オールドレンズ・ライフ
第22回

現行カメラで追体験する、半世紀前の普及ズーム 日本光学 Zoom-Nikkor Auto 43-86mmF3.5

かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、スマートフォンで写真を撮るのが当たり前になった近年においても、カメラ好き、写真好きの人々から「オールドレンズ」と呼ばれ親しまれています。オールドレンズは「マウントアダプター」と呼ばれるパーツを用いることで現行のカメラに装着することができます。これまでに発売された膨大な数の交換レンズの中から、自分好みのレンズを見つけるのも、オールドレンズ遊びの楽しみの一つなのです。

オールドレンズ・ライフ 2019-2020」では、オールドレンズの中でもあまり注目されてこなかった「オールドズームレンズ」を特集。一筋縄ではいかない性能や個性的な外観には、現代のレンズとは一味も二味も違う面白さがあります。

本記事ではその中の一つ、Zoom-Nikkor Auto 43-86mmF3.5の作例と解説を掲載します。

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オールドレンズ・ライフ 2019-2020

ヨンサンハチロクはメーカーの良心

通称ヒゲと呼ばれる被写界深度目盛り。逆さまにすると放射状に広がる様が美しい。

ズーマー36-82ミリF2.8の登場から4年たった1963年、日本初の標準ズーム、ズームニッコールオート43-86ミリF3.5が現れた。開放F値はズーマーより半段ほど暗いが、小型軽量でハンドリングしやすく、実用性の高いズームレンズだ。当時、このズームレンズは「ヨンサンハチロク」の愛称で親しまれ、普及価格帯で販売されたこともあり、ニコンユーザーの間ではポピュラーなレンズだった。

そんなに人気ならさぞ高描写かと思いきや、画質に関しては価格相応と言ったところだ。まず歪曲収差が顕著で、ワイド側では樽型歪曲収差が、テレ側では糸巻き型歪曲収差が発生する。解像力については絞ってもさほどシャープにならず、当然のように周辺部の解像力は甘い。初期のものはシングルコーティングだったこともあり、フレアやゴーストが発生しやすかった。

こう列挙するとあまり良いところが見受けられないが、1段ほど絞ればそこそこ手堅い写りをする。それでいてズームという画角変更の恩恵に与れるわけだから、コストパフォーマンスの良いレンズだ。ズームを普及させたいというメーカーの思いが伝わってくるようなレンズであり、さながらキットズームレンズの走りと言えるだろう。

最短撮影距離は1.2メートル。テレ側はさておき、ワイド側はもう少し寄りたくなる。
鏡胴を前後してズーミングする。側面に焦点距離が刻まれている。
ニコンFマウントレンズの象徴とも言えるカニ爪を搭載する。
焦点距離の数字をつなげ、ヨンサンハチロクの愛称で親しまれてきた。
初期のヨンサンハチロク(写真左)は先端がシルバーでシングルコーティングだった。
α7III + Zoom-Nikkor Auto 43-86mmF3.5 絞り優先AE F3.5 1/60秒 -0.7EV ISO100 AWB RAW 70mm テレ側で撮影したところ、糸巻き型歪曲収差が顕著に表れた。開放描写は柔らかく、ズーマーに負けず劣らずクセが強い。

遠景だとあまり気にならないが、歪曲収差がそれなりに発生する。中心部はシャープで、周辺部はF8まで絞り込んでも甘さが残る。

Wide: 43mm
Tele: 86mm
α7III + Zoom-Nikkor Auto 43-86mmF3.5 絞り優先AE F4 1/200秒 -0.7EV ISO100 AWB RAW 86mm F4まで絞っても甘さが残り、うっすらと滲みをともなう。シャープさが感じられるのはF5.6以降だ。
Zoom-Nikkor Auto 43-86mmF3.5 中古価格:3,000~6,000円 Nikon F mount 1963年に登場した普及価格帯の標準2倍ズームだ。レンズ構成は7群9枚で、シングルコーティングを施す。標準ズームとしては国内初の製品だ。
KF-NFE2 税別価格:3,500円 ニコンFマウントのレンズをソニーEマウントボディに装着。スタンダードなマウントアダプターだ。

オールドレンズ・ライフ 2019-2020

著者プロフィール

澤村 徹


(さわむら・てつ)
フリーライター・写真家

マウントアダプターを用いたオールドレンズ撮影、デジタルカメラのドレスアップ、デジタル赤外線写真など、ひと癖あるカメラホビーを提案している。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線撮影による作品を発表。玄光社「オールドレンズ・ライフ」の他、雑誌、書籍など数多く執筆。

書籍(玄光社):
オールドレンズ・ベストセレクション
オールドレンズ・ライフ 2017-2018
マウントアダプター解体新書
作品づくりが上達するRAW現像読本

ウェブサイト:Tetsu Sawamura official site
Twitter:@tetsu_sawamura

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