かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、スマートフォンで写真を撮るのが当たり前になった近年においても、カメラ好き、写真好きの人々から「オールドレンズ」と呼ばれ親しまれています。オールドレンズは「マウントアダプター」と呼ばれるパーツを用いることで現行のカメラに装着することができます。これまでに発売された膨大な数の交換レンズの中から、自分好みのレンズを見つけるのも、オールドレンズ遊びの楽しみの一つなのです。
「オールドレンズ・ライフ 2019-2020」では、オールドレンズの中でもあまり注目されてこなかった「オールドズームレンズ」を特集。一筋縄ではいかない性能や個性的な外観には、現代のレンズとは一味も二味も違う面白さがあります。
本記事ではその中の一つ、Zoom-Nikkor Auto 43-86mmF3.5の作例と解説を掲載します。
ヨンサンハチロクはメーカーの良心
ズーマー36-82ミリF2.8の登場から4年たった1963年、日本初の標準ズーム、ズームニッコールオート43-86ミリF3.5が現れた。開放F値はズーマーより半段ほど暗いが、小型軽量でハンドリングしやすく、実用性の高いズームレンズだ。当時、このズームレンズは「ヨンサンハチロク」の愛称で親しまれ、普及価格帯で販売されたこともあり、ニコンユーザーの間ではポピュラーなレンズだった。
そんなに人気ならさぞ高描写かと思いきや、画質に関しては価格相応と言ったところだ。まず歪曲収差が顕著で、ワイド側では樽型歪曲収差が、テレ側では糸巻き型歪曲収差が発生する。解像力については絞ってもさほどシャープにならず、当然のように周辺部の解像力は甘い。初期のものはシングルコーティングだったこともあり、フレアやゴーストが発生しやすかった。
こう列挙するとあまり良いところが見受けられないが、1段ほど絞ればそこそこ手堅い写りをする。それでいてズームという画角変更の恩恵に与れるわけだから、コストパフォーマンスの良いレンズだ。ズームを普及させたいというメーカーの思いが伝わってくるようなレンズであり、さながらキットズームレンズの走りと言えるだろう。
遠景だとあまり気にならないが、歪曲収差がそれなりに発生する。中心部はシャープで、周辺部はF8まで絞り込んでも甘さが残る。