー10人の意見を取り入れたモデルだ。その後様々なバリエーションを産みながらロングセラーを続け、2019年まで生き残っている。今回のモデルは1979年当時のオリジナルカラーを忠実に復刻したもので、これが非常にリアルなのだ(私は小学生の時にオリジナリルに触れている)。

40年も前に生み出されたものが、ほとんど形を変えずに存在していることに感心せずにはいられない。自動車などでも当時の名車のリバイバルは良くあるが、今の時代に合わせて似た形の違うものになっている。スニーカーはそういう意味では特殊である。他にももっと古いモデルが現存するが、今回はこの懐かしさ半端ない伝説のバッシュを広告作品に仕立て上げるべくカッコ良く撮影する。

ライティング図


【使用機材】
カメラ&レンズ(Apple)
iPhone XS…[1]

ライト(broncolor〈アガイ商事取扱製品〉)
HMI 575.800…[2]

アクセサリー(broncolor〈アガイ商事取扱製品〉)
P70リフレクター…[3]

 

撮影の流れ

今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。ライティング図と合わせて見ていこう。

1. 被写体の選定

オリジナルのデザインを何十年もキープし、今まだ手に入れることができるスニーカーを集めてどれがフォトジェニックかを見比べた。主に70~80年代生まれの名作ぞろいである。カントリーやスタンミスと言えばご存知の方も多いだろう。年代を超えこの時代まで生き残り、ファッションアイテムとして確固たる地位を築いたデザインはそれだけの魅力があるということだ。時代時代で色々な撮られ方をし、広告や雑誌に登場してきたが今回は最も現代的と思われる撮り方で表現してみたいと思う。

選んだスニーカーにクリームを塗り、揉みほぐし、美しいスタイルになる様にフォルムを整えてセッティングに入る。

筆者が所有するスニーカーコレクション

2. セットを組む

「TOP TEN HI」はバスケットシューズである。アウトソールのパターンを見せてグリップ力を感じさせつつ、選手とともにジャンプしているイメージを出すために少し浮かせるセッティングにした。今やファションアイテムだが元のイメージがあればこそなのである。テグスを2本上下に張り、そこにのせる。テグスの角度やテンションはコントロール可能なので絶妙なアングル調整が可能だ。

背景の下面は本体の邪魔をしないさらっとした影を落とすために白ケント紙を敷き、背面はアートレを垂らして後ろから光を入れられるようにする。カメラ位置は正面下方からアッパー気味にセット。広角レンズでパースを効かせつつスニーカーのフォルムが崩れ過ぎないギリギリを狙う。

ライティングと画像処理に極力影響が出ないテグスを使用

3. バックライトの調整

アートレ越しに2発のライトを入れ、画像背景の明るさとスニーカーのエッジにもれる光を作っていく。基本的には背景は白飛ばしだが、強くし過ぎると下に落とす影が薄くなるし、スニーカーのエッジが食われてしまうので丁寧に場所と距離を調整。またこのライトの調整で下に敷いた白ケント紙と背面のアートレとの継ぎ目も馴染ませることができる。

白ケント紙とアートレの継ぎ目が馴染むようにライトを調整
バックライトのみ当てた状態

4. メインライトを調整する

トップから逆光気味にメインライトを入れる。「TOP TEN HI」の一番特徴的なポイントである赤いピンストライプから立ち上がる紺色の足首のサポート部分に強目のハイライトを入れコントラストをしっかりと作る。アッパー部分はこれ以上ハイライトを入れず、しっとりと高級感を感じる様になだらかに明るさを落としていく。また影の位置もこのライトで決まるので、合わせてバランスの取れる位置に調整する。

影の位置とハイライトと立体感を見極めて位置を決める
バックライトとメインライトのみ当てた状態

 

Tips

HMI 575.800 + P70リフレクター
HMIといえば大きい、重い、熱い、光が安定するのに時間がかかるといった若干ネガティブな印象が強かった(大光量の定常光が必要なシーンでは、必ずと言っていいほどHMIに頼っているのだが)が、このブロンカラーのHMIは大きさ、重さと安定するまでの速さにおいてはそんなネガティブな印象を払拭してくれる。しかも、リフレクターやソフトボックスなど豊富なアクセサリー類と互換性がある。軽量による設置の自由度の高さ、アクセサリーによるライティングバリエーションの豊富さはスチル撮影のシビアなライティングにも対応できるし、動画撮影を同時に行なう現場などでは有効な選択肢のひとつと言える。

