Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-
第10回

カラフルなパウダーが舞う瞬間のライティング撮影

格好良い、美しい、面白い物撮影の世界をビジュアルとプロセスで紹介する連載。ライティングテクニックや見せ方のアイデアなど、ビジュアル提案を行なうためのテクニックを凸版印刷TICビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファーの南雲暁彦氏が解説します。

本記事では、カラフルなパウダーが舞う瞬間のライティング撮影をご紹介します。

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<完成作品>

1/100s f22 ISO200
撮影協力:中島孟世(THS)
レタッチ:川俣麻美(THS)
ロゴデザイン:井元友香(凸版印刷)
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“今回は、肉眼ではほとんど見ることのできないカラフルなパウダーが舞う瞬間を撮影し、ハッとさせる美しさを持った「凄くて綺麗な作品」を目指した。”

肉眼ではほとんど見ることのできない瞬間の世界には、驚きに満ちた美しさが存在することがある。今回はカラフルなパウダーが舞う瞬間を止め、見るものをハッとさせる美しさを持ったビジュアル制作を目指した。

暗闇の中に浮かび上がるパウダーの舞いに花をあしらった画面構成を行ない、スタジオ撮影ならではのテクニックに満ち溢れた「凄くて綺麗」な作品になったはず。もちろん一発撮りである。

フィルムの時代であれば現像まで、どう写っているのか全くわからなかったことを思うと、こういったエキセントリックな撮影もハードルが下がったのではないかと思う。ブラシを擦り上げるときの微妙な力加減や、ブラシへの乗せ方で舞い方が変わるパウダーに苦心しつつも、美しさを生み出すために何度も挑戦する気持ちが生まれるのは今の時代の撮影システムのおかげだろう。

ライティング図


【使用機材】
カメラ&レンズ(Canon)
EOS-1D X Mark II…[1]
TS-E135mm F4L マクロ…[2]

ストロボ(Profoto)
Proヘッド プラス…[3]
(ジェネレーター:Pro-10)

アクセサリー(Profoto)
RFi ソフトボックス 30×40cm…[4]
ズームリフレクター…[5]
グリッド 180mm…[6]
Air Remote TTL-C…[7]

 

撮影の流れ

今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。ライティング図と合わせて見ていこう。

1. セットを組む

花の後ろに距離をとって黒布を広げ、余計な反射を避けた黒く沈み込む背景を作る。花をまっすぐに立てて固定し、その手前にブラシをセッティングする。パウダーが飛び散ることを想定してワーキングディスタンスを取るためにTS-E135mm F4 Lマクロを使用し、あおりを効かせてフォーカスをブラシと花の両方に来るように調整する。

花の後に黒布を垂らし反射を避ける

まずはトップライトをバンクで組み、花全体を浮かび上がらせつつ、ブラシの先端が光る感じを出す。パウダー用のライトはグリッドを使用。左右からそれぞれのブラシに当てられるように2灯用意し、サイドから逆光気味でセットする。パウダーの飛び散る位置を想定したライティングなので、この状態では本当に効かせたいところは見えていない。花びらのエッジにもライトを効かせ、光るであろうパウダーに負けない立体感を作っておく。

バンク1灯、グリッド2灯でライティング

2. パウダーの動きを想定したライティング

今回の主役は舞い踊るパウダーなので、基本的にそれを想定したライティングとなる。トップのバンクは下地であり、芯のあるグリッドはパウダーを目がけてセットする。

(左)トップのバンクのみ (中央)左のグリッドのみ (右)右のグリッドのみ

3. ブラシを固定してセッティング

ブラシは同じ場所で擦り合わせることができるようにブームの先端に付けて回転軸を固定、これはフォーカスとライティングの位置決めのために非常に重要。基本的に人力で筆を動かすのでパウダーの舞いは毎回少しずつ違う表情になるのだが、フォーカスとライティングはしっかり押さえておく必要があるのだ。これをやっておけばパウダーの動きを見ながらグリッドの微調整を行ない、ベストを探ることができる。

ブラシを固定してフォーカスとライティングを決める
ライティングが完成した状態

4. ブラシの動きとレリーズのタイミングを合わせる

ハイスピードストロボと高速連写が可能なカメラのコラボなので、なかなかドラマチックな暗闇に浮かび上がるシークエンスを見ながら撮影することができる。セットができてしまえばあとは撮りまくるだけなのだが、パウダーをブラシに付け直す作業が毎回大変なので、一回一回大事に、かなり真剣に息を合わせての撮影になる。

しかし、ブラシやパウダーといった繊細で微細な物の動きは100パーセントコントロール下に置くことは叶わず、逆にそれが撮影の面白さ、ビジュアルの神聖さのエッセンスになる。

ワンシークエンスのなかで撮影された画像

Tips

今回の機材はストロボ高速連写の最強ユニットとも言えるProfoto「Pro-10」とCanon「EOS- 1D X Mark II」の組み合わせである。

Pro-10

「Pro-10」は最高1/80,000秒の閃光時間で瞬間を切り取り、秒間50コマまでの撮影に対応する。今回はかなり絞りを深くし、感度も上げたくなかったので1/20,000秒程度の閃光時間、約10コマ/秒で撮影した。

EOS-1D X Mark II

レリーズタイムラグの少ない「EOS-1D X Mark II」はこういった撮影で非常に頼もしい。また画素数が抑えられているのでダイナミックレンジも広く発光感を演出した被写体も高画質に表現してくれる。A3程度までなら最高レベルの画質を叩き出してくれるので、TS-Eレンズを装着した「EOS-1D X Mark II」は物撮りカメラとしても最強の部類に入ると思っている。

熊野筆と蛍光顔料

ブラシは高品質なリスの毛を使用した熊野筆を使ってみた。また、パウダーには発光感を出すために蛍光顔料を使用した。かなり細かいので撮影時は強力な防塵マスクが必要だ。

バリエーション

セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。

1/100s f22 ISO200  ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示

サブカットでは花は白、パウダーは赤と青という反対色を選択。水中でパウダーが漂うようなイメージを狙った。

暗闇に白い花が貝のように佇み、画面に落ち着きを持たせ、ブラシとパウダーの赤と青は熱帯魚のベタを連想させる。ブラシ同士が擦れ合いまだギリギリ接触している状態だが、上下に真っ直ぐ伸びるように飛び散る瞬間が撮影できた。パウダーは飛び散るというより、煙のようにブラシから離れて行くような動きだったので水中感が良く出た。

またパウダーとブラシで4分割された画面はデザイン的な面白さも作り出している。僕には美しい花を奪い合うように拮抗した力を持つ者がぶつかり合っているようにも見えた。瞬間の世界には様々な物語が眠っている。

 


コマーシャル・フォト 2019年11月号

著者プロフィール

南雲暁彦

(なぐも・あきひこ)
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷(株)TICビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー。「匠」エキスパートクリエイター。コマーシャルフォトを中心に映像制作、執筆、セミナー講師なども行う。海外ロケを得意とし、世界300以上の都市で撮影実績を持つ。APA広告年鑑、全国カタログ・ポスター展グランプリなど国内外で受賞歴多数。APA会員。知的財産管理技能士。長岡造形大学非常勤講師。

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