5. アウトソールのディテールを出し、全体の立体感を構築

メインライトの光を凹面鏡で集光させた強い光で反射。アウトソールに当てて高いコントラストでディテールを掘り起こしていく。集光させるため、反射面積が少なくなるので5枚の鏡を使って明るい部分をつなぎ、全体的に光を当てていく。キャタピラの様な力強いアウトソールとアディダスの三つ葉マーク(トレフォイル)が浮かび上がり、立体感の強い「TOP TEN HI」の魅力が凝縮されたビジュアルが完成した。

ソールのハイライトを繋げるためにミラーを5つ使用
ライティングが完成した状態

 

Tips

iPhone XS
カメラと言っていいのかどうか。今回の撮影機材はなんと「iPhone XS」である。プロフォトグラファーの間でさえ、最近の「iPhone」の写真表現は話題になることがしばしば。では、どこまでその特性を引き出せるか実践すべくこの選択をした。

iPhone XS

「iPhone XS」のカメラは広角側f1.8固定、焦点距離4.3mmで35mm換算で26mm相当。望遠側がf2.4固定、焦点距離6mmで35mm換算52mm相当となり、ともに1200万画素だ。この広角側は歪曲補正の賜物とでもいうべき周辺が伸ばされた強烈なパースを持っており、通常の26mmでは太刀打ちできないダイナミックな写真を撮ることができる。

またスペックはさておき、画像エンジンの巧みさも本当に目を見張るものがあり、色再現、ダイナミックレンジの使い方などこの小さなセンサーでよくぞここまでという絵が出てくる。

iPhone XSで撮影した別カット

TwistGripスマートフォンアダプター
「iPhone XS」の固定にはマンフロットの「TwistGripスマートフォンアダプター」を使用。三脚穴とクイックシューのマウントが付いている。コの字型をしているが使わないときはフラットになり、携帯性も良好という優れもの。

TwistGripスマートフォンアダプター

ProCam 6
撮影アプリは「ProCam 6」を使用。これでなんとDNGフォーマットのRAWの撮影ができるのだ。「iPhone XS」は絞りが固定なので、露出はシャッタースピードと感度で行なうのだが、ホワイトバランスなども含め任意の値にコントロールすることができる。低感度に設定できるのが画質向上の最大の利点(広角側ISO16、望遠でISO25が最低感度)。スタジオでたっぷり光を与え低感度で撮影を行なえばかなりの高画質化が望める。ISO100で撮影したものと比べてみたが、ノイズ量、解像感とも比べ物にならなかった。

ProCam 6の画面

バリエーション

セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。

1/320s f2.4 ISO16  ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示

こちらは1950年にオリジナルを発する名作「SAMBA」の別注ホワイトモデルである。「SAMBA」は現存するアディダスシューズの中でも最も古いモデルのひとつで、ロングセラー甚だしいスタンダード中のスタンダードなスニーカーだ。写真は白い背景に白いスニーカーをレイアウトし端正なビジュアルに仕上げ、そもそもサッカーシューズであった「SANBA」をファッションアイテムとして昇華させるように撮影した。

メインカットは通常の広角側f1.8(絞り固定)で撮影。その独特のパースを生かした画面構成を行なったが、バリエーションカットは望遠側f2.4(絞り固定)を使用し自然な画角での撮影を行なった。こちらも「ProCam 6」を使用してRAWで撮影(現像はAdobe Camera Raw)。感度も最低感度に設定(広角側ISO16、望遠側ISO25)して最高画質を狙った。

結果、「ここまでいけてしまうのか…」という仕上がりに。自分で自分の首を絞めているような気にもなったが、見て見ぬ振りをするのもどうかと思い、実践に踏み切った。プロフォトグラファーの皆さんも実は気になっていたはずである。

 

Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

コマーシャル・フォト 2019年11月号

著者プロフィール

南雲暁彦

(なぐも・あきひこ)
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷(株)TICビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー。「匠」エキスパートクリエイター。コマーシャルフォトを中心に映像制作、執筆、セミナー講師なども行う。海外ロケを得意とし、世界300以上の都市で撮影実績を持つ。APA広告年鑑、全国カタログ・ポスター展グランプリなど国内外で受賞歴多数。APA会員。知的財産管理技能士。長岡造形大学非常勤講師。

著書「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」2019年10月28日発売

様々な広告撮影の現場で活躍するフォトグラファー南雲暁彦氏が、月刊コマーシャル・フォトにて連載していた、ブツ撮りテクニック企画「Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-」をまとめたものです。

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